見出し画像

真山ゼミ 第三回議事録「どうしたら科学技術研究の良さを引き出せるか? 〜文系の視点〜」

※クジラの写真→ザトウクジラ(wikipedia)

運営の挨拶

(省略)


先生のイントロ

 簡単に今回の意図を説明したい。そもそも「政治と若者」というテーマについて話していた。結果、若者はすでに幸せであり、政治にそこまで関心がないことがわかった。科学も、政治と同じ構造を抱えている。無関心を関心に変える必要がある。前回は理系3人に発表してもらった。理系はいろいろつっこまれて大変だったと思うが...今回は文系の視点で、どう支援していくかという点をしたい。

前回の理系発表の要約

先生

 では、前回の発表者は1分程度で話をまとめてください。

発表者A

 地球における物質の状態は実は特殊で、宇宙の99%はプラズマという状態になっている。だから宇宙を知るにはプラズマを知る必要がある 。(発表者A→用事により退出)


発表者B

CMB( 宇宙マイクロ波背景放射)を研究している。この研究は銀河がどのような大規模構造をもっているかにつながっている。CMBを分析すると宇宙の始まりと進化がわかる。


発表者C

鯨の研究をしたいと思っている。クジラは水中への適応能力について特殊な存在である。手法としてはバイオロギングといって、体にセンサーを取り付けて測定する。


発表者Bの宇宙マイクロ波背景放射CMBについて

(1)議論

先生

 3人をまとめてやると話が混乱するので、まずは発表者B、次に発表者Cで行きましょう。発表者Aはいなくなってしまったので今回は残念ですがなしで考えます。発表者BのCMBについて何か意見・質問ありませんか。


学生1

 観測機器に関して産業用途になる可能性はあるのか?


発表者B

 ある。超伝導が起きるかどうかという点に関する観測装置が実際に存在する。同じ研究室はダークマターを量子ビットで考えることをしている人がおり、量子コンピューターにもつながる。


学生1

 超伝導というとリニアモーターのイメージで、産業用であまりうまくいっているイメージがない。具体的にどこで使えるのか?


発表者B

 正直よくわからない。

 

学生2

 超伝導ならそもそも超伝導をやればいい。CMBにはどんな価値がある?


発表者B

 宇宙について知りたいという点が一番のモチベーション。そして、長いスパンで見ると、知的なモチベーションで進むことで上手くいってきたので、この態度でいいとは思う。


学生1

 プラズマとの違いは何か。


発表者B

 CMBよりプラズマはより身近な領域になっている。普通の原子が存在する空間では、プラズマがほとんど。例えば、太陽風。CMBは宇宙の広大な空間を占めるダークマターに関わっており、CMBはいちばん根本的なところにあるかなと思う。


学生3

 これは基礎研究ですかね?


発表者B

 宇宙物理にもいろいろある。例えば、中性子星(星が潰れて、中性子だけになった星)を見ていくと、そもそも原子核がどういう構造を持っているかという研究ができる。どうやって鉄よりも重い元素ができたといった疑問に答える手がかりになる。素粒子の話とつながってくると、応用に近そうな感じがする。全体的には基礎研究が多い。


学生4

 日本はこの分野において強いのか?


発表者B

 CMBは結構強い。観測所はチリにあるが、研究は強い。


学生5

 どのように科研費をもらっているのか。


発表者B

 院生の学振をみると、「過去にどんな研究があったか、現在の課題はなにか、自分は〜をする」というペーパーを提出して、お金をもらっている。


学生5

 手法と目的でどちらが優先される?


発表者B

 目的は前提になっていて、学振では手法が重要になっていると思う。


学生5

 新しいと貰いやすいのか?


