年末調整について②~控除ってなに?


今日は年末調整の2回め、「控除ってなに?」というお話しです。

1,前回のおさらい

所得税は、1月から12月までの1年間の収入全部をもとに計算する仕組みです。
ですが、いっぽうで、「このくらいだろうなという税金の予測額」が、毎月お給料から引かれ、引いた会社は税務署に収めなければならない仕組みもあります(これを源泉徴収といいます)。

年末調整は、その、毎月「このくらいだろうな予測額」でお給料から「源泉徴収」されている所得税のトータルと、1月から12月まで実際に支払われて確定したお給料全部で計算した正しい所得税の金額を、一致させるための仕組みです。

税金が足りなければ12月にその分プラスして納め(徴収)、税金を納めすぎてきたら戻ってくる(還付)ということです。

所得税の計算には、扶養している家族の人数も関係します。
扶養家族が多ければ、納める税金は配慮してもらえて、少なくなります。
扶養家族が何人いるかということは、年末時点の家族の人数が確定版になりますので、再調整が必要なのです。

ざっくり言うと、
・年の途中で収入が大幅にダウンしたり、扶養家族が増えたとき:年間を通した税金は払いすぎなので12月のお給料と一緒に帰ってくる
・年の途中で収入が大幅にアップしたり、扶養家族が減ったとき:年間を通した税金は不足傾向なので、足りない分が、12月のお給料から追加で引かれる
ということになります。

毎月支払っている(源泉徴収されている)所得税を、年間ベースの確定した収入金額で、年末に確定した家族状況で、しかもその人の生活状況に応じてその人サイズの税金額に調整すること。
これが、年末調整です。

また、年末調整と、毎月給与から所得税を差し引いて国に納めること(源泉徴収)は、会社の義務と所得税法で決まっており、違反すると刑事罰もあります。

2,「控除」って?

今回は「控除」についてのお話しです。
めったに日常では使わない言葉だと思います。

「控除」は、辞書だと「金銭・数量などを差し引くこと」とあります。
ですが、ほぼ、税金やお給料でしか使わない言葉かもしれません。

毎月のお給料明細にも、お給料明細の下のほうにあるのが「控除」で、社会保険料や所得税、住民税が差し引かれているところを指します。

一方、年末調整の「控除」には、
・税金をその人サイズに調整する
・国からの「こういうふうにお金を使ってほしいな」というメッセージ(政策的な意味合い)
という側面があります。

「控除」は差し引くこと。
年末調整で、何から何を差し引くかといえば、税金をかける対象の金額から、「この分は税金の対象からのぞいてあげましょう」という金額を差し引くのです。
つまり、控除の種類や金額が多ければ多いほど、税金をかけられる金額が少なくなり、節税効果がある、ということです。

3,控除の種類、のまえに年末調整の流れを再確認

所得税は、
「収入―経費=所得」
で計算し、「所得」に対して税率をかけて、支払う税金の金額を決める、というのが基本です。

ですが、給与が主な収入の人には、「経費」といっても自分で事務所を借りているわけでもなく、難しいのが実情です。

なので、
1.非課税通勤費等非課税分をのぞいた支給合計=収入
2.収入から、「給与所得控除」(経費的な意味合いのもの)をひく=所得
3.「所得」から、あてはまる「所得控除」(14種類あります)をひく=課税所得(税金をかける対象の所得)
4.この「課税所得」に税率をかけ、所得税額を計算する
5.条件に当てはまる人は、こうして計算された税額から、さらに「税金から減らしてもいいよ」という金額をマイナスする(これを「税額控除」といいます。種類は少ないです)
という流れで、所得税を計算します。

4,所得控除の種類は?

