制度は生きている!一律ルールと個別ルールの大切さ
突然ですが、お給料は生き物です。
どういうことかというと、事業主、社長が、こんなふうにうちの社員はがんばってくれている、だから、こんなふうにそのがんばりに報いたい、という気持ちは、生き物だからです。
だから、たとえば忙しい時期だけ手当をあげたいとか、時給をあげてあげたいだとか、長年働いてくれた人には感謝と讃える気持ちを捧げたいだとか、通常のお給料の範囲を超えることも当然あります。
そして、そんな気持ちから通常にはないお給料をあげたい、と思う時に問題となるのは、税金と社会保険です。
税金は、基本会社が社員に支給するものすべてにかかると思ったほうが間違いありません。
社会保険のほうは、税金とはまた違う基準があります。
それは、それが「労働の対償であれば、つまり働いたことにより貰えるものであれば社会保険料がかかるが、そうでなければ対象外」という基準です。
たとえば、基本給はもちろん、扶養手当通勤手当等は出勤して支給されるもので、欠勤すれば減らされるものなので、労働の対償といえます。
一方、退職時に支払われる退職手当は、これまでの勤務に対する謝恩のようなもので、常に支払われるものではないことから、労働の対償ではない、とされています。
したがって、退職時に支払われる退職手当は、会社から社員に支払われるものなので税金はかかりますが、社会保険は対象外となっているのです。
この「労働の対償かどうか」は会社や社員が決めるのではなく、厚生労働大臣、リアルには年金事務所や労働局の職員が決めます。
社会保険労務士であってもそれを決めることはできません。
ですので、会社がこんな手当を払いたい、と言ったときは、年金事務所やハローワークに「こういう場合はどうなりますか?」と確認することが必要になります。
ですが、だからといってすべてがそうやってゼロベースでは、同じようなケースでもA県の年金事務所では社会保険料の対象なのに、B県では違う、という事が起こってしまいます。
ですので、大きくはこういう考えかたをしますよ、という大まかなルールは、共有される必要があります。
この2023年6月27日付けで、またあたらしい大まかルールが公表されました。
それは、長年働いた人にたいする永年勤続表彰金は、この条件を満たせば、労働の対償ではない、つまり社会保険料のかかる対象である「報酬」としない、という判断です。
これは、厚生労働省から、日本年金機構にむけてつくられた業務連絡です。
ここには、会社によりいろいろなかたちがあるので、「永年勤続表彰金」という名前だけをもって、社会保険料の対象にしませんということはできないけれど、少なくともこれらの基準を満たすものなら、社会保険料の対象にしなくてもいいですよ、ということが説明されています。
こういった業務連絡があることで、年金事務所は会社や社会保険労務士からの質問に答えることができるのです。
また、社会保険労務士もみずからこういう情報を入手することで、社長に
「長く働いてくれた社員に報いたいのであれば、こういう条件であれば、社員にあげるぶんから社会保険料を引かなくていいので金額は減りませんし、会社も法定福利費を負担することはありませんよ」
と使えることができます。
お給料をこういうかたちであげたい、という気持ちは生きているものです。
ですがその理由となるのはさまざまです。
報いてあげたいという気持ちもあれば、税金にとられるくらいなら社員にあげたいという気持ちもあります。
そういうことにきちんとルールを決めず、たとえば「永年勤続表彰金」であれば社会保険料の対象にしませんよ、なんてざっくりしたことを言ってしまうと、ふだんのお給料を低くして、「永年勤続表彰金」のほうで社員に報いよう、そうすれば会社が負担する法定福利費も少なくなるし、と考える事業主がいないともかぎりません。
全体のバランスを考えながら、でも、報いてあげたいという事業主の気持ちも完全に否定しないように運用する。
生きた現在に対応するには、一律ルールと個別ルールの使い分けが重要となるわけです。
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