発表者B

 本当に新しいものを作るのは難しい。だから、既存研究の延長が多い。


(2)先生の講評

 一度話をしたい。本当に大事なのは、一般の人にわかりやすく説明すること。教授は「ずっとやっているからこれからもください」という態度である。これではだめ。例えば、スーパーコンピュータ。冷却に非常に電力がかかる。動かすのに原発1発の電力が必要。今後はこれが何機も建設されるようになってくる。ここでスパコンの省エネや冷却は大きな問題になる。ここまでいえば一般人にも意義がわかる。このように外部にそれを説明しなくてはいけない。

 あと、科研費で欲しいのは設備。学振は生活費。お金が必要という説明になると、常にもっと具体的な話にしないといけない。「世界のトップです」という点を説明すれば文科省からお金がでる。まず知らなければいけないのは、科研費の申請分のうち、何割が通るかである。ほんの少しでも新しいことができたら「新しい」といえる。これがビジネス的な考え方になる。お金を出す側には成果が欲しい。「うちはこの新しい研究をやっています」という言葉を持っているかどうかが重要。逆に、文系にも研究のよさを引き出す力が必要。「研究は世の中のために役立たない」と内心思っていてもいいが、今の時代は社会とどうつながっているかという考えをもたないといけない。研究では根っこのところをやっていても、派生的に何の役に立つのかも知っていないといけない。

発表者Cのクジラについて

(1)議論

先生

 それを踏まえて、発表者Cの鯨についてどうでしょうか。


学生6

 バイオロギングでわざわざクジラにつける意味はあるのか。


発表者C

 ある。現状、深海の様子を把握することは難しいが、クジラは深く潜れ、大きい。クジラでのバイオロギングは重要。また、バイオロギングでは「つけられる」ことが必要。他にも深海生物もいるが、それらは水面に上がってこない。


学生2

 なぜ温暖化がわかる?


発表者C

 気候変動は大気だけではわからない。熱を吸収する海洋についても知らないといけない。気候シミュレーションの変数に海洋の状態も含まれている。予測ができないと、いくらの経済的損失がでるのかという議論もできない。


学生2

 クジラの重要性は知られているのか。


発表者C

 測定には船舶やブイを用いる。船舶については、わざわざ海に出て行って測定する。クジラがもたらす情報は重要だが気候学者は知らないのではと思っている。


先生

 ICPPは表層の温度を測っているが、深海の温度を測っているというのはきいたことがない。


学生5

 生息域で測れる場所が限定されてしまうのではないか。


発表者C

 もちろん鯨類だけでは偏りがでてしまう。しかし、だからといって測らないということにはならない。ウミガメ数個体のバイオロギングをしただけで、より正確な海洋環境解析ができたという研究がある。だから、限られているから、優先順位が下がるとはいえない。


学生5

 バイオロギングはちゃんとできるのか?


発表者C

 実は費用対効果が悪い。クジラは高価な機材をつける割に、つけにくいし、つけても取れてしまう。切り離し装置をつけて、数時間後に回収する。機械が壊れることがある。測定しているデータは、加速度、体温、水温など。


学生2

 銀行には脱炭素について投資しようという流れがある。クジラの研究者は国連に働きかける政治力をもっているのか。


発表者C

 日本の研究者の政治力は弱い。日本はクジラについてタブー視されているという事情もある。クジラ研究者はロビイング活動少ないが、バイオロギングではそういった活動があると聞いた。日本でクジラを押す理由としては食料資源という点でよいと思っている。マグロをちまちま獲る、育てるよりも大きなクジラを獲ればよい。


学生2

 クジラを工業用に分析することはできないか。


発表者C

 個人的にはちょっと厳しいと思う。バイオミメティクス(生物模倣)という分野がある。生物の構造を機械化するというのは難しい。構造的には他のものと同じで、大事なのは内部の臓器であったりする。一部の種では推測はされているが、遺伝子操作をしてある部位を欠損させるなどの対照実験ができないので確定することができない。


