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最低賃金31円上げを目安にした水面下② #0137/1000

今回は、2022/8/2にひらかれた中央最低賃金審議会で共有された資料のうち、使用者側の見解をみてみます。

前回見た労働者側には、「誰もが時給1,000円」という理想を掲げ、そこへの道のりをなんとか縮めたいという強い思いがありました。

では、使用者側はどうなのでしょうか?


使用者側見解
1.コロナ禍による景気の低速、ロシアのウクライナ侵攻による金融制裁、世界のエネルギー問題などの影響で、中小企業の経営状況は予断を許さない

2.中小企業の労働分配率は80パーセント程度と高い。近年の最低賃金の引き上げ幅も高く、経営実態が十分に考慮されていない。

※ここで「労働分配率」という言葉が出てきます。
労働分配率については以下のサイトの図解がわかりやすいですが、給料などの人件費を、売上から変動費をのぞいた粗利で割ったもので、会社がかせいだお金をどのくらい従業員に分配しているかの割合です。

労働分配率は、会社の規模や業種によって差があるものの、だいたい50%が目安、70~80%になると経営は厳しいと言われています。

財務省の「法人企業統計調査」によると、たしかに資本金1億円未満の規模の小さい企業は80%近くとなっています。

これ以上人件費をあげるのは難しい、という主張がデータで伝わってきます。

3.中小企業の経営状況や地域経済の実情を各種資料・データに基づき、納得感のある目安額となるよう、最低賃金法第9条における3要素に基づいて慎重な審議を行うべきと主張

※最低賃金法の第9条とは、このような内容です。

第九条 賃金の低廉な労働者について、賃金の最低額を保障するため、地域別最低賃金(一定の地域ごとの最低賃金をいう。 以下同じ。) は、あまねく全国各地域について決定されなければならない。 2 地域別最低賃金は、地域における労働者の生計費及び賃金並びに通常の事業の賃金支払能力を考慮して定められなければならない。

つまり、その地域における「労働者の生計費」「賃金」「通常の事業の賃金支払い能力」の3要素、特に「通常の事業の賃金支払い能力」を考慮すべし、と言っているわけです。

※余談ですが、上の条文は労働者の生計費「及び」賃金「並びに」通常の事業の賃金支払能力、となっています。

法律では「及び」と「並びに」は意味合いが違い、「及び」は同じレベルの事柄を接続するときに使い(つまりは生計費と賃金は同じレベルの事柄ということ)、「並びに」は「及び」で接続されたグループと別の事柄を接続するときに使います。
つまりは、労働者側「並びに」使用者側、という構造になっています。

4.地方における昨年度の答申に対する不信・不満を払拭できるよう、地方が納得できる目安を示すべく議論を尽くし、目安額の根拠について、目安額を報道で知る労働者・企業が納得できるものであることが必要

5.国が強制的に賃金をあげるのではなく、「生産性が向上し、賃上げの原資となる収益が拡大した企業が、自主的に賃上げする」という経済の好循環を機能させることが重要。そのため、生産性の向上や価格転嫁も含む取引環境の適正化への支援等を充実させるべき

6.中央最低賃金審議会の目安額は地方最低賃金審議会を拘束しないことを明記し、地方最低賃金審議会は地域別最低賃金額や発効日(スタートする日)については、その地域の実態を踏まえ、沿ったかたちで決定できることを確認すべき

7.各種統計等に基づく審議を行うべき。特に、中小企業の賃金引上げの実態を示し、3要素を総合的に表している「賃金改定状況調査結果」の第4表「一般労働者及びパートタイム労働者の賃金上昇率」を重視すべき。
特に今年度はコロナ禍のなかで雇用を維持しながら、必死に経営を維持してきた企業の「通常の事業の賃金支払能力」を最も重視して審議していく必要がある

第4表「一般労働者及びパートタイム労働者の賃金上昇率」とはこれのことです。

たしかに、ほとんどの業種で1倍を上回る上昇で、医療・福祉は2.2倍になっています。


前回の労働者側の「誰もが時給1,000円」はインパクトがありましたが、使用者側の「コロナ禍のなかでも従業員をクビにせず必死に経営を維持してきた企業の賃金支払能力を重視すべき」という主張もうなずかれます。

労働者側に比べると、各種統計資料を駆使して論理的に述べつつ、最後に「必死に経営を維持してきた」という文言が入るところに、ゆさぶられます。

次回は、第三者となる公益委員の見解をみます。

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