「所得控除」は15種類あります。
それを、
・税金をその人サイズに調整する
・国からの「こういうふうにお金を使ってほしいな」というメッセージ(政策的な意味合い)
の2種類にかってにわけると、こんな感じです。

【税金をその人サイズに調整するタイプ】

(1)社会保険料控除
この「社会保険料」(健康保険料、介護保険料、国民年金保険料)は、自分がお給料からひかれている社会保険料のことではありません。
家族の分の社会保険料を、立て替えて支払っている場合です。

例えば、
・配偶者が無職だった時期の国民年金保険料
・こどもが20歳以上で学生だった場合の国民年金保険料
・親の国民健康保険料
などがあります。裏付けとして、納付している証明書(年金だと日本年金機構から10月頃送られてきます)が必要です。

見逃しがちなのが、父母の健康保険料。
75歳以上になると、それまでは扶養に入っていても、誰でも、そこからはずれて「後期高齢者医療制度」というほうに切り替わり、原則個人で保険料をおさめることになります。
その保険料を立て替えている人も多いと思います。
その分も年末調整で「税金の対象から外す」ことができますので、確認してみてください。

ほか、
(2)扶養控除
(3)寡婦・(4)ひとり親控除
(5)障害者控除
(6)勤労学生控除
などが、「税金をその人サイズに調整する」ためにあります。
(この(2)から(6)は、毎月の「源泉徴収」でも考慮されている内容です)

昔は、同じ「ひとり親」でも、未婚は対象外だったり、男性だと条件が厳しかったりしました。
それが、去年から「ひとり親」なら同じあつかいに変わりました。
こんなふうに、世の中の流れにあわせて、国の仕組みはきちんと見直されていきます。
素晴らしい点です。

【国からの「こういうふうにお金を使ってほしいな」というメッセージ(政策的な意味合い)】

(7)小規模企業共済等掛金控除
いちばんわかりやすいのが、いま話題の「iDeco」(個人型確定拠出年金)がこの対象です。
「iDeco」の掛金も、「小規模企業共済等掛金控除」で申告することで、税金の対象からはずすことができます。
「老後資金を自分でも用意してほしい」という国の希望が、反映されているということです。
もちろん、会社の確定拠出年金も対象で、税金の対象にしないことができます。
年末調整で実施する会社もあれば、毎月のお給料で調整している会社もあります。

(8)生命保険料控除
大正12年の衆議院議員の議員立法でスタートした控除です。
当時は「申告制」だったため、こうしたお得な制度を作ることで申告数を増やすことと、生命保険に入ってもらうことで、「個人の生活の安定や貯蓄心の向上」を目的として導入されました。

この控除を提案した議員のひとりは、こう言っています。
「生命保険は、働き手を失って残された家族、すなわち「弱小者」を助ける制度であり、「武士道ノ精神」にも合致するものであり、生活保障としてだけではなく、人々の思想を善導するのに有用」

ですが、この議員は、実は、大正2(1913)年に大正生命保険を創立した人物でもあります。

何やらすこし匂いますね…

(9)地震保険料控除
1995年に阪神淡路大震災がありました。震災を意識する人が増えたその後、2007年から始められた控除です。

(10)配偶者控除・(11)配偶者特別控除

所得税は、日本が占領下にあった1949年のシャウプ勧告に基づいて、それまでの世帯単位の課税から、個人単位の課税に変更されました。
よって、夫婦についても別々に扱われることとなりました。

ですがその後、自民党が農・自営業者向けの所得税減税を推進する中で、大規模減税の一環として1961年に導入したのが「配偶者控除」です。

それまでは、個人事業主が家族の従業員に支払う給与については、個人事業主本人の所得に
合算して、税金の対象とすることになっていました。

それは、家族への給与を別々にカウントしてしまうと、収入を分けて収入の金額をならして少なくすることにより、高い収入にたいしてかけられる高い税率よりも、低い税率にすることができるからです。

ですが、その重い税金負担対策として、「法人」になる手続きをし(「法人成り」といいます)、「法人」として各家族に別々に給与を支払い、別々に税金の対象とする、ということが多く行われました。

ところが、この「法人成り」については、農地法に違反するような要素があったようなのです。
なので、「法人成り」していない農業者への減税措置として採用されたのが、この「配偶者控除」ということのようです。

結果、その後の高度成長期時代の波にもぴったりあう制度となり、今日まで続いている制度になりました。
(「配偶者控除制度の変遷と政治的要因」http://www.ipss.go.jp/syoushika/bunken/data/pdf/sh20264012.pdf)


