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唐川侑己さんが出てくるまで(幕張から)帰れま10 #1:サヨナラの魔力(F-M)

 出てくるのか出てこないのかその時になってみないとわからない、それがリリーフである。そんなリリーフをやっているのが唐川侑己さんである。そしてそんな唐川侑己さんを推しているのが私である。
 これまで生で観戦したロッテの試合は(二軍、練習試合含め)12試合で、その中で唐川さんが登板した試合はたった2試合しかない。6分の1。リリーフを観るというのは難しい。いやそもそも12試合しか行ってないからだろうという気もする。なので単純に母数を増やすことにした。今の唐川さんは約0.17%の確率でしか見られないようなそんな激レアピッチャーではない。ある特定の条件を揃えれば必ず出現するはずなのだ。そういうポケモン的な存在だ。
 だからそのためにも今年はできる限りマリンに行く。今年の目標をこれにしてもいい。今年の目標を決めるのが遅すぎる。


 幕張は遠いけどそこがいいんだよ、と思いながら海浜幕張駅で降りる。行く途中の胸のザワザワ感がいい。りんかい線とか京葉線とか乗ってる人に「これから野球観に行くんですよ~」とか言いたくなる。絶対しないけど。
駅からZOZOマリンスタジアムへ行くバス(現金:100円)に乗りながら大好きなサザンオールスターズの「Bye Bye My Love(U are the one)」を聴く。エモい。「もしプロ野球選手だったら登場曲は何にするか」という妄想をよくするが、これでいいかもしれない。でもやっぱり決めきれないから巨人の岡本くんみたいに毎打席違うサザン関連にしてもいい。
 球場に着いてすぐグッズショップに行った。唐川さんのユニフォーム(ホーム・ビジター)&その他もろもろを買うためである。ただなんだかよくわからないがめちゃくちゃに恥ずかしかった。サッと取ってサッとレジに行った。「サッと」と言うわりにはどさくさに紛れてユニフォームクッションキーチェーンも持っていった。こういう系はどさくさに紛れやすい。そしてレジで「唐川選手のSサイズでよろしいですか?」とか聞かれるたびに爆発しそうになりながら「ハイ……」と言った。なんなんだろうこれは。当たり前だが「唐川さんが好きなこと」が恥ずかしいのではない。たぶん唐川さんが好きすぎてそれしか買ってない私の存在を認知されるのが恥ずかしいんだと思う。まだ意味がわからないが、まあ、乙女心だな(?)。藤原くんの時はこんなに恥ずかしくなかったような気がする、と思ったけどその時はオンラインストアで注文したんだった。

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 そんなこんなで中に入りようやく席につく。ぐっさん(山口航輝くん)だったら5ケースもらえるのにな……と思いながら自費で買ったお〜いお茶を飲んだりする。お〜いお茶を毎日欲しているので私も川柳詠んだらもらえるのだろうか。絶対もらえないな。買います。
 そして買ったばかりの背番号19のユニフォームを着る。買う時はあんなに恥ずかしかったのに着るとめちゃくちゃ堂々としていられる。不思議である。いや買う時に恥ずかしい方が不思議なんだけど。それからカメラの準備をする。忙しい。
 そういう雑事に追われている間にロッテは5点も取られていた。唐川さん出現条件がどんどん遠のく。藤原くんはスタメンを外れてベンチにいる。あぁ昨日来ればよかった……(火曜日はハマスタで中日-横浜DeNAを観ていた。0-0でプロ野球とは思えない時間に終わった)と無意味なことをその時は考えてしまった。昨日も藤原くんはスタメン外だったけど代走で出たし、唐川さんは勝利投手になったし、選択ミスったかな……と少し思った。
 ただ反省はしても後悔はしないのが私のモットーである(今決めた)。何かひとつ「今日にしてよかった!」と思えることがあるはずだ、と思いながら見守り続けた。海風(最大7mぐらい)にさらされまくるマリンは寒い。でも上着を着て「19」が隠れるのは嫌なので、震えながら観た。野球観戦、体に悪いな。


 高校野球だったかプロだったか忘れたけれど、実況の人が「『野球に流れはない』と言う人もいますけれども……」みたいなことを言った時耳を疑った覚えがある。誰だそんなこと言った人。絶対あると思う。流れがこちらにあればなぜか相手がエラーしたり、ファーストゴロの打球がベースにぶつかって跳ねてヒットになったり(火曜の安田先輩)、それでなくても打線が面白いようにつながったりする。逆にない時は何しても点が入らない。中日-横浜の7回表のノーアウト一、三塁の時のように。
 その流れは勝手にどこからともなく沸いて出てくるのではなくて、プレーが作るものだと思う。それで言えば序盤日ハム側に流れを作り出し、なおかつ引きとめていたのはドラ1ルーキー伊藤大海さんのピッチングだった。4回までで6奪三振、ノーヒット。23イニング連続奪三振。こんなド安定ピッチャーでも今まで勝てていないのが信じられない。勝利投手になるというのは思った以上に難しいのかもしれない。そんな難しいものに唐川さんは昨日なったのだが。何度でも言う。


 彼がズバズバ快投し野手陣はナイスプレーをし攻撃ではホームランをぶち込む、流れが完全に来ている。さすがにノーヒットで1点取られた時はいくらなんでも流れすぎだろと思った。もしかしたら野球というのは流れを奪い合うスポーツなのかもしれない。