先生

 海に潜れるというのは強力な軍事技術になる。人間は小さいから探知できず、原子力潜水艦は水深500mしか航行できない。


学生7

 気候変動以外にうれしいことはあるのか。


発表者C

 潜っているときの体温、姿勢、潜る動作といった基本的な生態について知ることができる。ヒラメ、イセエビなどの食用魚介類について、食料資源の研究もできる。


先生

 魚介類の生態を知れることはあまりいいことではないかもしれない。乱獲の問題が起きうる。日本の漁業は港で魚獲量制限をしている。けれども、中国が近海にやってきて、とっていってしまい、そして、日本に売りつけているという現状がある。彼らは漁獲量制限で取り締まれない。

 バイオロギングを用いた気候に関する説明力はどの程度なのか。


学生8

 大循環については気長に観測しないといけないのではないか。

 

学生1

 大循環が長いタイムスケールなら、長期にわたる観測は必要ではなく、逆に一回だけ観測すればよいのでは?


発表者C

 そういう気もする。なんでもいいからバイオロギングのデータが欲しくて欲しくてたまらないと海洋物理学の先生はおっしゃっていた。


先生

 海洋物理学とは?


発表者C

 海水の大循環を研究している。


学生8

 クジラは気ままに動いてくれるから、いろんな部分の観測ができるってことですか?


発表者C

 ブイとブイの間がわからない。ブイは(水深0メートルから)数百メートルの間で移動する。もっと深くにいくと、水圧の問題でうまくいかない。


学生1

 どのくらいの時間、観測機器が持つのか?


発表者C

 実は1日程度。長く持たせることもできるが、色んな機器をつけたがって、長時間測定の機能は抑えられている。


学生1

 バイオロギングで環境測定したい人と、クジラを知りたい人とで対立が生まれるのでは?つまり、環境測定したい人は1体から長期のデータが欲しいと思っているが、クジラを研究したい人は多数のサンプルを必要としている。


発表者C

 バイオロギングの研究者も、生物を知りたい。環境はあくまで副次的という立ち位置ではないか、と感じている。


先生

 そうなると、お金はでないな。いろいろな思惑の人をまきこむことが重要。お金を取ることが一番重要。副産物であっても、それがメインだと言えばいい。あと、日本はクジラを触りたくないという点も大事。シーシェパードの問題など。政治的な話になってくる。

 日本はクジラを食べてきた国というのを押し出せばいいが、反対がある。日本は白人のクラブに入りたいから、クジラについて避けようとしている。

 科研費は政治。「もっとクジラを食べましょう」とすることができる。昔は高級品のラケットのガットや、マーガリンにも使われてきた。文化が変わってきたことがしんどい。食文化は一番大切な文化の一つなのにないがしろにされている。マグロの位置づけも大きく変わってきた。日本文化はこうですよ、と語れることが結構大切なのでは。


学生9

 欧米の人たちは海洋プラスティック汚染は好き。そういったものにバイオロギングをつかえないのか。


発表者C

 まさにそういった内容がある。ウミガメにビデオをつけて、実際にビニール袋を食べている映像が撮れた。海洋プラスティックの生物への影響を知ることができる。実際に種によって食べるものと食べないものがある。


学生9

 クジラにつければ深海汚染の程度がわかったりするのかと思った。


先生

 それだと予算が増えるのかな。ただ、こういう場合、実績がいるんだよね。食べてるウミガメの方が効果がある。


発表者C

 ビデオの内容を環境教育に使えるという話もある。


学生2

 クジラが増えます、保護に使えるという話にはならないか?


発表者C

 もちろんそうだが、漁獲のためにもデータが使える。また、クジラによっては増えているものもある。「増えている」との研究結果は「漁獲可能」との判断をもたらすとなるので、反捕鯨国が認めない。

終盤


先生

 そろそろ終わりが近づいてきましたね。話せてない人からは何ありますか?


学生10

 CMBで宇宙の構成がわかるとはどの程度?時系列では?