(12)基礎控除
令和元年分以前の基礎控除の金額は、納税者本人の合計所得金額にかかわらず、全員に対して同じ38万円でした。
全員に対して「これだけは税金の対象にしなくていいよ」という意味合いで「基礎控除」だったのです。
ですが、昨年から、所得制限がつき、2,500万円超は対象外ということになり、かつ、金額が10万円引き上げられました。
これまでは38万円しか差し引けなかったのが、昨年からは、48万円差し引けるようになったのです。

給与が主な収入のサラリーマンは、基礎控除が10万円引き上げられても、「給与所得控除」という別の控除が10万円引き下げられたので、プラマイゼロです。

ですが、自営業やフリーランスの人にとっては、「給与所得控除」は原則ないので、10万円分税金の対象にしない金額が増えることになります。
これも、世の中の流れを考えて、国が行なった政策のひとつと言えそうです。

また、この改正で、「年収の高い人には基礎控除なし」ということになりましたが、でもその年収の高い人にも、ちいさい子どもがいたりする家の事情があります。
そういう人のために少し配慮してくれる、「所得金額調整控除」も同時にできました。

うちの会社では、夫婦ともに部長クラスで、それぞれ年収1000万を超える世帯があり、この制度の対象になりました。
ふつう、扶養家族に入れるのは、夫婦どちらかしかできないものですが、この制度は夫婦どちらも同じ子どもについて申告し、税金のかかる対象の金額を少し下げることができます。

(13)雑損控除・(14)医療費控除・(15)寄附金控除

この3つは年末調整ではできず、確定申告で行う必要があります。

雑損控除は、強盗や災害で不当に財産に被害をうけたときに、配慮してもらえる控除。

医療費控除は有名ですが、その年の世帯の医療費がかなりの金額になった時に配慮してもらえる控除です。
(これを狙って、時期が調整できる手術や治療などは家族でまとめて同じ年に行う人もいるそうです)

また、寄付金控除が対象になるのは、「富の再配分」が税金の目的のひとつですが、寄付金自体がすでにその意味をもつためです。

5,税額控除とは?

このうち、「住宅ローン控除」が一番有名ですが、これは、非常に政策的な控除です。
家を買う人が増えれば、家具やコンロやお風呂やいろいろなものの出費も増え、幅広い分野がうるおいます。
ですので、ローンを組んで家を買った人には、そのローンの残高に応じて計算した金額を、計算した結果の税金そのものから引いてしまおう、という制度です。

所得税は、その人の「課税所得」(税金の対象になる金額)の金額に応じて、所得税を計算するための税率が違います。
収入が高くなれば高い税率、というわけです。

ですが、この「住宅ローン控除」はそれとは関係なく、計算した結果の税金からひかれるかたちです。
計算した結果の「住宅ローン控除」の金額が、1年間で払った所得税より大きい金額の場合は、所得税が全額戻ってくるうえに、それでも引ききれなければ住民税からも引いてくれます。

国の強い期待が感じられます。

6,まとめ

これらの控除を受けられる人が、これらの控除を受けるためには、申告書を出すことが必要です。
会社からアナウンスがあったら、もれなく出しましょう。

「生命保険料控除」にも種類が多いし、「小規模企業等…」や「地震保険料」など、自分がどの控除が申請できるのかわからない、という方は、10月頃保険会社から届く「保険料控除証明書」に、どの控除にあてはまるか書いてあるので、確認をお願いします。

また、この「保険料控除証明書」は電子化が進んでいて、現在、生命保険会社42社のうち、17社が対応しています。

利用するには、その生命保険会社の「マイページ」から申請したり、マイナンバーカードと、カードリーダーを使って「マイナポータル」からダウンロードするなど、別の手続きが必要です。
電子化となれば便利ですが、会社のほうがその電子化に対応してなければ、やはり印刷して紙で出すしかありません。

ですが、会社にとっても年末調整の処理は大きな負担ですので、今後はこの電子化がどんどん進んでいくと思います。

7,おまけ:今年からの変更点

今年から、証明書類への押印は不要となりました。
ただ、会社によっては毎年使う書類として、大量に印刷している場合があるので、今年配られたものは変わっていないかもしれません。

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