感謝

今回は、過去のNow Playing記録から。

2009年8月16日
Now Playing : You've Made Me So Very Happy(Brenda Holloway)
posted at 11:41:52

「空腹でスーパーに行ってはいけない」という格言がありますが、
それは買う予定のなかったものまで買ってしまうからですね。
同じ理屈で音楽的に空腹でCDショップに行くとPOPに釣られまくる私は、
買ったのに忘れてるCDが結構あったりします。
だから先ほどのログを見たとき、誰だっけ?と思い出せず、
てっきりそういう風にPOPに釣られて買ったCDの一枚だろうと、
短絡的な決着をつけてそのままにしていました。
しかし、そんな塩漬け音楽がある日突然掘り起こされるのも、
ゆっくりと時間をかけた味わい深い再会です。

少し話は飛びますが、先日のアレサ・フランクリンの訃報で、
私はアレサに関するいくつかの文章に触れました。
恥ずかしながら彼女の歌には、ほぼ触れてない状態です。
「ロックの歴史」的なドキュメンタリー何本かで見たけれど、
手持ちの音源があったかどうか…
Natural Womanは持ってる筈だけど何に収録されていただろう?
20年近く前に機内放送で流れていたI Say A Little Prayerは、
愛聴していたディオンヌのバージョンと比べながら、
興味深く聴いたのを覚えているのですが。

私はどうも、ソウル全般を重く捉えているところがありました。
平和な国の平和な家庭でお気楽に生きてきた自分に、
ソウルの何がわかるのだろうという恐れがありました。
ただ、音楽的な好みから、MOTOWNの音楽性は好意があり、
コンピレーションを2枚ほど買っています。
アレサのことをきっかけに、ソウルも聴いてみたくなったけど、
手持ちの音源がこの2枚しかなかったので、
気持ちも新たにこのコンピレーションを聴いてみました。

すると何度か、とても心惹かれる歌が現れるのです。
その度にアーティスト名を確認するのですが、
確認した3回とも、あのBrenda Hollowayでした。
このコンピレーションは割とよく聴いていたはずなのに、
なぜか今になって、彼女の歌にすごく惹かれる…。
ことに、You’ve Made Me So Very Happyは、
言いようのない喪失感に激しく揺さぶられました。

彼女の歌の魅力はなんでしょう?
3曲から共通して感じたのは、歌手としてのセンスの良さです。
私が感じるセンスの良い歌い手の共通点を考えて見たところ、
どうもリズム感にあるらしいと気づきました。
タイミングはジャストか少々ツッコミ気味で、
スタッカートや付点音符をちゃんと歌える人。
もっさりな私を引っ張ってくれる歯切れとスピード感ですね。
例えばこの曲では、今お話ししたような特徴が、
よく感じ取れるのではないかと思います。

一方、さきほど触れたYou’ve Made Me So Very Happyは、
Blood, Sweat & Tearsのカバーで全米2位になっているのですね。
ブレンダのオリジナルは最高位39位だったそうですが、
私は断然、オリジナルを推したいです。
とにかく歌が素晴らしい!
この曲で喪失感を味わうのは本来どうかしていて、
内容的には愛する歓びを歌った曲です。
「愛の歓び」というよりも「愛する歓び」だと感じます。
私はあなたに出会えて良かった。
私をこんなに幸せにしてくれてありがとう。
大切な人に心からそう伝えられた時こそが、
人として最も満ち足りる瞬間のように思います。
しかし、そんな幸福を描いた歌詞でありながら、
まるで静かな河の奥底から湧き上がる陶酔が極まって、
今にも泣き出しそうな歌。
その幸せな出会いがどれほどの奇跡であり、
幸福がいかに儚いものであるかということまで、
すでに見通せてしまっているかのようです。
まだ21歳と若かった彼女なのに…?
作者クレジットはMOTOWN創始者のBerry Gordy、
作曲家でプロデューサーのFrank Wilsonと並び、
自身と妹のPatrice Hollowayが名を連ねています。
どの部分かはわからないけど、自作曲なのです。

私も、ブレンダに出会えて良かった。
もしかしたらすれ違ったままだったかもしれない出会いに、
もう一度気づくことができて良かった。
今になってやっと、こんな風に歌える人がいると知って、
胸の奥にある痛みが少し洗い流されるように感じます。
出会いとは、仮にそれが一方通行だったとしても、
一人の人間の限られた時間の中で起こった奇跡であり、
思えば思うほどに感謝が極まるものなのだということを、
この歌の世界はちゃんと見守っていてくれるのです。