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【議事録】2023年度第1回真山ゼミ 『ハゲタカ』読書会 

今回のゼミのテーマ

今回のゼミでは、真山先生のデビュー作である『ハゲタカ』の読書会を開催しました。以下の事前課題をゼミ生に課し、これを踏まえて議論をしました。

事前課題

  1. 『ハゲタカ』の上下巻を読んでくる。(『ハゲタカ』はシリーズ化していますが、ここでは第一作の上下巻を指しています。『ハゲタカ』の上下巻の購入URLはこちらから。上巻下巻。)

  2. 真山先生への質問を1つ以上考えてくる。

  3. 小説の中の出来事を1つ抜き出して、実際に日本で起きたことと比較する。

文章やスライドの形にまとめる必要はありません。事前課題2と3についてゼミの場で話してもらいます。

ゼミの場では事前課題の2について議論しました。3については時間の関係で議論できませんでした。考えてきてくださった参加者の皆様、すみませんでした。

『ハゲタカ』概要


第一部 バルクセール



第二部 プレパッケージ



第三部 バイアウト


事前課題

  1. 真山先生への質問

  2. 小説の中の出来事と現実を比較


学生がハゲタカを選んだ理由

  • これまでは政治・社会を扱うことが多かった。

  • 今年は日銀総裁の交代、物価高も話題になっており、経済をテーマに議論してみたい。

  • 先生の代表作

今更20年前の作品を扱うことの意義(by真山先生)

  • この4年間で、真山先生のことを本当に知った状態で参加していた人は少なかった
    =その人が「何者か」を知らない状態

  • その人を知るために最も良いのはインタビューと思われがち。しかし、インタビューは書き手の思惑が入る。インタビューのイメージが独り歩きする。

  • 一番良いのは、本人が書いているもの。但し、有名な作家などの場合には自分で書いてない場合は落とし穴がある。しゃべったものを他の人がまとめる、だと脚色が入る。

  • 小説だとゴーストライターが存在できないため、書き手の素顔が出てくる。

  • 有名だから参加するのではなく、興味を持って(ある程度その人のことを知って)参加するもの。

  • 今後ゼミをやっていく中で、講師がどんな人か知っておいた方が良い。

小説を読む意義について

  • 発表当時は、小説を読んだ人が現実世界と結び付けて考えることができる事象だった。

  • ミカドホテルはフィクションだが、本当に出てきた(モデルがある)会社は読む人が読めばすぐ分かる。

  • 人間の動きを見なければ、何が起きているかは本当には分からない。

  • (人には)それぞれ自分の視点しか無い。

  • 人の思惑がわかれば面白いが、それは現実にはできない。小説であれば登場人物の内面が全てわかる。小説を通し色々なひとの人生を追体験できる。

  • NHKは「お金持ちは幸せなのか」「貧乏人は不幸なのか」というキーワードでドラマを作ったが、その価値観は人それぞれ。

  • 世の中には必ず始まりがあるが、終わりはない。

  • 小説の中では何やっているのか一見わからないエピソードがたくさんあり、それが繋がっていくが、現実世界ではそれらの繋がりは見えてこない。

  • 今の若い人たちは、『ハゲタカ』を歴史小説として読み始めている。

  • 自分たちが生まれる直前のことを本当はもっと知るべき。遠い昔のことではなく。

  • ハゲタカは何年何月、というのが書いてあるので、歴史をたどる事ができる。読めばバブルのイメージが変わる。

  • 以上をまとめると、今年度の始まりとしては良い始まりだと思う。

  • 書いた人がいるのだから、おこがましいと思わず、せっかく書いた人がいるのでなんでも質問してほしい。


真山先生への質問

参加者が考えてきた、真山先生への質問を挙げてもらい、先生に答えていただきました。

  • 学生A:この小説には、日本経済の問題点を指摘するという目的があったと思う。日本経済の問題点で変わった点、変わらなかった点はどこだと思うか。
    作者のメッセージが小説中に現れる部分があったと思うが、それは本当にどの程度ベタに思っていたのか。

