有名税減税運動

ふと思い出して、大貫妙子さんのLibraryを聴きました。

シュガーベイブ時代からの、2枚組ベスト盤です。ちなみにお安い!
実はこのアルバムを買った頃、なんだかすごく慌ただしくて・・・
知ってる曲も多かったので、きちんと聴いていなかったのですね。
やっと、演奏者やご本人による曲紹介コメントにも目を通しました。
20年前は知る由もなかった真実がズラリ。

「雨の夜明け」「みずうみ」「カイエ」「宇宙みつけた」「タンタンの冒険」等
沢山の名曲が入ってないのは寂しいけど、そもそも入りきらないよなー。
それでもこれだけ美しい曲が並んでいれば満足度は高いのではないでしょうか。
一番よく聴いていた時期という意味で、やはりDisc1が圧倒的に懐かしいです。
当時の友人にレコードからテープに落としてもらって聴いていたのだけど、
「Tema Purissima」はスタジオライブをラジオから録って、
初めて自力で出会った曲。
アルバム「A SLICE OF LIFE」はお店で買おうとして迷って、
結局買わなかったけど、この時迷ったのはLPだったかCDだったか・・・
たしか、もうCDだった。
その2年後の「NEW MOON」(1990)からはCDで持ってる・・・。
そんなことをふと思い出すと、当時の感動が妙にリアルに蘇ってきます。

カバーされることも多いという人気曲「海と少年」は私も大好きですが、
ご本人はあまり気に入っていないというお話にちょっとビックリ。
売れるアルバムを作るように言われて、自由に作れなかった曲らしいのです。
たしかに他の曲に比べてこの曲は全体的に分かりやすい色気みたいなのがあり、
やや異色と言えるのかもしれないです。
他の曲に色気がないみたいな言い方だけど、うーんどう言えばいいのかな。
他の曲はやっぱり、マイペースな感じが多いんですよね。
ドロドロしてなくて、透明感はあっても冷たくなくて、有機的にサッパリして、
どこか植物的な瑞々しさがあって・・・ただ、押しは弱めかな。
でもそこには、彼女なりの独特の色気というものも、かなりあるんですけど。
よく言われる少女性はあまり感じず、やや中性的な大人の女性というイメージ。
内容はクラシカルな詩集や映画のような世界であり、時に絵本の世界もあり、
そして音の感触は、新鮮な野菜を食べるような感触、あるいは真っ新な感じ、
いずれにせよ非常にフレッシュな、視覚と味覚の混ざり合う感覚で、
20年経った今聴いてもその感覚は変わっていないところがまた不思議で。
ただそれは80年代ソロ作品の感触。小林武史さんと組むようになってからの曲も
決して嫌いではないのだけど、ちょっとその新鮮な感じが消えちゃったかな。
当時想像していたお人柄は、儚さを知りつつも、このテイストを貫ける頑固さが
美意識においては絶対ある筈だ!と思ってました。
実際サッパリした方ですよね。

しかしつくづく思うのは、教授のアレンジ独特の・・・
ツボを押さえたあざとさというか、
「このへんでこういうのを差し込むと洒落てるでしょ?」っていう術中に
見事にハマっちゃう自分の基礎は10代前半で刷り込まれていたということです。
ちなみに、「T'en Vas Pas」の日本語Ver.であり、原田知世さんも歌っている
「彼と彼女のソネット」は、寺田康彦さんのMIXでした。
また曲紹介コメントでは、牧村憲一さんとの出会いについて書かれていました。

一連のコメントの中に「人から見られる仕事というのは…」という部分があり、
なんだか切なく、やりきれない気持ちになってしまいました。
誰も自分を知らない場所に行きたくて、しばらくロンドンで暮らしたそうです。
細野さんも人に顔を知られてしまうのは本当にイヤなものだと語ってました。
私もよくこのことについて考えます。考えたって仕方がないんだけど・・・
どこに居ても「あ、あの人だ」って一挙手一投足を厳しくチェックされたり、
仕事の成り行きからプライベートに至るまで大勢の人に好奇の目で見られたり、
心ない人に誤解されたり嫌がらせされたり、といった負の感情はもちろん、
私みたいな自称ファンに一方的なイメージ持たれて色々書かれてしまったり、
熱狂的なファンの奇行に悩んだり・・・愛されるが故の悩みもあるわけで。
だからといって愛されない方が良いかというとまた違うだろうし。
辛いだろうな・・・それでも芸術は人と人との繋がりそのものであり、
特に音楽が人の心に及ぼす力は絶大だから、どうにも切り離せず・・・
私自身も、ミュージシャンという存在に対する思いにいつも迷いがあるのです。
ああ、また同じ事を何度も言ってますね・・・
自覚はあるんですけども(苦笑)。

にしても、大貫さんは近年また教授と一緒にお仕事されてたんですね。
コメントを読んでいても、未だにいい関係でいるようで、少し驚きました。
それとも長い年月を経たからこそ、できることなのか・・・いやもしかすると、
一緒に音楽を作るということは、そういうものを超越したことなのでしょうか。
美意識を共有した仲間、という雰囲気が、コメントからも伝わってきました。
あ、私自ら増税してますかね。どうすれば減税できるんだ、有名税。

---2006/9/19追記---
彼女の9/18付けの公式日記によると、
気持ちも新たに再出発、という状況のようです。
細かいことは分からないのですが・・・。
最近の作品では「note」というアルバムが評判も良く、
ご本人もお気に入りのようなので、
近いうちに聴いてみようと思っています。