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鬼頭刑事が刺さりまくった話

[ShortNote:2020.2.9]
 
 まず初めに、私はこれを続編から読んでしまいました。そして以下の文章にはネタバレが大量に含まれております。ミステリーのネタバレです。ネタバレの中でも一番危ない部類のやつです。


「謎が解けたら、ごきげんよう」/彩藤アザミ


 日本史で一番好きなの明治末期~昭和初期だし、女学生も好きだし、表紙がかわいいしというだけで買い、その後「これは経費で落ちません!」にハマってしまい3巻まで読んで、積んでいたこれをようやく読んだら第3話でストライクゾーンド真ん中の架空警察官に出会ってしまい、語りたいけどツイッターでも読書メーターでも長文書けないしなと思って適当なサイトを探しここに落ち着いたという話です。

 まず全体として、主人公は高等女学校に通う女学生・花村茜ちゃんであり、そこに名探偵夏我目潮さん、電器屋の娘丸川環さん、華族令嬢見留院紫さんを加えた少女探偵団がさまざまな事件を解決していくいわゆる「日常の謎」系ミステリーです。そして私にぶっ刺さった鬼頭錦郎巡査部長はそんな少女探偵団に関わったり関わらなかったりする警視庁の刑事さんなのですが、まず警察官というだけで基礎点が入ります。私は踊る大捜査線と相棒とケータイ刑事を愛し警察24時系の番組を各局のもの全て観る人間です。

 そしてこのポジションがいい。素人探偵or私立探偵と刑事さんって昔から好きです。赤川次郎の三姉妹探偵団シリーズの佐々本三姉妹&国友さんしかり、金田一耕助シリーズの金田一さん&等々力警部しかり。年端も行かぬ少女たちと大人の男性っていう視点で見てもいいですね。

 そんな鬼頭刑事がメインとなる話が、第2話「群青に白煙」です。タイトルが既に美しい。ということで刺さりポイントを語ります。


刺さりポイントその1:硬派

 冒頭の描写からして心を鷲掴みにしてくる。自分がしなくてもいいことまでついついしてしまっている。職務に身を捧げてる。「人に任せるということはどうにも苦手だ」そうです。真面目で一本気で自分にも他人にも厳しい感じが伝わってきて、推しに出会ってしまったかもしれないというワクワクを高めていきます。

 父親が亡くなったという知らせを受けて彼は実家へ帰るわけですが、推しの生い立ちが語られるシーンっていいですよね。しかもその生い立ちが(語弊しかない言い方をすると)美味しい。後妻の子で、ひとりぼっちで、それでも剣道に打ち込んで強く正しく大きく育って、いつしか父親と腕力で張り合えるようになっていくという過程が素晴らしい。「お前みてぇな筋の通らんやつは全員ブタ箱にぶち込んでやるからな」っていう激しい反骨心を持って育ったらそりゃあ過剰なくらい真っすぐになりますよね。アサリはストレスをかけられると美味しくなると言いますが、人もストレスをかけられると美味しくなります。


刺さりポイントその2:純情ロマンチスト

 硬派で真っすぐで責任感強めな警察官、とまず素材だけ見ても一級品な鬼頭刑事ですが、彼にはギャップという超一流のスパイスまで加えられています。やっぱりギャップがないと刺さらないので大事。漱石とか薄田泣菫とか読むんですよ。恋愛小説が好きなんですよ。そんな彼は恋愛の相手は「精神的かつ運命的で『この人の他にない』と一生心に面影を宿すような、そんな相手でなければ」と思っており、カフェー(風俗っぽい方)の女給のエッチなサービスにも嫌悪感を覚え、家に帰ってきてからも寝つけないほどゾワゾワします。見ようによってはウブだし、いや実際ウブなんでしょうが、それも自分のなかのロマンに忠実であるからこそだと思うし、「世俗に染まれぬのなら心の中で理想を飼い続けたとて」いいのだと覚悟を決める姿はカッコいいです。鬼頭刑事には誰に何と言われようとずっとロマンチストであってほしいし、それはバカにされるようなことではないと思います。頑張れ。私は応援しています。


 あとお母さんに嫁の話されて動揺したり茜ちゃんにドキドキして何考えてるんだ俺は……! みたいなリアクションしたり純情さがみなぎっていて可愛い。今後茜ちゃんとどうにかなる展開とかあるんでしょうか。見てみたい。


 刺さるポイントは語ったのでストーリーの話に戻りますが、そしてここからいよいよめちゃくちゃにネタバレをしますが、幼い頃の鬼頭刑事を可愛がってくれた篤叔父さんが姿を消した理由が殺人未遂で逮捕されていたからだということが判明します。この時代はまだ尊属殺人罪があった頃だったので未遂とはいえとんでもない大罪ですよね。そして父親が鬼頭刑事の戸籍を移したのも警官になりたいという彼の将来に傷をつけたくなかったからで、実家にあった本もこっそり息子の好きなものを知りたくて読んでいたものだったという死んでからわかってもどうしようもないやりきれない優しさエピソードが出てきます。ずっとすれ違ってたんですね。なんか公共広告機構のキャッチフレーズにもなった俵万智さんの「やさしさを うまく表現できぬこと 許されており父の世代は」を思い出しました。そして篤叔父さんの行いについて、きっと心のなかには溢れているであろう情を押し込めて思っていることとは反対の言葉を「警官」として言う鬼頭刑事の姿勢がまたいい。

 さらにこの後、お母さんが夫に服従し続けていたのも実はその夫との間の子ではない鬼頭刑事を守るためだったことまで判明してもう彼のハートは決壊寸前です。男の泣き顔が性癖なので私としては全然決壊していただいて構わないんですが、彼はぐっと堪えます。それでもいい。そういうところも昭和の男っぽくて美しい。意地を張ってなんぼです。あと、お母さんが「ハンサム」って言ってくれたのでよかったです。親の欲目じゃありませんように。いやきっと欲目じゃないはずだ。

 この話のラストの情景も美しいですね。最後の一文まで読んだ後にもう一度タイトルに目をやるとじんわりと沁み渡ってきます。奇数ページの上の方にサブタイトルが書いてあるタイプの本でよかった。この話に限らずサブタイトルがいちいち良いので、常に目に入るところに示されてるの親切だなあと思いました。


 「群青に白煙」の話しかしてませんが、第4話「D坂の見世物小屋」での鬼頭刑事も男装した潮さんを男と間違えたり図星を突かれてうろたえまくったり魅力たっぷりです。些細なことですが心内は「俺」で喋る時は「私」なのもポイントが高いです。一般人の女の子に指摘されてわかりやすくどぎまぎしちゃうの刑事としてはどうなんでしょうかと思わなくもないですが、そういうところが愛らしいので仕方がない。そのままでいい。どうかそのままでいてください。もちろん第1話の「雨傘のランデ・ブー」も第2話の「すみれ色の憂欝」も良かったし少女探偵団のみんなも可愛かったです。とにかく前作も早急に読まないといけません。これを書いてる間に書店巡りしてやっと前作を入手できたのでこれから読みますね。いろいろ行ったけど結局近くのよく行くお店にあって幸せの青い鳥はすぐ近くにみたいなことだなと思いました。

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