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風よ、相馬へ ~相馬野馬追2014~ (後)

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その山の名は、本陣山と言う。

炎天下を馬と騎馬武者が歩きに歩いて約2.5km。その先に待ち構える決戦の舞台、雲雀ヶ原祭場地。

相馬野馬追のメインイベントと言える「甲冑競馬」「神旗争奪戦」が行なわれる地を見下ろす位置に、本陣山は聳えています。

祭場と本陣山を結ぶ坂を「羊腸の坂」と呼びます。騎馬武者達が祭場へ向かう際、または退場する際にこの坂を通るのが慣わしなのです。(写真は2012年のもの)

相馬野馬追の甲冑競馬当日は、ここが数万人の人々でびっしりと埋まります。

良い席は団体席となっているので、ベストの場所で観覧したい場合はツアーをお勧めします。

さて今回の祭りの舞台、雲雀ヶ原はただの広場ではありません。

この写真にもある通り、今回の祭りに騎馬武者を送り込んだ相馬太田神社、相馬小高神社、相馬中村神社の「飛地境内」。すなわちここは、神社の一部となっているのです。

甲冑競馬に先立ち、まずは開式の挨拶、民謡「相馬流れ山」披露などが行なわれます。

今年の総大将訓辞を務めるのは、相馬家第三十三代当主、相馬和胤(かずたね)氏の次男、相馬陽胤(きよたね)氏。昨年に続いての総大将となります。

やはり彼の挨拶も、最初は2011年に起こった東日本大震災、並びに福島第一原発事故の話から始まりました。

これらの災害で最大の被災地となったのは、悔しいことにこの相馬中村藩の藩領であったこと。藩領に住む人々の中には、未だに自宅へ戻ることすら出来ない苦難を味わっている者もいること。

だが総大将は、決して愚痴や恨み言で終わらせる事はありませんでした。

「苦難に打ち克つ大切さを先祖代々伝えてきたものこそが、この相馬野馬追である! 相馬の人々も今の苦難に打ち克ち、必ずや復興を遂げる!」

総大将は、数万の観衆に向けて力強く「復興宣言」を行ないました。

螺役(らやく)の鳴らす法螺貝の音が響くと、いよいよ甲冑競馬の始まりです。

スタート地点で輪乗りする騎馬武者の中から三~八名程度が選ばれ、審判に出場メンバーが告げられます。

この甲冑競馬には、通常の競馬のようなゲートもなければバリアー(昭和三十年代まで使っていた競馬のスタート装置)もありません。相撲の立会いと同じく、騎馬達の息が合ったときがスタートのタイミングなのです。

騎馬武者達は重い鎧兜だけでなく、巨大な幟旗をも付けています。体の動きは制限され、なおかつ風の抵抗を受けてバランスを崩し易いにもかかわらず、本職の騎手顔負けの騎乗技術を見せてくれます。

コーナーの形も比較的急、コース幅も決して広くありません。その中できちんとレースを進めるのは、大変な技術です。

見事勝利した騎馬武者は、審判席から着順を書かれた券を受け取ります。それを口にくわえて羊腸の坂を駆け上がるのが慣わしとなっています。

なおレースに出場するのは男性だけではありません。女武者も男武者に混じって出場し、性別関係なしの勇壮な走りっぷりを見せてくれます。これもまた甲冑競馬の素晴らしさでしょう。

甲冑競馬が9レースほど終わると、本日のメインイベント「神旗争奪戦」となります。

先程まで競馬が行なわれていた場所の内側、草むらの部分に出場する馬と騎馬武者達が集合しました。

ここで花火と共に打ち上げられる四本の神旗を巡り、彼らが壮絶な死闘を繰り広げます。青い旗は相馬中村神社、赤い旗は相馬太田神社、黄色い旗は相馬小高神社にて、それぞれ祈祷を受けている霊験あらたかなものなのです。

今年は風が強い中での開催となり、神旗がコース外側に落ちてしまうなどのアクシデントもありました。

打ちあがった神旗は、手を使わずに旗取り専用の竹ムチを使って取るのがルール。それだけに落下地点では壮絶な争いが繰り広げられます。

先程の競馬同様、男も女も入り乱れての乱戦。怪我人が出るので救急車も待機します。

今年は強い風の影響で騎馬武者達が一箇所に殺到、観客席に流されて無効となった旗が出たり、争いの中で落馬負傷して救急車で運ばれた武者も出てしまいました。

見事に神旗を手にした武者は、意気揚々と羊腸の坂を駆け上り、地元の誇りを胸に高らかに勝利を宣言。これぞ祭りのクライマックスと言えるでしょう。(写真は2012年のもの)

観衆と騎馬武者の熱気に包まれる中、神旗争奪戦は厳粛に進められます。カメラマンや観客が危険な位置に入った時には、審判長より

「報道関係者、観覧者に申し上げる! 一コーナー付近にいる者は、速やかに下がれ! 下がらない限り花火は打ち上げない!」

決して観客に媚びた態度は見せません。これこそが相馬野馬追の姿であり、住民と観客が一体となって作り上げるイベントだということが分かります。「お客様は神様」などという甘い言葉は、武士の世界では無用なのです。

こうして2014年の相馬野馬追の二日目行事は終わりました。正しくは三日目に小高地区で行なわれる野馬懸行事をもって終了となりますが、メインは二日目となります。

この祭りに伝わる精神、それは上の写真にもある「不忘乱」であると思います。平和な世の中にあっても乱世を忘れず、常に準備する。そしていかなる苦難が待ち構えていたとしても、それを嘆かずに乗り越えることを考える。

武士の精神は古風かつアナクロして今の私達には忘れられつつありますが、彼らの精神は今でも間違いなく重要なものであり、忘れてはならないものだということを、この祭りに来る度に再認識させられるのでした。

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「競馬最強の法則」にて血統理論記事を短期連載しておりました。血統の世界は日々世代を変えてゆくものだけに、常に新しい視点で旧来のやり方にとらわれない発想をお伝えしたいと思います。