鑑定人と顔のない依頼人

ネタバレあり感想。


正直、物語の展開は全て予想しやすいもので、
面白い!とは思えなかった。

ただ、レビューでは同様の理由で酷評してる人もいるけど
主人公の周りにいる人々の綻びも細かく配置されていたし、映像の美しさ等を加味すると、良い映画じゃないかと。
個人的には。


あとやっぱりお気に入りはオートマタ。

歴史を持つ骨董作品や芸術品が並ぶ美しい映像の中で、古いものとは言え妙にSFちっく。
「偽物」と「本物」の対比に味が出る。

オールドマンが屋敷で部品を見つけて復元を頼むのは、
からくり人形じゃなく時計とかでもこの話自体は成立するんだろうけど
トリックの中のキーアイテムと言うより比喩の役割が大きいと思うので
異質な存在で良い。

オートマタの中身=愛する人(クレア)の正体
は喫茶店にいた小人の女性という表現も好き。



でもクレア役を演じた女性の正体や過去をもう少し明かして欲しかったな。



彼女だけはオールドマンとの繋がりがなく、恨みを持ってるわけでもないのに
お金のためだけならなぜこんな時間のかかる大変な詐欺に手を貸したんだ。



美人局なら普通にもっと手っ取り早く近付ける方法があるだろうし、若者たちが主犯ならそうしそう。


ここんとこ私は、クレアはビリーとできてたのでは?と思ってしまった。


とにかくビリーはオールドマンを精神的絶望に追い込みたくて、その方法を時間をかけて練っていった。
ビリーを愛するクレアはそれに協力した。

元々歳の離れた男性も恋愛対象だから、オールドマンとの恋も燃え上がってしまった。


あと、これはネタバレブログで見た考察だけど

隠し部屋に残されたオートマタにはロバートの声、クレアの母の肖像画にはビリーのサイン
(=贋作の中にある作者の痕跡)
が残されていたのに


クレアの痕跡はどこにも無いのがクレアの愛は本物だった証
…っていうのはなるほど気付けなかったなーと思った。

しかし、この物語はハッピーエンドなのか?


冒頭で自分専用の食器を使い手袋をしながら一人でコース料理を食べる完璧なオールドマンの姿と、

ラストに初めて入る店で手袋もせずメニューを手に取り誰かを待つくたびれた身なりのオールドマンの姿




後半の方が人間味ができあがっていて、バッドエンドとは思わない…
それもわかる。
わかるけどどうしても、
ビリーのオールドマンへの恨みが、
一人の人間にこんなトラウマを植え付けるほどか…?
とは思ってしまう。
作戦があまり現実性がないだけに。

オールドマンはまあ人から好かれる性格ではないし、悪い手段で金を稼いではいたけど
彼の審美眼と仕事はたしかな訳で
多分ビリーは本当に才能がないんじゃないかな


宝物兼財産全てと愛する人を奪われるほど極悪人かと言われると…うーん

スカッとする大どんでん返し!ではないし
絶対女と仲間に騙されてコレクション全部盗まれるじゃん…と思いながらその様子を延々見させられるから
やっぱり最終的には「気の毒だなあ…」が買っちゃうな。


心象的にも構成的にも「良い話」ではないけど、
観た後に色々考えたり、調べたり、思い返したり
後味で楽しむことができたので
私にとっては「良い映画」。


びっくりしたのが
オールドマン役の方、パイレーツオブカリビアンのバルボッサなんですね。
荒くれ者の海賊と潔癖症の高貴な鑑定士…なんて幅広さ。

厳格なオールドマンの振る舞いが狂っていく様はとても不憫で滑稽で素敵でした。


しかしこの邦題はどうかね。

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