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石坂金田一シリーズを褒め称える会 #2:悪魔の手毬唄(1977) 

 今回も全然新鮮な感想じゃないのと、前にも増してネタバレしております。ネタバレしかない。

石坂金田一、かわいすぎる(2回目)


 かわいいこともフェアリーであることも犬神家の回でさんざん言ったのでもう言う必要はないかと思いきや、今回は今回でまた別の種類のかわいさを投げつけてきたのでまた書かざるを得ない。犬神家のかわいさがストレートなら手毬唄のかわいさは変化球。

 まずなんといってもビジュアル。季節が(原作とは逆に)冬なので、全体的にもふもふしている。髪の毛もボリュームアップしたしいつもの袴スタイルにマントが加わりました。いよいよでかい犬に見えてしまう。

 そんな金田一さん(冬毛)はまたしても序盤からぶちかましてくれます。ブレーキが壊れてると言われたのにもかかわらずなぜかその自転車に乗るというチャレンジャーなのか人の話を聞いていないのかよくわからない行動に出る金田一さん。案の定止まれずにクラッシュし微妙にダメージを負う金田一さん。だいぶ後のシーンでうまく停められなかったのか自転車をガシャーンと横倒しにするのもかわいい。全体的に扱いが難。もっと自転車にも優しくしてあげて!

 そして息つく暇もなくぶちこまれる金田一さんのサービスシーン。温泉宿だから当たり前とはいえ初見時は動揺のあまり机の上のものを全部落としそうになりました。石坂浩二は脱がないもんだとなぜか勝手に思ってたよ。柳葉敏郎のおかげで推しがいきなり脱ぐのには慣れている(?)んですけども。

 手毬唄の金田一さんかわいいポイントはこれだけではありません。井筒屋のおいとさんや由良家のご隠居の五百子さん、神戸在住の楽士の野呂さんとフリーダムでマイペースな関係者たちに振り回されるのがとにかくかわいい。会話のペースに呑まれたり手毬唄を一番ずつ(しかももう殺人に使われた後)しか思い出してもらえなかったり青柳洋次郎の写真を出せって言ってるのに自分の写真ばっかり出されたり(あからさまに呆れる金田一さんがまたいい)。この人は本当に困ったり弱ったりしているのが似合うので、ぜひみなさんどしどし振り回してあげてほしい。私が喜びます。

これはバディムービーなのでは?

 手毬唄における金田一さんの魅力を大いに引き出してくれているのが、彼の「相棒」たる磯川警部でしょう。原作だといろんなところで登場して金田一さんと名コンビぶりを発揮するキャラクターですが、この映画シリーズでは初めから金田一さんの知り合いとして登場するのはこの人と病院坂の推理作家の先生(演-横溝正史)だけです。孤独な人なんですね。しかし孤独だからこそここでの磯川警部との気心知れた名コンビぶりがいっそう胸にしみる。磯川警部が「この人は優しいから」って言っただけで泣きそうになる。そうなんだよ……金田一さんは優しいんだよ………。「この人は変わりもんじゃけぇ」とも言ってましたけど。変わりもんでもある。それを言われた時の金田一さんの顔も好き。このバディはふとしたところに信頼感の強さがにじみ出ている。

 この2人の象徴的なシーンといえばやはり自転車二人乗りのシーン。原作にもあるシーンですが映像で、しかも石坂浩二と若山富三郎にやられるとまぶしすぎる。動揺のあまりまた机の上のものを全部落としそうになりました。本当に仲がいいんだなあ。これは五百子さんが手毬唄を聞いてほしいと言ったため由良家に行く途中のシーンなのですが、磯川警部が自分も聞きに行くと言って腰を上げた時ちょっと嬉しそうな顔をする金田一さんがたまらなく好き。いいコンビだ。

 そんな2人ですがやはりそうはいっても殺人事件を追う私立探偵と警察官であるだけにニコニコほのぼの和やかシーンだけではありません。総社の街から急いで帰ってきた金田一さんと一足先に現場に来た磯川警部の放庵宅でのシーンがカッコよすぎる。プロとプロって感じ。これぞバディ。ヤマトリカブトから金田一さんを守ってくれる磯川警部もカッコいい。それにしても「お庄屋殺し」というネーミングはイケている。

