「好きならできるよね?」の呪い②

私は初めての恋人と、決して順調とは言えないお付き合いを続けていた。
彼は変わらず私を駅まで送ってくれたし、一緒に映画を見たり、おいしいラーメンを食べに行ったり、デートを重ね、楽しい時間もたくさん過ごした。
部屋の合鍵ももらった。
はたから見れば私たちは、なんの問題もないカップルだったと思う。

けれどなんとなくお互いに旅行の日の夜のことは触れないまま、月日は過ぎていった。
ある日、部屋で一緒に過ごしているとき、再度そういう雰囲気になり、口淫をしてほしいと頼まれた。
性行為ができないならせめて、と試みるも、彼を喜ばせたい気持ちより嫌悪感が勝ってしまった。私はそれを言葉にはしなかったけど、彼はきっと察していた。

「俺のこと、本当に好きなの?」
「好きならしてほしい」
こういった言葉を言われるようになった。
私はやはり彼に嫌われることを恐れ、性的なことをするのが嫌だという気持ちを抑えながら、求められたときはできる限り応えた。
それでも私の嫌悪感が消えることはなく、遂に彼への気持ちに曇りがかかり始めることになる。


彼の好きだったところは今でも覚えている。意識し始めたきっかけも、初めて手を繋いだときのことも、初デートのときのことも、いろんなことが思い出として私の中に残っている。
でも、お付き合いの中にセックスが含まれる以上、私はその関係を続けることができなかった。
限界だった。
私が彼に別れたい旨を切り出すと、彼は嫌がり、別れたくないと言ってくれた。

私は未熟だった。自分がなぜ別れたいのかを、うまく伝えることができなかった。彼にも本当に申し訳なかったと思っている。
私がもっと、性行為以外で彼に愛情を示せていたら、何か変わっていたかもしれない。
ロマンティックアセクシャル(ノンセクシャル)というセクシャリティの存在も、このときはまだ知らなかった。だから周りの友達は普通にしていることを、なぜ私はできないのか、言葉にできなかったのだ。
しかし相談できる相手もおらず、どうしようもなくつらくて、このまま一緒にいたら彼を嫌いになってしまう気がして、離れるしかなかった。

最終的に彼は別れることに同意してくれ、これからは友達でいようと言ってくれた。
別れた後もサークルでは顔を合わせていたけど、彼が四年生になりサークルを引退してからは、会うことも少なくなった。

嫌いになって別れたわけではなかったので、こちらから別れを切り出しておきながら、私には彼への未練があった。
自分勝手な奴だと言われるだろう。
しかし、彼もまだ私のことが好きだと共通の友人から聞いたとき、私は嬉しく思ってしまった。

その後、彼が卒業するまでに何度か二人で会った。
合鍵は返していたので、家ではなく外に誘われて、食事をしたりゲームセンターに行ったりして遊んだ。
以前のように手を繋いで歩くことはなかったが、私たちの距離感はとても近かった。まだお互いに気を許している証拠のように感じたし、それが嬉しかった。
しかし、私たちがそんな感じなので、サークルの人たちや共通の友人からしてみれば、「なんで別れたの?」となるわけだ。元サヤに戻らないの?とも何度も聞かれた。
その問いに、私は曖昧に笑うことしかできなかった。

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