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20センチュリー・ボーイズ・トロイカ

 何かでくくると誰か一人があぶれてしまうトロイカの共通点を日々探していたら「20世紀生まれ」にたどりついた。100年単位のものを持ち出してこないとくくれないのはどうかと思うが、「1900年代」でも「平成」でもダメなのだから頼れるものが「20世紀」しかない。


 そんな20センチュリーボーイズの一週間、いってみましょう。


 0-0で迎えた5回表1アウト満塁、相手は四番・鈴木誠也さんという3回とまったく同じシチュエーションが巡ってきた時、私はふと(これで満塁ホームラン打たれたら笑っちゃうな)と思った。その数秒後、誠也さんの打球はバックスクリーンの左へ着弾した。笑った。打たれたら笑っちゃうなと言ったのに笑わなかったら嘘つきになってしまう。嘘つきにはなりたくない。泥棒の始まりだからである。何を言ってるかよくわからないが、とにかく笑った後大野雄大に謝った。ごめんね大野。


 第1ラウンドは内野フライで大野の勝ち、第2ラウンドはグランドスラムで誠也さんの勝ち、派手で壮絶なサムライ対決は一勝一敗でイーブンのように見えるが、バッターは凡退しても次の打席で打てれば上々なのにピッチャーは次もその次も抑えないと勝ったことにならないと思うといささか不公平ではある。結局この4失点で大野はEleven lossesを喫した。大野が11回も敗戦投手になったなんて無理すぎるので英語で書けば多少和らぐかと思ったが、別に和らがなかった。11敗は11敗である。満塁ホームランって一瞬で4点も入るからすごいのですごいものを打たせた大野も理論上すごいという感じにはならない? なりませんね。はい。


 そんなグラスラ打たれ大野(ひどい呼称だ)とは違い、今週のプリンス・オブ・成田は3回投げて1失点もしなかった。日ハム戦は2回ともビハインドの場面で登場したが、少なくともこっちの方が心臓には優しい。ただこの後の攻撃へのモチベーションと防御率というものを考えると、ビハインドなんだから1、2点取られても構わないとも思えないのがつらいところである。


 「20世紀」とかいう大きすぎる概念でしかまとめられないことからもわかるように、同じピッチャーでも大野と唐川さんは全然まったくもってタイプが違う。大野はストレートで押していくタイプで、調子の良し悪しはストレートの質で決まる。唐川さんは素直なストレートをほとんど投げずカットボールばっかり投げているにもかかわらずファンに見てほしいところに「ストレート」を挙げ暗に自分のカットボールとストレートの見分けがつくようになれと命じてくる難解なタイプである。解説や記事や本人の言を総合すると、彼のカットボールはつまりスライダー回転のストレートとほぼ見分けがつかないが真っスラよりは変化が大きく映像で見るよりも曲がっているがデータ上はそんなに曲がってないボールということになる。何も意味がわからない。厳しい。全部違うこと言ってる画像みたいだ。


 ピッチングには性格が反映されると固く信じているが、唐川さんそのものがミステリーなら唐川さんのカットボールもミステリー。まさに魔球。存在が魔球。明快でわかりやすい大野が恋しくなってきた。さらにカットボール攻めの中に急にふわんとゆるいカーブを投げてきたりするので本当にタチが悪い(褒めています)。今週のピッチングで言うと10/9の7回裏のR・ロドリゲスへのカーブで空振りを奪ったシーンが最高に魔性だった。まさにものすごく速いわけではないのになぜか打てない、そんな見るものすべてを幻惑する唐川侑己らしさがそこにあった。「幻惑」って言葉が似合うなこの人は。若い頃はそんな感じじゃなかったのにいきなりモデルチェンジして周囲をびっくりさせるところも惑わせスキルの高さを感じさせる。


 さて20センチュリー・ラストイヤー・ボーイであるところの藤原くんだが、彼もまた「存在が魔球」の素質はある。おとなしいシャイボーイなだけかと思いきや気心知れた安田先輩に対してはなぜか(大野に対する田島さんと同じくらい)当たりがキツかったりする。なかなか不思議な子だと思う。余談だが大野が京都で藤原くんが大阪生まれなのは逆じゃないか、でもグイグイ系な大野が京都ではんなりしている藤原くんが大阪なのもまた乙なものではないかと思っているのだがどうだろうか。


 そんなことより唐川さんと藤原くんが同時に試合にインしてきた時は思わずニヤニヤしてしまった。最近は代走だったりこの時のように終盤の守備から入ったりすることが増えているが、少ないチャンスでアピールして7・8月月間MVPの力を取り戻してほしい。ついでにグランドスラムなんか打ってくれたりすればトロイカ的にはリベンジ成功なので、よろしくお願いしたい。


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