  • 学生B:匿名口座は小説家としての想像力なのか、本当にあったのか。

  • 学生C:書くに至った経緯、どんな背景があったか。どんなモチベーションがあったか。それとも、出版社からのオススメか。

  • 学生D:最初の方、リンさんが日本の法整備について、民事再生法などの法整備がされていないと言われているが、20年経ってどうなったか。

  • 学生E:新渡戸稲造の武士道の文言が引用されていたが、これは真山先生の考えなのか、それとも人生の中で他者のなかで貫通する考えなのか。

  • 学生F:取材のやり方。この当時、金融の専門外だったと思うが、どれくらいの人数に取材したか。取材した人の中で一番偉い立場の人は誰か、どこまで聞けたか?

  • 学生G:リンはなぜ鷲津にこんなに入れ込んでいるのか。

  • 学生H:「日本はルールを破る国だ」(とあるが、)日本はコロナ禍で自粛する国、自分の直感と反する。

  • 学生I:戦後すぐは日本の武士道がまだ尊敬の対象として見られていたが、今は海外から日本の武士道はどう見られているのか。バルクセールで激昂していたが実際にそこまで感情的になることはあるのか。

  • 学生J:プロフェッショナルな人が出てくる。芝野と飯島が好き。勝った方も爽快ではなく、割り切れなさが残る。プロの倫理を訴えたかったのか。日本人にどんな希望を持ってほしくて書いたのか。個人的には飯島がすごく好き。大阪の商人vs鷲津のアメリカの商人。この対決のとき、どんなことを考えていたか。

  • 学生K:なぜ鷲津を主人公にしたのか。バブル後を描くなら主人公は他でも描けたはず。自分ならリンを主人公にする。


日本経済の問題点の変化、作者のメッセージについて

(学生A)この小説には、日本経済の問題点を指摘するという目的があったと思う。日本経済の問題点で変わった点、変わらなかった点はどこだと思うか。
作者のメッセージが小説中に現れる部分があったと思うが、それは本当にどの程度ベタに思っていたのか。
(以下、先生の回答)

  • 日本経済は基本的には変わっていないが、金融システムは真逆になった。

  • (まず前提として)経済小説の作法がある(cf.ミステリー小説)。

  • 経済小説はお勉強でありなさい、というルールがある。

    • ダイヤモンド社でゴーストライター→「経済小説大賞」を出したい。

    • ダブルギアリングが売れたら一人で書かせてくれ。」

    • 経済はいまだに大っ嫌い。

    • 不良債権やらM&Aやらはとても難しいというイメージがあったが、小説なら書ける。

  • 経済が嫌いなのは、世の中を数字で測るのが嫌いだから(数学:公式をベースにして物事をやり取りできるため共通言語があって話ができる)。

  • (経済の)原点は人の欲望。

  • 経済小説の作法は守るが、お勉強になりつつも人間臭いものが書きたかった。陰謀小説っぽい国際金融を書きたいと思ったため、他の経済小説とは毛色が異なる。

  • 全て縛られている、経営者が責任を取らない、これが日本の変わっていない問題点。生命の摂理として、淘汰されないといけない。

  • 切磋琢磨し頑張らない企業はつぶすべきだが、実際は国が助けている。

  • スタートアップは、助けないから成功するのであり、GAFAの下には沢山のつぶれた企業がある。

  • 変わったものがあるとすれば、バブル前は東京株式市場には日本の投資家しかいなかったが、バブル後はオープンにした。

  • 企業は株主の物だというならば、日本の上場企業のほとんどは「外資系」企業となる。昔は、良い製品をつくっていれば良い企業だったが、外国から投資家が入ってきたことによって、今は株価が高くないと良い企業にならなくなった。

  • 会社は監査法人がいる。大きな会社の会計報告書の監査は第三者機関がやらなきゃいけない。しかし、監査法人にお金を払っているのは会社であるため、会社が監査法人に赤字を隠すよう癒着してしまえばよくなる。

