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水曜日の柳葉敏郎

[ShortNote:2020.3.11]

 個人的に一番好きな曜日なのですが(相棒とか水曜どうでしょうとかあるし……)、ここに入る作品は今のところまだ2つしか観ていません。しかしその2つがあまりにも対極的なので振り幅がすごい曜日と言えるかもしれません。共通点といえば「ちょっとバイオレンス」と闇堕ち問題(後述)くらいです。


●21:00台

・キツイ奴ら(1989年/TBS)

 まず最初に申し上げておくと金属バットというのはそういう風に使うものではありません。ありませんが、きいたん(ギバクラが勝手につけた愛称です)にはふさわしいと思います。どことなく少年っぽさがあるんですよね。夜の校舎窓ガラス壊して回るみたいな青さ。これがゴルフクラブだったらいい年した本物のヤクザになってしまいます。別にそんなに悪い子でもないのにヤケを起こしてめちゃくちゃに暴れ回るあの感じが出ません。

 主人公コンビの借金を取り立てるきいたん率いる善福興業、表向きはもうヤクザではないはずなんですがどう見てもまだヤクザでしかありません。しかしその若親分であるところのきいたんはなぜかいい子です。一回逃げようとした2人に対する怒りも「払えないなら言ってくれれば待つよ!」みたいな方向性だし、新喜劇に出てくるヤクザよりマイルドです。ただ彼自身はヤクザの二代目なのに一度も刑務所に入ったことがないのをコンプレックスに感じていてどうにか収監されたがっています。斬新なコンプレックスだな。でもヤクザの世界では前科=ハクなので妥当な悩みなのかもしれません。しかし何か起こしても結局事件にならなくて捕まることもありません。彼自身は「悪い子」になりたがってるけど自分の中の動かしがたい根本的な「善」の性質に邪魔されるわけですね。闇堕ちしたいのにできない。これも新しいパターンかもしれません。

 さらにお母さんに頭が上がらなくておしりペンペンされたり、かつての幼なじみに服従させられてボコボコにされたり、高校卒業時に先生から「どこの大学にも行けない」と言われたほどのバカだったり情けない(でもかわいい)ところが多いですが、好きな人の前で照れてしまったり前述のように情に厚かったり、お母さんからも「いいところあるんですよ」と評されたり、人として大事なものをしっかり持っています。応援したくなります。幸せになってほしい。そしてラストの爽快感がギバちゃんのドラマの中でもトップクラス。まさに大団円です。余談ですが、この作品は昭和と平成をまたいだドラマでもあります。


・沙粧妙子 最後の事件(1995年/フジテレビ)

 あの「トリビアの泉」と同じ枠の「トリビアの泉」に引けを取らない怖さを持つドラマです。トリビアの恐ろしさについてはまた改めて書きたいと思いますが、一番怖いのは人間系のサイコスリラーサスペンス刑事ドラマです。

 ここで主人公の沙粧妙子さんとコンビを組む新米刑事の松岡くんの立ち位置を他の作品で例えると、「嘘つきみーくんと壊れたまーちゃん」で言うところのゆずゆずです。全員だいぶおかしい中で唯一まともな人です。いやゆずゆずも彼女だけ見れば十分変わってるかもしれないけど少なくともまっとうな感覚の持ち主。それがメインの立ち位置にいるので、自然と観ている側も松岡くんの視点に誘導されていきます。そんな柳葉界の伏見柚々こと松岡くんですが、かなりイッてしまっている沙粧さんに振り回されつつドン引きしつつ多少コンビらしくなっていきます。そして婚約者とラブラブで(彼女とのキスシーンが個人的にはベストオブキスだと思います)幸せそうで、このまま新米刑事の成長物語みたいになればよかったんですがこの作品はサイコスリラーサスペンスなのでそれを許してくれません。猟奇殺人が立て続けに起こるしそれを裏で操る黒幕が松岡くんを狙ってきます。といっても彼を殺すとかそういうことではなくて、彼の中にあるであろう「悪意」が狙われます。

 一番闇堕ちが怖いのは警察官なんじゃないかと思うんですが、心の中にある正義感が強ければ強いほどそれが反転してしまった時が恐ろしい。そもそも初めから闇にいる人は闇堕ちしないので、光に満ち溢れた人がそうなった時どうなるかっていうことですよね。
 
 松岡くんは純粋で優しくて幸せの中にいて人の悪意に触れた経験もほとんどなくて、自分は誰に何を言われても人を殺すことなんかないって言うのでフラグが立ちまくっています。フラグであることがわかっているのでこちらとしては嫌な予感しかしないわけですが、それでもなんとか打ち勝ってほしいという気持ちにもなります。「キツイ奴ら」のきいたんは闇堕ちしたくてもできませんでしたが、同じ水曜組の彼は果たしてどうでしょうか。危機が去ったと思えばまたやってきたり、全然気が休まりません。特に終盤の展開はかなり爪痕を残していきます。ものすごく気分が落ち込んでいる時とかにはあんまりおすすめできません。ただこのジャンルとしてはかなり面白いので大丈夫な人にはおすすめです。音楽もいいです。あと佐野史郎さんが怖いです。だいたい佐野史郎さんは怖い役のイメージが強いですが特にこれは怖いです。素の佐野さんはキュートでいい人なのは十分知っていますがそれにしても怖い。容疑者室井慎次といいギバちゃんと対戦するといつも優位に立ちますね。

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