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独断と偏見インド映画紹介(4)

 独断と偏見インド映画紹介第4弾です。

 今回は「インドの実情を垣間見る」と「インドとは切っても切れない印パ戦争」の2項目6本をご紹介したいと思います。


インドの実情を垣間見る(4作品)

 インドと言えばどんなことをイメージするだろうか。

 人それぞれにインドのイメージがあるかと思うが、他国についてと同じく想像と実情が違うこともあるし、想像通りのこともある。「インドの教育を少しだけ垣間見る」の冒頭でも書いた通り、映画で描かれていることが全てではない。それでも自分の持っている知識で想像するよりは、少しでも真実に迫ることが出来るのではないかと思う。

 とは言え、そんな堅苦しいことを考えなくても、どの作品も娯楽作品として楽しめる。


★PK

 良作連発のアーミル・カーン主演作品。テーマはズバリ宗教。インドにはヒンドゥー教徒だけでなく、イスラム教徒もシク教徒もキリスト教徒も、その他さまざまな宗教の信者もいる。当然対立だってある。そんな問題に切り込みつつ、映画としてめちゃくちゃ面白い。ヒンディー語映画。

 宇宙船が着陸し、地球人に似た姿の宇宙人が現れる。ところが宇宙船を動かすためのリモコンを地球人に奪われ、全裸の宇宙人はリモコンを探す旅に。一方、インド人女性ジャグーは留学先のベルギーで出会ったパキスタン人でイスラム教徒の男性と恋に落ちるが、裏切られ失意のなかインドに戻る。TV局に就職した彼女はPKと呼ばれる珍妙で不思議な男(宇宙人)が「神様行方不明」と書かれたビラを配っているところに出くわし、ネタになるのではないかとPKに興味をもつ。子供のように人々に神様に対する疑問を投げかけるPKは色々なトラブルを起こし…。

 見どころは、宗教に対する純粋な疑問で宗教者をたじたじにさせるところと、PK(アーミル・カーン)の見事な宇宙人ぷり。コミカルに面白く話が進んでいるのに、実は深い問題提議をしているところも上手い。面白おかしく楽しむのも良し、問題提議に考えを深めるも良し、ジャグーの恋模様にドキドキするのも良しの色んな楽しみ方が出来る作品。


★シークレット・スーパースター

 またまたアーミル・カーン製作出演作品。だが、今回は出番は少なく主人公はあくまでもザイラー・ワシーム演じるインシアである。本作品はDV問題や男女差別などについて切り込んでいる。ヒンディー語映画。

 14歳の少女インシア。彼女は歌を歌う事が大好きだが、強権的な父は全く彼女の趣味を認めないどころかやめさせようとする。男である弟ばかりを可愛がり、母に暴力を振るい、自分にも酷い仕打ちをする父に怯え暮らすインシアの支えは、歌うこととインシアの趣味を応援する優しい母、可愛い弟だった。そんなある日、父のせいでコンクールに出られなくなって意気消沈する娘に母は、なけなしのお金でノートパソコンを買い与えた。そのパソコンで、ブルカ(イスラム教徒の女性が頭を隠すために被る布)を被って正体を隠して歌を歌い、それをYouTubeにアップするとたちまち人気が出る。有名プロデューサーであるシャクティ・クマールからスカウトを受けるものの、母が父に内緒でパソコンを買ったことが見つかってしまう。

 見どころは、きらきらと輝くザイラー・ワシームの演技、そして同級生チンタン(ティルトゥ・シャルマ)の爽やかな存在感。そこへ登場するシャクティ―・クマール役のアーミル・カーンの絶妙なコミカルさ。DVや女性差別と言う重いテーマを扱いながらも、その倍ほど救われる描写のおかげで後味の良い非常に良質な娯楽作品に出来上がっている。


★ガリーボーイ

 スラムからラップでのし上がる青年の物語。実在するインドの若きラッパー、Neazy(ネィズィー)とDivine(ディヴァイン)の半生を基にしている。ランヴィール・シンが主人公を演じる。ヒンディー語映画。

 ラップ好きのムラドはインドのスラム地区に暮らす青年で、何とか大学には通わせてもらっている。運転手を生業にする父は第2夫人を迎えるなどムラドや母、弟を顧みない。そんな中、大学で自分の心を掴むラッパーMCシェールに出会ったことからますますムラドはラップにのめり込み、ガリーボーイ(路地裏の少年)として活動してゆく。格差、差別、犯罪、夢、希望、恋と色んな要素を巻き込み、ムラドは人生を懸命に切り開こうともがく。

 見どころは、テンションのあがるラップと作品にのめり込ませるストーリー展開。個人的にはMCシェールが好きなので、ぜひ見てほしい。作中のガリーボーイのMVは最高。

Google play、YouTube、Amazonプライムビデオなどで配信中(2020年4月11日現在)


★スラムドッグ$ミリオネア

 厳密にはインド映画ではない。ダニー・ボイル監督のイギリス映画になる。しかし、インドを舞台にスラムの生活を描いていること、素晴らしい作品であることからリストの中に入れた。英語・ヒンディー語映画。