発表者B

 ダークマター(質量あるのに見えない)、ダークエネルギー(宇宙の膨張)などについてわかる。時系列では、加速的膨張していると思われていなかったが、加速膨張していることがわかった。ただし、現実的にこの研究が重要になってくるのは、100億年レベルのお話です。

学生10

 CMBと宇宙資源のかかわりはあるのか


発表者B

 重金属がなぜできたのかはなぞになっている。そういうのを知れば、その分布を知ることができるかも。新粒子の発見につながる。例えば、電子と似ているが少し重い変な原子を作ると、物質のスキャンができるようになる、ということを知った。新粒子が分かると遍在しているためひょんなことから役に立つかもしれない。


学生9

 ダークエネルギーの取り出しは可能なのか


発表者B

 宇宙全体としてみるとたくさんあるが密度が小さい。


先生

 学生11はどうですか。


学生11

 海洋物理学の人に乗っかればいいじゃんという話にはならないのか。


発表者C

 共同研究という形でまとめてお金を取るのが一般的。


先生

 両方ともお金が足りない。論文になると、だれが筆頭になるかという点で問題になる。本当は民間から金を取ればいいのだが、それが下手。実際は民間の側から条件を提示してきて話しかけられるのが実情。

 財務省では、前の年を参考に、100を0にすることはなく、0を100にすることはない。これを改善しないと、お金の回りがよくならない。何をきるかで、科研費が切られやすい。

次回テーマへとつながる議論


発表者C

 役に立つ立たない以外の考え方に「ステータスになる」もいいのではないか。


先生

 それにも問題がある。「スパコン1位」のために、量子コンピュータに投資できないという話もある。また、アメリカは固体燃料ロケットを潰したい、日本は予算を出さない理由。本当の研究成果でステータスを作るとしても、その反対勢力をつぶす必要がある。「ステータス」は重要だが、そういった難しさがある。

 また、新陳代謝も必要。だが、昔にステータスを作ったところが、既得権益化している。アメリカは必ず復活する。なぜなら、既得権益を潰して、イノベーションを起こしてきたからだ。

 ほんとはスタートアップががんばらないといけないが、自己満で終わってしまっている。どうやってそういったステータスを作っていくか。ここは空想する点で(東大生が一番苦手だが)これが重要。昔は海は「住む場所としてどうか」という議論もした。

 30年〜50年先の私たちという話。少子高齢化したあとにどうなるかというのは若者が考えないといけない。


学生1

 30~50年後の地球がどうなるのか、より準備をした上で考えてみるのは次回テーマとしてどうだろう。


発表者C

 優秀な研究者がどんどん出ていくと日本にとっては痛い。「日本人として誇りを持てるように」はどうか。


先生

 愛国的ですね。いや、いいことですよ。愛国的と右翼を結びつけてはいけない。日本人はパスポートを変えずに、日本のパスポートをもったままでいる。


学生4

 海外にでたときに「日本人」としてみられる。日本人に誇りを持っていないのか、日本に誇りを持てないのはなぜなのか、説明できないかもしれない。


学生2

 では、今何すべきか


学生1

 そこまで内容を入れると分量的に大変なのではないか。日本人、というファクターは未来を縛るために良い。


学生6

 誇りを持つのは受動的なものではないのか。


先生

 こういう国になってくれたら誇りを持てるな、という受動的な態度で良い。日本から出ていきたいと思わないためには、というくらいでよい。


学生1

 どういう風にグループ分けする?


真山先生

 三つくらいの理想の日本のゴールを作って、グループ分けができたらいいんじゃないか。一人で考える自問自答だと、どれだけ常識的か、非常識か気付けない。30年経つと、50代。現役世代。日本を背負っているであろう。


学生1

 ゴールのリストを作り、運営がグループ分け。


先生

 次回はダメだしをして、その後フィードバックしていく。8月にもう一度修正してやろう。

学生1

 9月に社会人真山ゼミの方に参加させていただくとのお話がありましたが…

先生

 みなさんの未来像を発表して、厳しい意見をもらったらいいのではないか

次回の情報(暫定)

・7/9

・Lab-Cafe

・テーマ:2050年の日本(暫定)

・事前課題:2050年の日本の未来像をグループで考えてきて発表する

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?