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【偏愛映画】RUSH ~プライドと友情~

 私は、映画を見ない。

 私はスポーツが好きだ。筋書きの無いドラマは常に目の前に展開されているから、映画も小説も必要は無い。そう考えて今まで生きてきました。

 だがそんな私に、生まれて初めて二度も映画館に足を運ばせた作品。それがこの『RUSH ~プライドと友情~』

 この作品は、1976年のF1世界選手権を描いたものです。

 主人公はジェームス・ハント(GBR)、1976年のワールドチャンピオン。

 もう一人の主人公はニキ・ラウダ(AUT)、1975年と1977年、そして1984年のワールドチャンピオン。

 この二人、走りのスタイルも人生のスタイルも互いにバラバラ。

 ハントは「女大好き、酒大好き(映画では語られていないがドラッグも好き)、荒っぽい運転で車を壊すので、付いたあだ名が『HUNT THE SHUNT(壊し屋)』。

 かたやラウダは「理論派、堅実派、女性にも誠実(ただし晩年は……w)」という性格。

 若き日にサーキットで鎬を削った二人が、最後にはレースの最高峰、F1の舞台でチャンピオン争いをするという実話を基にしたストーリーです。

 性格が正反対のダブル主人公という辺りからして脚色感満載なのに、実はそれが全くの実話というのが凄い。F1に関してそれなりに勉強してきた自分でも「ああ、まったく史実通りです」と認めざるを得ないリアリティ。

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 この物語の最大のポイントは、中盤で起きてしまう悲劇的アクシデント。1976年8月1日。大雨のドイツ・アイフェル高原にあるニュルブルクリンクサーキット。全長22km超という、今では考えられない構造のサーキットにおいて大事故が発生するのです。

 サスペンション故障で山肌に激突したラウダのフェラーリ312Tに、後続の車が衝突。衝撃でヘルメットが脱げてしまったラウダの顔は焼けただれ、運び込まれた病院には牧師が呼ばれて最後の祈りを捧げることに。(この下りは映画では声だけ聞こえました)

 だが彼は生命が助かっただけでなく、なんと40日後にはサーキットに復帰。再びチャンピオン争いに参戦するのです。

 ラウダの欠場、そして怪我で失われた一発の速さにより、ハントとの得点差が一気に縮まる中、最後の決戦の舞台は日本、富士スピードウェイ。

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 だが富士スピードウェイはあいにくの大雨。これはニキ・ラウダにとって悪夢となったニュルブルクリンクのレースと全く同じコンディションであることを意味したのです。

 生死の境目から僅か40日で戻ってきたラウダ、果たしてこの大雨を克服できるのか。ハントは日本でポイント差を逆転し、ワールドチャンピオンの座を射止めることが出来るのか。

 クライマックスで起こる仰天のドラマについては、F1ファンなら知らない者はいませんが、未見の方には是非その目で確かめてもらいたいものです。

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 『ビューティフル・マインド』でアカデミー賞を獲得、その後『ダヴィンチ・コード』を製作した監督ロン・ハワードの作品。

 当時のままの旧車を使用し、当時の関係者の証言を元に緻密かつ高精度で物語を構成。マニアが見ても違和感がない作りには驚きを禁じえませんでした。

 突っ込みどころを探しに来た私のような人間も脱帽し、思わず二度も映画館に向かってしまったこの『RUSH』。キャラクターの対比を極限まで突き詰めたドラマ作りは、ただのノンフィクションドキュメンタリーを超えたものがありました。

 これこそ、私にとっての最高の「偏愛」映画に他なりません。

「競馬最強の法則」にて血統理論記事を短期連載しておりました。血統の世界は日々世代を変えてゆくものだけに、常に新しい視点で旧来のやり方にとらわれない発想をお伝えしたいと思います。