  • 欧米ではこれに対して大変制裁が厳しく、ルールを守る。

  • ハゲタカでは利益相反という考え方が出てきた。経済ではアドバイザーにとってクライアントは買う側か売る側かどちらかだけにすべきで、アメリカでそれをやると国からつぶされるが、日本ではバレないだろう、で進む。

  • ベタで作者の意見を言っている。ここまで自分の意見を出すべきではなかったかもしれない。

  • 「簿記も読めないのに」と上から目線でバカにする専門家がたくさんいた。しかし、話を聞いていると責任転嫁ばかり。

  • お金は人を腐敗させていく。

  • 失われた30年になった。立ち直る兆しが出てきたときにリーマンショック、再び回復しそうになった時に東日本大震災が起きた。安倍晋三が国債をどんどん発行し、日銀の株をどんどん買って無理やりインフレにしようとしたが、これは悪手で、今の状態はバブル時よりひどいかもしれない。


匿名口座は本当にあったのか

(学生B)匿名口座は小説家としての想像力なのか、本当にあったのか。

  • 匿名口座は海外でもある。タックスヘイブンとほぼ同義。日本では匿名口座は認められていないが、抜け道がある。

  • 約束手形(債権)は売り買いができるが、そのとき買い手の名前を隠せる。そのため、国会議員への送金に使われた。

  • ハゲタカでは、小説でこうなれば面白いだろうと思ったことを書いたが、実は知らない間に実際に起きていたという事がたくさんあるため、出版後に「なぜ知っているのか」と様々な問い合わせが来た。

  • 産業再生機構の話、作り話だったが、情報リークのスパイ探しがずっと続いた。「小説家の想像力をなめないでほしい」


この本を書くに至った経緯

(学生C)書くに至った経緯、どんな背景があったか。どんなモチベーションがあったか。それとも、出版社からのオススメか。

  • ダブルギアリングで成功して、(書くなら)ダイヤモンド社で経済小説を書けと言われた。

  • 当時はだれも経済小説の先生がハゲタカファンドを書いていなかった。

  • 面白い経済小説を書きたい、というのがあった。

  • 経済小説は本当につまらない。陰謀小説にしてもいいですか。

  • 面白く、経済をバカにしたかった。

  • 「人のせいにするのはやめよう」「水に流そう」日本はみんな自分の責任にすることを嫌がる文化があるが、これは自分が損をするだけ。バブルの時、資産がアメリカにとられているし、銀行員がアメリカに行っているが彼らを追跡することもない。

