摩耶川 穎孝

作家もすなる小説といふものを、只者もしてみむとて、するなり。 サイエンティフィック・デ…

摩耶川 穎孝

作家もすなる小説といふものを、只者もしてみむとて、するなり。 サイエンティフィック・デイドリーム:小説「出帆の時は来た 〜 Long Distance Voyager 〜」を書き進めます。 当初は無料公開ですが、「雪溶けショコラテリーヌ」を売上合計金額で嗜める程度を頂戴するかも。

最近の記事

連載小説「出帆の時は来た」 第5回

「神坂さんがお望みの旅程や移動方法、それから一番大事だと思うんですが、旅行の目的地について提案いたします…」 萌音が、ビジネス優先と言わんばかりに、挨拶もそこそこに、プランの説明をせっかちに始めるのを、龍之介がさえぎった。 「あ、名刺をいただいたのですが、あいにく、僕、休日なので名刺を持ち合わせていないのですが。それから、もう少しゆっくりめにお願いします」 そもそも、名刺自体、「オールドファッションド」な龍之介でさえ、ここ数年、まったくもらったことがなかった。面会する相

    • 連載小説「出帆の時は来た」 第4回

      土曜日の朝が訪れた。 龍之介がベッドから起き上がると、朝までに入ったニュースの映像と音声が流される。龍之介の起床を感知したスマートスピーカーから、映像はホログラムとして投影されベッドルームの空間に浮き上がり、音声はアナウンサーがニュースをひとしきり読み上げる。 平日は仕事をする日としているので平日の朝はニュース以外にも仕事関係の連絡がスマートスピーカーから読み上げられる設定としているが、今日から2週間後の日曜日までは休暇を取るため、これから2週間、仕事関係の連絡は読み上げ

      • 連載小説「出帆の時は来た」 第3回

        龍之介は、ジーンズの左の前ポケットには、日頃使用しているコワーキングスペースのセキュリティーのリモートスイッチを、右の前ポケットには腕時計型のウエアブルデバイスを入れていた。「オールドファッションド」な彼には、身体に何かを装着することは、鬱陶しいことだった。 すでにこの週の営業を終えていた対面のコンサルティング旅行サービスが面している仲通りから、1ブロックほど移動して大通りに差し掛かると、龍之介は、その腕時計型ウエアブルデバイスをジーンズのポケットから取り出し、ロボタクシー

        • 連載小説「出帆の時は来た」 第2回

          龍之介が後にしたオフィスルームは、いくつかの企業や団体がコワーキングスペースとして利用している大部屋で、普段は自宅で仕事をしている龍之介も、週に2日ほどは、気晴らしを兼ねて出勤している。 この日は、終業後、オフィスルーム近くにある対面のコンサルティング旅行サービスのリアル店舗に立ち寄ることをもう1つの目的として、出勤してきたようなものだった。 オフィスルームでは、使用者の好みに応じて、持参したラップトップPCやタブレットが使えるテーブルやデスク、天板がタッチスクリーンとな

        連載小説「出帆の時は来た」 第5回

          連載小説「出帆の時は来た」 第1回 サイエンティフィック・デイドリーム(科学的白日夢)!

          この街では、9月初旬の夕刻は、午後6時過ぎに日の入りとなる。 オフィスルームが入っているビルの、12階。昼間は、大きな窓の眼下に大きな緑のパレスの空間が、そして、その向こうにはちょっとした摩天楼が拡がり、視線を上方に向かわせれば、雲ひとつなく透き通るような、大きな青空だったこの金曜日。 日の入りの時刻に近づくにつれ、濃厚なカスタード・プディングのような黄みがかった西の空は、その後、アプリコット・ジャムを逆光で覗いたような杏(あんず)色から、グレナディーン・シロップをダウン

          連載小説「出帆の時は来た」 第1回 サイエンティフィック・デイドリーム(科学的白日夢)!