 「点が入りそうな気配」はあった。そういうのはなんとなくわかるような気がする。ちなみに相手にその気配を感じた時は無視する。流れを奪い合うスポーツでは相手にとどまりっぱなしの流れをそのまま見ているだけというわけにはいかない。誰かが打てばそれが突破口になるはずであり、今夜のその「誰か」は安田先輩だった。


 伊藤大海さんの初球を振り抜いたツーランホームランはマリンの空気を一変させた。一発出れば変わる。その前から「ようやくヒットは出始めたけれども得点に繋がらない」という段階だったロッテ打線をこの一撃が次のステップに進めてくれた。角中さんがタイムリーを打ち、和田くんがめちゃくちゃ警戒されながらも盗塁を決め、キャプテンがきっちり犠牲フライを放ち、ついにあと1点で追いつくところまで詰め寄った。


 そんな7回以降の流れを導いたのはやはりリリーフ陣だった。東條さんが押し出しのフォアボールを与えたところで1アウト満塁という胃が痛くなりそうな場面でマウンドに上がったタナヤスさんが圧倒的冷静さで見事火消しに成功し、土居くんが2回を無失点で抑え、9回表をちーさまが「点が入りそうな気配」の影すらよぎらせずにバシッと締めた。うちのリリーフ陣超カッコイイ。関係ないがちーさまの登場曲がPerfumeの「FLASH」なの好き。登場曲が連想ゲームみたいになってる選手好き。


 そうしてバトンを繋ぎ続けて9回裏が来た。先頭がフォアボールで出て、同点くらいはいけそうかも……とワクワクはした。2アウト一塁、打席に岡大海さんが立った。つい「ひろみ」と呼んでしまうのだが(岡ひろみなので……)、今日はこっちにもあっちにも「大海」がいるのでおかぴさんと呼ばせていただく。
 おかぴさんは全身から「何かやってくれそう感」を発していた(ように見えた)。期待のせいでそう見えたのかもしれないが、ノーヒットなのに「何か(略)感」を出してくれる人はそういない。キャンプの時からの実績のおかげだと思う。


 そんな意識があったかどうかは知らないがあっちの大海がやるならこっちの大海もと言わんばかりに元日ハムのおかぴさんはバックスクリーンに逆転サヨナラツーランホームランを叩き込んだ。中継映像を観ても興奮するが、現地で感じたザワザワ→歓声は一生忘れないし忘れたくない。こんなものが生で見られるとは思わなかった。
 ロッテの逆転サヨナラホームランは20年ぶりの出来事らしい。20年て。私が5歳の時だ。https://www.nikkansports.com/baseball/news/202104210001151.html?utm_source=twitter&utm_medium=social&utm_campaign=nikkansports_ogp


 「アイドルマスター シンデレラガールズ劇場」の「Life is HaRMONY」という曲の中に「人生は独りでは歌えないHaRMONY」というフレーズがあり、私はそこが大好きなのだが、野球における勝利も独りでは歌えないハーモニーなのかもしれない。そうでなければグラウンド上に9人もいてきっちり役割分担している意味がない。ロッテの「チーム勝ち」はまさにハーモニーだった。


 サヨナラ勝ちのいいところは、それまでの試合の展開が全て「伏線」のように思えるところだ。なにしろ最終回裏まで同点か負けているか、つまり優位に立っているととサヨナラはできない。


 藤原くんが大阪桐蔭3年生の時のセンバツ準決勝・三重戦で、四番に座った彼はずっとノーヒットだった。それが延長12回裏、左中間を割るサヨナラヒットを打った。その瞬間打てなかった5打席は全部「伏線」「フリ」に変わったような気がした。野球の神様が「それまで打てなかったのにここしかないという場面でサヨナラヒットを打つ最高にカッコイイ四番」のために我慢させていたような。


 それと同様にこの試合もサヨナラツーランの瞬間、いい打球を西川遥輝さんなどに熱盛されたことも、こっちがエラーしたことも、どうにか持ちこたえていた小島くんがスリーランを被弾したことも、押し出しで1点取られたことも、チャンスで空振り三振した安田先輩がバットを叩きつけて悔しがったことも全部「伏線」に変わった。もちろん個々人反省ポイントとか重点的に鍛えなければならないところなどはあるのだろうが、チームとして見ている私の中では全部昇華された。やっぱりサヨナラ勝ちっていいな、と思った。


 同時に、こうやって追い上げて食らいついてサヨナラを導いた先輩たち&同級生の姿をずっとベンチから見ていた藤原くんにとってもいつか必ずこれが伏線になる日が来るだろう。あの時は座って見ているしかなかったけど今日はやってやりました! とお立ち台に立つ日が絶対に来る。そしてプロ初勝利が消えた伊藤大海さんにとっても、絶対にそうなる。
 


 いつもは帰りもバスだが、この日は余韻に浸っていたかったので歩いて駅まで行ってみようという気になった。帰りながらまた「Bye Bye My Love」を聴いた。エモい気分の時に聴くと上乗せされる。
 はっきり言って浮かれていたので駅の改札でSuicaの残高不足に気づき、チャージしようとして財布に500円すら入っていないことに気づき、危うく物理的に帰れま10させられるところだった。すぐATMで下ろして事なきを得たが、唐川さんが出るまで帰れないというのは比喩なので本気にしないでほしい。


余談:試合終了後「勝利投手賞:千葉銀行JCBギフトカード」という文字を見て唐川さんはこれをもらったんだな……と思った。いつまでも言う。


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