  • ハゲタカというのは皮肉で、この国の経済をダメにしたのはハゲタカではなく日本の経営者であると伝えたかった。

  • 日本人はアジアをすごく馬鹿にしているが、日本はちょっと西洋かぶれして粉飾しているだけで、根っこは変わらない。日本経済のトップが残念だと思った。

  • 金融をやっている人はハゲタカを読んでいる。


日本の法整備のその後

(学生D)最初の方、リンさんが日本の法整備について、民事再生法とかの法整備がされていないと言われているが、20年経ってどうなったか。

  • 会社が潰れると、かつて会社更生法しか無かった。「会社を潰してください。」借金を全部回収してからしか再生できなかった。

  • 借金の返済期限が、つぶれた瞬間になくなり、すぐに返さなければ会社を更生しないという法律。

  • 外資系は海外に進出するとき、六法全書を読まされる。

  • 利益相反もまだ法律化されていないので、外資系は日本では利益相反をやっている。

  • 明文化されていない商慣習が日本にはある。

  • 例えば、掘削技術のような日本独自の免許があると、海外の免許しか持っていない場合は日本で携われない。


新渡戸稲造の武士道

(学生E)新渡戸稲造の武士道の文言が引用されていたが、これは真山先生の考えなのか、それとも人生の中で他者のなかで貫通する考えなのか。

  • そもそも映画の話をしてもピンとこないかもしれないが、「ラストサムライ」というトム・クルーズが日本にやってくる映画がある。ひたすら武士道を語る。

  • なぜアメリカ人に武士道を教わらなければならないのか?と思い、新渡戸稲造の本を読み始めた。西洋人は東洋哲学が好き。

  • 本当は、新渡戸稲造は日本語で書いてない。英語で説明している。きれいごとばっかりなのも事実。

  • 引用を各章にいれる「エピグラフ」は海外小説ではよくある手法。この引用は作家の思惑の見せ所で、どれにしようかと考えた。

  • エピグラフに武士道を使ったことは、日本人の武士道の発想を知ってもらうには良い。


取材のやり方

(学生F)取材のやり方。この当時、金融の専門外だったと思うが、どれくらいの人数に取材したか。取材した人の中で一番偉い立場の人、どこまで聞けた?

  • ほとんどエンタメの仕事をしていた。

  • 記者は二年半で辞めたため地方記者で終わった。

  • 経営者、ファンド、大蔵省に取材したことは無かった。

  • とりあえずファンド、経済、大蔵省などに強い知り合いを伝って取材。当時は取材のつてがなかったため100人たどったが、今思えば10人で書ける。取材をするときのコツは、聞いている途中に「断らない」こと。2/3は一言も使わず、参考にもならなかったが、似たような境遇の人たちの共通項が見え、キャラクターが作れるようになる。

  • 当時は(日本の)ゴールドマンサックスで外国人は従業員数百人のうち数人しかおらず、ほとんどが高級スーツを着ていたわけではない、というギャップ、実情が見えたのが面白い。

  • 会った瞬間にこの人の話、いらないなと思っても、話を聞き続けると他の人を紹介してくれる。

  • 政府の経済諮問会議の人には聞いたことがある。

  • 外資のMD、ナンバーツーくらい(が一番偉かった)。

  • 事務次官に聞いてもしょうがなく、課長、課長補佐が一番詳しい。

  • 偉い人は話せないが、辞めた後の偉い人はめっちゃ話してくれる。「俺が人を呼んであげるよ。」


リンはなぜ…?

(学生G)リンはなぜ鷲津にこんなに入れ込んでいるのか。

  • 小説では冴えない男に美人がいれこむ、というのが良い。

  • 鷲津がスーパーマンになり過ぎない条件がいくつかある。その一つが、鷲津がリンに頭が上がらないこと。

  • 男性ファンは貴子好きが多い。

  • 作者としては鷲津以外が良いわけないと思うが、芝野が4割ほど支持され、飯島は人気。アランも人気。

  • 小説は作者の物と思っていたが、読者の物。


日本はルールを破る国か?

(学生H)「日本はルールを破る国だ」(とあるが、)日本はコロナ禍で自粛する国、自分の直感と反する。

  • 鷲津は、ルールは破るものだと何回か言っているはず。

  • 西洋は性悪説、ルールは破られる前提だが、だから縛りにいく。罰せられることをやっていかないと生き残れないという考え方。縛るのが法律、倫理を支えるのが宗教。

  • 欧米はバレたらダメだと思っている。

  • 日本は堂々とルールを破る。アジア的。

  • 自粛と、外出禁止令の違い。

  • ウォール街に取材に行った際、アメリカにとって強欲は当たり前で、アメリカンドリームに必要だ、といわれた。

  • 聖書の七つの大罪の一つじゃないか。と言ったら鼻で笑われた。できないことだからかいてあるんじゃないか。


日本の武士道、バルクセールの様子

(学生I)戦後すぐは日本の武士道がまだ尊敬の対象として見られていたが、今は海外から日本の武士道はどう見られているのか。バルクセールで激昂していたが実際にそこまで感情的になることはあるのか。

  • バルクセールの現場に行ったことが無いため分からないが。

  • 実際にはもっと淡々と進み、条件を会社に持ち帰った時に上司に怒られるのだろう。

  • そもそもちゃんとお金を返すような案件はバルクセールにいれないため、0円と査定されて当たり前。複数の借金をしている場合もある。

  • 日本の銀行が海外で投資を行う権利は、その銀行の自己資本率が高くないと獲得できない。バブル崩壊後に、海外から、不良債権処理しないと今後の融資はもちろん、過去に成立した案件からも撤退させられそうになった。