 いつも経験豊富で論理的なのにリカさんが犯人かもしれないと示唆されただけで冷静さを失って怒る磯川警部に負けずきっぱり言い返す金田一さんもプロらしくてカッコいい。やはりただのぽわぽわフェアリーではない。それもこれもみんな2人の信頼関係があってこそ。この2人が出会った事件がものすごく気になる。よっぽどお互いに感銘を受けるような出来事があったんでしょうね。

「泣ける金田一」


 見ればわかりますがこの作品はとにかく泣ける。原作はどちらかというと血の因果がもたらした陰鬱とな惨劇という印象だったけども、映画はどうしようもない愛が引き起こした悲劇という印象の方が強い。原作では大空ゆかり(映画では千恵ちゃん)を嫌っている陰気なおばさんだったお幹さんが明るいキャラになってたりするのも、原作にあったギスギスした村の雰囲気を薄めて哀愁を引き立てるためだったんではないでしょうか。リカさんも原作より哀しい女、哀しい母親になっているし、そんな彼女を思う磯川警部の切なさも増している。

 個人的に一番印象的だったのは妹と恋人を殺した犯人の顔を見ようとする歌名雑を止める磯川警部に「歌名雄くんの好きなようにさせてあげたらどうでしょうか」って言う金田一さん。犯人が母だったという真実を知らずに生きていくことはできないし、その真実にきちんと向き合わせてあげなくてはならない。それがたとえどんなに絶望的なものであったとしても。それが生きている人間の責務。そういうことが言える金田一さんが好き。やっぱり磯川警部の言通り優しいんだよこの人は……。

日本映画史上に残るラストシーン

 そして事件終結後の駅での一コマ。「必要経費だけいただきます」と謝礼を断るやりとりにもキュンとします。ラスト、別れのシーンで磯川警部に「磯川さん、あなたリカさんを愛してらしたんですね」と言う金田一さん。動き出す汽車。ホームに一人残される磯川警部。森の中を行く汽車。「終」。あまりにも美しく余韻を残すラストシーン。

 あの問いかけを汽車が動き出してからするのが素晴らしい。金田一さんは磯川警部の答えを求めてはいなかったんですね。いわば観客に向けての問いかけ。磯川警部の答えはイエスでもノーでもノーコメントでもどんな種類でも必要ない。答えないことによって完成される磯川警部のダンディズム。愛ゆえに弱くなってしまうところも、思いを誰にも明かさず胸にしまって貫き通す強いところも内包した若山さんの磯川警部だからこそあのラストシーンはあれほどまでに美しい。これでマイ・ベスト・オブ・ラストシーン邦画部門暫定1位に踊り出ましたがきっと確定1位になる気がする。ちなみに洋画部門暫定1位は「善き人のためのソナタ」。

その他もろもろ

今回の金田一さん(と磯川警部)以外で好きなキャラクター


 権堂先生。大滝秀治シリーズで一番好き。お腹が痛いと言って権堂医院を訪れた磯川警部とのタヌキの化かし合いみたいな会話に惚れた。磯川警部が岡山の古狸なら権堂先生も岡山の古狸。やる気なさそうに見えて実は腕のいいタイプ。絶対そう。風邪気味なんです~とか言って「寝りゃあ治る」って言われたい「ふん!そんなこと死因に関係ねえだろ!?」が好き。

 あと、おいとさんもめちゃくちゃ好き。山岡久乃さんが良すぎ。かわいい。祖母にしたい。金田一さんに(9割方もう聞いた話を)語るところはかわいいとかわいいがぶつかり合って大変なことになっていた。タヌキVSタヌキ、かわいいVSかわいい。

今回の加藤武シリーズ

 ボロボロのジープへの文句が止まらない岡山県警の橘捜査主任。犬神家よりさらに金田一さんのことをナメていて素晴らしかった。勝手にいつものわかってない推理を展開した挙句「あんた、男と女の区別がつかなかったのかね。しっかりしてつかあさいよ」とか勝手に呆れられる金田一さんかわいそう。最後、「金田一さん」って呼んですぐ「金田一くん」と言い直すところが絶妙。

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