僕は写真が撮れない……が
人にはカメラの腕に関わらず、心に響く写真というものがあります。
例えばこれ。昭和53年10月に発行された交通公社の時刻表。
普通時刻表の写真と言うものは、列車の写真をドン、と据えるもの。そこに風光明媚な景色とかを入れて季節感を出しつつ、旅行への憧れを煽るのが一般的セオリーなんですが。
ところがこの写真、ぱっと見では列車とは全く分からない。辛うじて列車の窓枠やテーブルが見えるだけというもの。
にもかかわらずこの写真は見事なまでに「時刻表の写真」であり「旅行の写真」であると断言できる。これは凄い。
中心になっているのは飴をなめる少女。駅のホームに一人で立ち、どこか一点を見つめ続ける。
旧型客車独特の真っ暗な車内から薄暗いホームを撮影したために黒っぽい画面構成になる中、一際彼女の真っ白い帽子と服が強調され、読者の目をピンポイントに集中させる。これだけでも陰影の使い方を計算しつくした見事な写真だと思うのです。
そして少女の服装は「いかにも旅行に備えておめかしした」もの。普段なら着せてもらえないであろうよそ行きの洋服に帽子、ピンク色のバッグ。薄暗いホームにぱっと映えるこの姿は、まさに旅立ちのスナップショットなのです。
時刻表の復刻版を作成する際に行なわれた人気投票で上位となった「昭和53年10月」。内容も鉄道マニアからすれば垂涎ものです。我々の言う「ゴーサントオ」白紙ダイヤ改正で全国に広がった特急網、今とは比較にならないローカル線の数に、今は失われた急行列車に夜行列車の数々。
だがそれ以上にこの時刻表を名作たらしめたのが
列車の姿を写すことなく列車による旅行を表現した
表紙の写真にあることは間違いない、私はそう確信しているのです。
ちなみにこの時刻表は各電子書籍ストアで購入可能です。
http://books.rakuten.co.jp/rk/46000d8b287433419a0fa5f7b2c1b7cf/
http://honto.jp/ebook/pd_25732041.html
「競馬最強の法則」にて血統理論記事を短期連載しておりました。血統の世界は日々世代を変えてゆくものだけに、常に新しい視点で旧来のやり方にとらわれない発想をお伝えしたいと思います。