  • 何日までに不良債権を何割以下にしないと頭取の逮捕か、銀行をつぶすぞと言われていたため不良債権を早く処分したかった。

  • 国内での不良債権の処理の仕方が分からなかった。

  • カーギル、もともと農薬の会社が日本で初めて不良債権処理をした。GEも不良債権処理をした。


何を訴えたかったか、商人同士の対決で考えたこと

(学生J)プロフェッショナルな人が出てくる。芝野と飯島が好き。勝った方も爽快ではなく、割り切れなさが残る。プロの倫理を訴えたかったのか。日本人にどんな希望を持ってほしくて書いたのか。個人的には飯島がすごく好き。大阪の商人vs鷲津のアメリカの商人。この対決のとき、どんなことを考えていたか。

  • 勝ち負けの話からすると、小説だから落とし前をつける必要があった。

  • 人のせいにするのはやめましょう、というのが最大のメッセージ。飯島は客の情報を守る最後の門番だが、とんでもない悪役にした。

  • 最初、ハゲタカは200ページくらい(さらに)ついていたが、単行本化でカット。もともとゴルフ場の話など(があった)。細かい銀行の債権処理の話もした。もともと芝野が主人公だった。

  • 悪い人がたくさん出てきていたが、しょぼかったため、飯島に悪役を押し付けた。


鷲津を主人公にした理由

(学生K)なぜ鷲津を主人公にしたのか。バブル後を描くなら主人公は他でも描けたはず。自分ならリンを主人公にする。

  • もともと主人公の芝野をいじめるために鷲津をいれていたが、飯島を入れて鷲津がカッコ良い主人公に見えるようにした。

  • 鷲津のいないハゲタカはあり得ない。芝野も鷲津がいるから輝くのであり、ただの経済小説になってしまう。

  • ニューヨークといえばミュージカルとジャズ

  • 日本のサラリーマンは型にはまっているので鷲津にはなれない。

  • ヒーローを作ると読者は引いてしまうが、ダークヒーローは良い。

  • 小説のリアリティアップにもなる。

  • ユダヤビジネスをどう読者に伝えるかを考えた。大阪の商人はユダヤビジネスが好き。

  • 世間が言っている大阪的なものは全部嫌い。

  • 鷲津の貧相な恰好も、「与しやすい」と思わせるため。そう相手に思わせたら半分勝ち。

  • プロを書きたい。プロは言い訳をしない。

  • 日本だとプロとして生きるよりも組織人として生きろと言われる。

  • 最初から組織人として生きてこなかった鷲津を登場させた方が良いと思った。


その後の質疑応答

(先生のコメント)
経済はシステムっぽく見え、国際政治は今国際経済が主役。
戦争が起こった時に安くなったのは(円ではなく、)これまではユーロやポンドやマルクが犠牲になった。日本が変に円高志向だったことも影響している。金利が無かったことによって日本がターゲットになった。

小説、映画はめでたしめでたしで終わるが、日常は続く。
こんなに辛い思いをしているのに報われない日本経済。なぜ0からスタートしないのか。むしろ0にしたい。「景気の底なんてついてない」
景気の定義、経済学者によれば株価。景気良い、と言うのは大企業の経営者だけ。

給料が安い、欲しいものを買えない。欲しいものが買えるのが景気良い。難しいのは、日本は、欲しいものがない。
昔は手当が出た。子供のため、旅行のため、休暇のため、住宅のための手当があった。
(経済的に)ほっとする、という場面が少ない。

安倍政権前後で100万円の価値は変わっている。しかし、株価や景気の指標ばかりを見ているが、実感は見ていない。

物が買えない、お金が貯まらない。

(学生の質問)
ハゲタカビジネスは、日本の企業を買って再生させる。経営陣にとってはたまらないかもしれないが、労働者はほぼ再雇用されるのに、なぜハゲタカ嫌いになったのか。

