暗闇幻想

2006年の日記

フィッシュマンズは1曲しか知らないのですが、その1曲は「ナイトクルージング」です。去年のちょうど今頃にiTMSプリペイドカードをいただいたので、試しに何か買ってみようと、ずっと気になっていたフィッシュマンズにしてみました。

曲を聴く前にあまり色眼鏡をかけるのは良くないと思っているので、彼らのことはほとんど何も知らないに等しいのです。だから、1曲だけ買うと決めて、色々と試聴してこの曲を選びました。ただ、なかなか落ち着いて聴く機会がなく、今日やっとじっくり聴いてみたのです。

強力に引っ張られますね。心の中の、”ある空間”に。”孤独の闇の官能”。

夜の闇と微かな光にただ一人。心細く甘いロマンティシズムが、なぜだか懐かしい。突然、子供の頃好きだった、あるイラストレーターの絵を思い出しました。

実家の本棚に、童話画家のイラストを集めたシリーズ物の画集がありました。小学生の私は、その中でも上野紀子さんと味戸ケイコさんの闇が好きでした。幼い少女の幻想・・・孤独、静寂、どこにもない宇宙への郷愁。暗闇への恐怖と憧れ。

特に忘れがたいのは味戸ケイコさんの1枚の絵です。もう手元にないので、どの絵本のイラストだか分からないのですが、圧倒的な漆黒の空の下、ボンヤリと霊界のように光るお花畑がどこまでも広がり、その煙った地平線の上に、ワンピース姿で髪にリボンをなびかせた少女の後ろ姿がたった一人でふわりと浮かんでいるのです。当時私は、どうしてもこの世界に行って、この少女になりたかった。光るお花畑から夜空の暗闇へと浮かび上がりたかった。それは自分でも理解しがたい、強烈な憧れでした。

光るお花畑はさすがにこの世にないけれど、夜空への憧れはどんどん募ってしまい、ベランダの柵に登って星空を眺めるヘンな癖がつきました。ただベランダに立っているよりも、柵に登って背伸びするほうが、ぐんと空が近くなるのです。幸いうちのベランダは庭のキウイ棚と直結しており、落ちても危なくなかったので、思う存分空を眺めましたが、今にも吸い込まれそうになるあの心地よい恐怖と憧れ!結局その癖は中学2年生になるまでやめられず、ついには星に夢中で風邪を引き、それが友達にバレて大笑いされ、人目を気にしてやめてしまいました。

本当は今でもたまに、お花畑の上を飛びたい願望がよぎります。
時々、体まるごと夜空に溶け込みたいと思います。
「一生に一度でいいから・・・」「でもゼッタイ無理だよなぁ・・・」
それらの無邪気で馬鹿げた願望が、実はこの1枚の絵に起因していたことを、この「ナイトクルージング」という曲は思い出させてくれたのでした。