 ムンバイのスラムで育った主人公ジャマール。出演したクイズ番組「コウン・バネーガー・カロールパティ」(日本でみのもんたが司会をしていた「クイズ$ミリオネア」のインド版。「ファイナルアンサー?」が流行語になった)で次々にクイズに正解してゆく。そもそもスラムで育った無学の青年がクイズに正解し続けられるのはおかしいのではないか?不正を疑われたジャマールは警察に連行される。取り調べを受けるジャマール。彼は自分の人生を語る。クイズに答え続けられた理由は、彼のあまりにも過酷なスラムでの人生の中にあった。

 見どころは、本当にあまりにも過酷なジャマールの人生をリアルに描いているところ。いや、それは無いでしょう、と思わせない。そしてストーリー展開も上手く、ぐいぐい引き込まれるし洗練されている。一見の価値あり。

 Google play、YouTube、Netflix、Hulu、Amazonプライムビデオなどで配信中(2020年4月11日現在)


インドとは切っても切れない印パ戦争(2作品)

 今も深刻な紛争当事国である、インドとパキスタン。じつは、インドのヒンディー語とパキスタンのウルドゥ語は話し言葉は似ているために会話は理解可能だとか(文字は違う)。言葉が分かっても溝は埋まらない。

 国際問題や社会情勢に関心があれば、日本人でもインドとパキスタンが敵対していることは知っているだろうが、知らない日本人もいるのでは?かく言う私はインド映画を見るまで知らなかった。

 先にご紹介したPKにもインド人女性がパキスタン人男性に恋をして家族から大反対される描写がある。

 インド映画を見るにあたって、「インドとパキスタンの間には深い溝がある」と言う事を頭に入れておくと、より理解が深まるのではないだろうか。

 お勉強だと嫌気がさすので、大体の感じがつかめる映画をリストアップ。印パ問題に興味が湧いたらご自分で調べてみるのもいいと思う。


★インパクト・クラッシュ

 第3次印パ戦争(1971年)におけるパキスタン海軍潜水艦沈没事件を題材に、インド海軍潜水艦とパキスタン海軍潜水艦の攻防を描いた戦争映画。バーフバリのバラーラデーヴァ役ラーナー・ダッグバーティ主演作品。テルグ語映画(日本で流通しているのはヒンディー語吹き替え版)。

 インド海軍潜水艦S21に着任した主人公アルジュン・ヴァルマー少佐。このS21の艦長は曲者のランヴィジャイ・シン艦長。S21の極秘任務を行うにあたって、アルジュンは艦長のお目付け役として選ばれたのだった。それゆえに暴走艦長と生真面目士官は対立する。そんな状況の中、パキスタン海軍の潜水艦ガーズィに遭遇し、インド海軍潜水艦対パキスタン海軍潜水艦の戦いが始まる。

 見どころは、なんといっても手に汗握る潜水艦戦。敵との駆け引き、自艦の性能を見極めてぎりぎりを行くスリル。どれをとっても最高の緊迫感で面白い。あと、状況説明は初めの方にあるので印パ戦争の流れを知らなくても大体わかるようになっている。

 Google play、YouTube、Amazonプライムビデオなどで配信中(2020年4月11日現在)


★バジュランギおじさんと、小さな迷子

 小さな女の子がとてもかわいいハートフルストーリー。と言うと、深刻な印パ戦争・紛争とどう関係するのか、と思うかもしれないが物語のベースに印パの根深い対立感情があるので、このカテゴリーに入れた。3大カーンのひとり、サルマン・カーン主演作品。ヒンディー語映画。

 主人公パワンはハヌマーンを信仰する正直者で優しい青年。ハヌマーンを熱烈に信仰していることから「バジュランギ(ハヌマーンの、と言う意味)」と呼ばれている。そんなパワンは祭の日に喋ることのできない小さな女の子に懐かれるが、親が見当たらない。ムンニ(お嬢さん)と名付けてパワンの婚約者ラスィカーの自宅に住まわせて面倒をみつつ、何とか親元に返そうとパワンとラスィカーは奮闘する。そしてある日ムンニがパキスタン人だと分かり、パキスタンに良い感情を持っていないラスィカーの父親にパキスタン人のムンニは家に置いておけないからパキスタン大使館経由で親元に返すように強硬に言われる。しかし、大使館経由でのムンニの帰還は不可能になり、パワンは自力で国境を越えてムンニを親元に返そうと決意。嘘をつけないパワンとしゃべれないムンニの波乱万丈な旅が始まった。

 見どころは、とにかくかわいいムンニ(作中の本当の名前はシャヒーダー)。こんなに可愛い女の子は見たことが無い、というぐらい可愛い。そして、印パにおいて現在紛争の原因となっているカシミール地方の美しい風景。こんなに美しい土地で醜い人間の争いが起きているのか、と思うと悲しくなる。印パの溝が背景にあるとはいえ、物語は嘘がつけないパワンとしゃべれないムンニの生み出す珍道中も楽しく、インドのこともパキスタンのことも悪く描いていないので、とても素直に感動できる作品になっている。

(2020年4月13日現在在庫切れです…)

 現時点ではTSUTAYA DISCASのレンタルで見られるとおもいます。


 さて、以上25作品ご紹介いたしました。中には調べてみたらDVD販売のみで、それも売り切れだったりで視聴が難しいものも入ってしまいましたが、状況は変わるのでどこかで見かけた時に思い出してごらんいただければと思います。

 お読みいただいた皆様に少しでも参考になりましたら幸いです。



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