(先生のコメント)
山一証券が破綻した時、色んな銀行や生命保険会社が潰れていった。そもそも生命保険会社は絶対破綻しない仕組みになっているはず。家賃収入でも安定できたはずだが、手を出し過ぎて破綻した。外資に買われたらあなたの預金がなくなるかも、というネガキャンをおこなった。背任か特別背任により経営陣が追及される可能性があった。
つぶれかけた会社の再生で一番手っ取り早いのは人を切る事。人を減らし、事業を減らし商品のパターンも減らした。すると、結果的に潰れる子会社、下請けも出てくる。
この点を誇張された。
終身雇用が当たり前の国で、退職金が高い文化が浸透していたところで、外資に取られるのを嫌がった。今、GAFAは人を切りまくっている。

(学生の質問)
アメリカは日本に負けていた時代に何を行っていたのか。

(先生のコメント)
アメリカは90年代ぐらいまで双子の赤字でダメダメだった。バブル崩壊ぐらいにMITが経済学者や工学者を派遣し、日本の「強さ」を調べ始めた。これによって、日本の銀行が不良債権を抱えていたり、時価ではなく簿価会計を行っていたりといった問題を見つけ、日本をつぶしに来た。

アメリカが再生できたのはインターネットのおかげ。新陳代謝が激しい。負けることなんてなんでもない。負けたら古い世代が退場して、新しい世代が勝っていく。
バベルの塔に怒った神は人間の言語をバラバラにした。ネット決済によって言語が超えられなかった壁をドルが超えた。

日本は東ローマ帝国と同じで弱く、立ち直りにくい。日本が研究対象とすべき国は中国だが、日本は中国を馬鹿にしている。韓国は財閥が強いし、まだ問題がある。

社会的な問題を、経済的な視点で見てみてほしい。カーボンニュートラル、脱炭素と言っているが…コストがかかる。贅沢な国しかできないのでは。お金の話が一番社会を説得できる。
外国人労働者の問題は経済と直結している。少子高齢化とも関連している。

奨学金の問題(も経済的なテーマとしては身近ではないか。)

(学生の感想)
失業率がなぜ大事なのかという解説を見た。賃金は人間に値札を付けて配属させるしくみ。失業率は、人間が完全に流動的に動けないという不合理さが現れている様で面白いと思った。

(先生のコメント)
昔は失業している国はダメな国だった。

足し算して、企業としては上げなければ良い。色んな工夫をして手当がまた減る。日本の企業がずるいのは、年代別で、新人から給料をカットする。
出版労連はすごく強いのだが、(「新人の給料をカットしないなら平等に減らしてもいいですよ」と言うと)組合も黙ってしまう。
最近、管理職がやたら増えた。残業手当をなくすため。全員係長へ。
銀行と車製造以外はみんな大変。しかも、会社としてはいいが労働者としては良くない。

(経済の話は)遠い話か、近い話だけ。
財政は遠く、ある意味フィクションだからやりやすい。
奨学金、留学、nisa(などのテーマが身近で今後議論するにはいいのではないか。)

投資でギャンブルではなく、生活費を稼ぐとなると苦しくなる。

「金は人を幸せにするか」はとっつきやすい。
ゴールドマンサックスの人はそんなに幸せではない。何でも買えると刺激が無く、最後は麻薬にいくかアホなことをするか。人生でいくら使うことになるのか。総研が色々言っているが、1億円なんてあっという間になくなる。

(学生のコメント)
「肩書は人を幸せにするか」はテーマとしてどうか。

(先生のコメント)
今はむしろ逆転しているのでは。権力とは人事権と予算管理。(肩書があっても)権力が無く、むしろ人事上のリスクが出てくる。
MDは予算をつけられる権力者。役所や会社はそうでない。社内で揉めたりハラスメントが起こったりするとめんどくさい。コロナ禍でも管理職はみんな出社していた。企業の社長は力が無い。創業者の場合などは別だが。
課長か課長補佐が面白いのでは。現場の最前線にいて、0から考え、課長補佐はやりたいことができる。これはクリエイティブとして面白いが、権力者ではない。偉くなるという言葉が難しくなった。総理を見ても楽しくないのでは。


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