見出し画像

L⇔R “Lefty in the Right”

L⇔Rは1991年11月25日にミニアルバム”L”でデビューし、まもなく30周年の記念日を迎えます。1995年にはドラマ "僕らに愛を!"の主題歌 “KNOCKIN’ ON YOUR DOOR” でオリコンチャート1位を獲得し、多くの人々の記憶に残っているようです。何を隠そう、私もその一人です。

しかし、私が目にしてきた限り、インターネットでL⇔Rが話題になれば必ずと言っていいほど、「ヒット曲以外にも、いい曲がたくさんある!」という熱いコメントがついています。その通り!そして特に、私を含めた多くのファンは、インディーズレーベル ”Wits” からリリースされた作品にも、特別に深い愛情があるのではないでしょうか。この記事では、その中の一枚 "Lefty in the Right” についてお話ししたいと思います。

L⇔Rの最初のフルアルバム “Lefty in the Right” は、1992年のリリース。このアルバムよりも前に、彼らは2枚のミニアルバム "L” と ”R” をリリースしていますが、”L” は5000枚限定、”R”はプロモーション用で、のちに再発されるまで入手困難でした。デビュー作の"L"は、あまりにも高いクオリティと、若い新人にしてはポップマニアを極めすぎている数々の音楽的仕掛け、それに顔を隠したアートワークも手伝って、「有名なミュージシャンが変名で制作したのではないか」と密かに噂されたと聞いています。”Lefty in the Right”は、その”L”と”R”の楽曲を再編成して制作された、非常に密度の高いアルバムです。

ボーカルでメインソングライターの黒沢健一さんは、幼少の頃から英米のポップスやロックが大好きでした。周囲の方々によれば、健一さんは、それらの音楽に関する膨大な知識を有していたそうです。誰もが舌を巻くほどに。たしかに、このアルバムからも、多くの音楽的ルーツを感じることができますよね。しかし何より健一さんご自身が、非常に才能のある天才肌の作曲家でした!

ギターの黒沢秀樹さんは、実のお兄様である健一さんとともに幼少の頃からたくさんの音楽を楽しみ、レコーディング技術についても勉強していたそうです。秀樹さんのギターにはゆったりとした優しさと同時にずっしりとした説得力があり、その味わいは歌にも一貫しています。それでいて、まるでプラチナのような繊細さも併せ持つ声質が、コーラスにおいては魅力的に入り組んだキラキラ感をもたらしています。秀樹さんはいま、生粋のシンガーソングライターとなり、思慮深い歌詞と温かみのあるサウンドを聴かせてくれます。またそのサウンドの温かさは、プロデューサーとしてのカラーの一つにもなっていると思います。

ベースの木下裕晴さんはバリバリに弾けるカッコいいベーシストで、それゆえ今は数々の日本の有名アーティストのステージでサポートを務めています。同世代のバンド中でもずば抜けて高い演奏力に裏打ちされ、江戸っ子気質溢れる粋なベースは、根幹に普遍的なポップ感を貫いているL⇔Rの音楽性において、かなりひねりの効いたスパイスになっていると思います。そうそう、大ヒットアルバム "Let me Roll it!" でレコーディングエンジニアを務めた Jack Joseph Puig 氏は、木下さんのプレイがXTCのColin Moulding に似ていると言ったそうですよ!

キーボードの嶺川貴子さんは、"I Can’t Say Anymore"で印象的なコーラスを披露しています。彼女は様々な声の持ち主ですが、この曲での声はまるで Prefab Sprout の Wendy Smith のようで、いつもその心地よさに、ふわっと笑顔にさせられます。L⇔Rを卒業後は、愛らしくもユニークさなミュージシャンとして活躍し、buffalo daughterやA.D.S. (Asteroid Desert Songs)、 Cornelius/ Keigo Oyamada、 Dymaxionら個性的なミュージシャンたちとアルバムを製作しています。もっと詳しく知りたい方は、英語版Wikipedia “Takako Minekawa”を参照してくださいね。

プロデューサーは岡井大二さん(日本のプログレバンド「四人囃子」のドラマー)で、ドラムスも担当しています。岡井さんは"Love is Real?"のデモで黒沢兄弟を見出し、Flipper’s Guitarのプロデュースをしていた牧村憲一さんにそのバージョンを紹介しました。それを聴いた牧村さんは、L⇔RのためにWitsというレーベルを設立し、エグゼクティブ・プロデューサーを務めました。ちなみに”Wits”とは “Who is The Star?” の意だそうです。

"Lefty in the Right"は本当に、キラキラと輝いています。ここにある特別な何かはいわゆる「初期衝動」と言ってしまうこともできるかもしれませんが、私としては、もう少し踏み込んで考えてみたいのです。まずそこには、音楽史上の数多の開拓者たちへのめいっぱいの愛と、自分たちだけのオリジナルな音楽によって新しい感覚を創造することへの喜びに満ちた好奇心を感じます。それはL⇔Rというバンドのシンボルマークと言えるものでした。しかし「音楽と人」2021年12月号に掲載された最新のインタビューには、このレコーディングに至るまでに自分たちのマニアックな音楽性が受けてきた心無い評価に対する非常に強い反発心が、このアルバムに色濃く影響していることも感じ取れます。

Lefty in the Right━少数派の真実。既存のシステムにどれほど否定されようとも、自分達の信じる素晴らしいものを思う存分に詰め込んだ、まさに信念の結晶。言葉で説明する以上の強烈なメッセージを内に秘めている音楽だからこそ、今の時代において、改めてじっくり聴かれてほしいと思います。特に、自分が少数派であることによる”何か”を感じているあなたに。

それにしても、健一さんの歌は見事と言う他にありません。いったい誰が、"7 Voice" をあんな風に歌えるでしょう?安定的でありながら急進的。L⇔Rはその名が暗示している通り、いくつもの相反する要素を抱えているように思えますが、健一さんの歌はその象徴と言えるのではないでしょうか。さらに付け加えると、その歌はステージにおいてますますエキサイティングなものになるのです。まるでライブ会場の壁を越えて、音楽を愛するすべての人たちに届くように歌ってくれているかのような…今になって、そんなふうに思うのです。


そして最近では、秀樹さんがL⇔Rを歌っています!

秀樹さんのL⇔Rを聴くことができて、私はとても嬉しく思っています。健一さんが旅立ってしまっていても、私は、L⇔Rの音楽はずっと生き続けると信じ、祈っているのです。秀樹さんはきっと、素敵なソロ作品とともにL⇔Rの作品も継いで下さいますし、来たる12月4日に予定されているホールライブでも、何曲か演奏してくださるのではないでしょうか。実はこのライブは、私も含めたファンのクラウドファンディングによって実現したもので、その意味でもとても楽しみにしています。秀樹さんやL⇔Rとゆかりのあるメンバーと、バンド形式によるライブ!気になる方はぜひ、以下のサイトからライブ情報をチェックしてみてくださいね。会場のチケットもまだ少し残っているかもしれませんし、おうちで配信を楽しむこともできます!

このライブへの私の思いは、少し前にも綴っています。

また、秀樹さんの音楽性や過去のライブの様子については、2006年ごろに書いた文章を保存してありますので、もしご興味がおありでしたらお立ち寄りくださいね。

自分は一人ではないと思えるたしかな温もりが、誰かの心まで届きますように。