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知人が10年やってるWebラジオのまとめ本の制作を手伝ったら、やってることが割と考古学になってしまった話

みなさん、こんばんは。長沢めいです。

さて、私の知人に稲本海という人がいるのですが、この人がすごいんです。10年以上ニコニコ生放送(ニコ生)で配信を続けていて、前身の番組も含めると16年以上もWebで喋ってるという、すごい人です。

それで何か色々あって、稲本さんが自身のラジオの歴史を振り返る本を作ることになって、私はインタビュー段階から編集まで制作のお手伝いをしたんですが、その中で色々と思うところがあったので、今回はそのお話をしたいと思います。

要するに、今回も本の宣伝です。
↓メロンブックスさんにて委託中!


そもそもリスナーとしてこの本が欲しかった

制作のお手伝いをしました、と書きましたが、ぶっちゃけると私自身がこの本を欲しかったんですよね。というのも、私自身も稲本さんの配信はよく聞くし、昔ってどんな放送があったっけ?って思っても、見返すものが無かったんですよね。

前に何やってたか思い出せないと、「昔やってたあの企画やってよー」って言ったりもできない。これが出来るような状態になったのは強いと思っています。

少し話題がずれますが、この手の話って町おこしでもよくあることなんですよね。「歴史を調べていたら、この街には昔、こんなものがあったらしい」みたいなところから、それにちなんだイベントとかグッズが出来る、みたいな流れって意外とあるんです。だから、歴史を振り返ることって「未来への教訓を・・・」みたいな硬派な活用法もありますけど、「何か面白いことできないかなー」っていう時のアイデアのソースとしても使えるんだな、っていうのを実感しましたね。

これ、感想のひとつめです。

昔のデータはよく無くなるし、パソコンはよく壊れた

次は苦労話というよりも笑い話。
今回、この本を作るにあたって最大の壁になったのが「昔のデータはよく無くなるし、パソコンはよく壊れた」という話です。

どういうことかというと、まずニコニコ生放送って基本的に放送しっぱなしなんですよね。YouTubeライブだと後からでも見られる状態に勝手に移行してくれますが、ニコニコ生放送はタイムシフトの期間が過ぎると基本的には見れなくなってしまう。放送主が保存しない限り残らないんですよね。

それで、じゃあ当時使った写真とか台本を探そう、という話になるわけですが・・・実は稲本さんのPCって何度か壊れていて、放送初期のデータが全然残ってなかったんですよね。最近のパソコンって割と壊れないし、仮に壊れたとしてもGoogleドライブなりiCloudなり、何かしらバックアップが取られている確率が高いんですが、昔はクラウドにバックアップって考え方をしなかったですもんね。

さらに言えば稲本さんって、よりによって放送初期のころにTwitterのアカウントをミスで削除していて、この時代のログが全くない。だからTwitterを検索しても放送の告知ツイートなんて見つかるわけがない。

データも無ぇ、バックアップも無ぇ、ツイートも無ぇ。レーザーディスクは何者だ?!って感じです。あ、稲本さんは青森の人なんですけどね。

発掘、そして推測 ⇒ もはや考古学

ただ、手掛かりがゼロかというと、そうでもなかったんです。

ニコニコ生放送って、過去の放送のタイトルと放送主コメント、そしてリスナーが残したコメントの履歴だけは残るんですよね。

ただ、初期の放送タイトルは毎回固定だったので、ここには情報が無い。というわけで、リスナーのコメントを手掛かりにして、そこから当時の稲本さんが何を喋っていたのかを推定する、みたいな考古学研究みたいなことをしたわけです。

コメントの一覧から手掛かりを見つける作業はもはや「発掘」。10年前に自分で喋った内容が思い出せなくて、考古学みたいなことをする羽目になった稲本さん、っていう構図がすごく面白かったです。

インターネットの歴史も10年前は考古学になる。これを読んでいる方も、思い出せるうちに色々思い出しておいたほうがいいですよ・・・。

これ、感想のふたつめです。

そして私はジョブズを思い出した

さて、稲本さんの話を聞いていて、そして本を編集していて、私はひとつの動画を思い出しました。

スティーブ・ジョブズがスタンフォード大学でスピーチをした時の動画です。なぜか関西弁の字幕が付いていることで話題になったやつですね。

このスピーチは「Stay hungry, stay foolish」の一説が有名ですが、全体は3つのパートで構成されています。2つ目の話題としてAppleをクビになった経験をもとに「本当にやりたいことを見つける大切さ」、3つ目の話題として膵臓がんと診断され奇跡的に回復した経験をもとに「後悔しない生き方をする大切さ」を語っているのですが、私が一番好きな話は1つ目の話題、「点と点をつなぎ合わせること」です。

ジョブズは半年で大学を中退していますが、その後も興味の向いた講義にだけ潜り込む生活をしていました。その時聴いていた中にカリグラフィー(要するに西洋の書道みたいなもの)の講義があったのですが、後年、ジョブズはMacintoshを作っているときにこの講義を思い出したんだそうです。そして、ジョブズはたまたま聴いてたカリグラフィーの講義で得た知識をもとに、Macの画面にも美しい文字が表示出来るように色々な機能を付けていった、というお話です。

ここで重要なのは、ジョブズは将来に役立てようと思ってカリグラフィーの講義を聴いていたわけじゃないですよね。ジョブズ自身も「先のことを予想して、点と点をつなぎ合わせることは出来ない」と言っています。たまたま、カリグラフィーの知識がMacに繋がったんだ。今やっていることが何に役立つかはわからないけれども、将来どこかで何かに繋がることを信じるしかない、と、ジョブズは言っていました。

点と点を繋げる能力

ただ、私が思うに、点と点を繋げるのって、ある意味で能力だと思うんですよね。ジョブズはMacを作っているときにカリグラフィーの知識を思い出せたけど、他の人だったら思い出せただろうか。ジョブズだからこそ、カリグラフィーの知識を思い出せたんじゃないだろうか、と。

話を急に稲本さんに戻しますけど、稲本さんも割とその辺が上手いんじゃないかなと思うんです。詳しくは本を読んで欲しいんですが(このnoteは本の宣伝ですからね)、稲本さんがWebでラジオをやり始めたきっかけとか、特番をやり始めたきっかけとか、過去と上手く繋がるんですよね。このあたりは是非、本を読んで膝を強打して欲しいです。

これ、感想のみっつめです。

ちなみに言えば、この本のインタビュー記事は出来るだけ稲本さんが喋った順番を崩さずに作ってあります。だから「うーん、何でだろう・・・あ、そういえば」みたいなくだりが連発しています。普通なら冗長だからカットしてしまうんですが、稲本さんが徐々に記憶を取り戻して、点と点が繋がっていく様子を読者の方にも追体験して欲しいと思って、敢えてこのくだりを残してあります。ここは割とこだわりポイントです。

やっぱり、我々がやっていたのは考古学だったんだ

ぶっちゃけ、インターネットのある時代だし10年前のことだから歴史をまとめるのなんて余裕だろう、とタカをくくっていたんですが、やってみると遺跡発掘みたいなことになって割と大変でした。10年ひと昔、だなんて言いますが、この本を作ってる時の感覚としては大昔でしたね。

ちなみに、もう一つエピソードがありまして。編集作業が8割くらい終わった段階の話なんですが、稲本さんが第27回(2010年4月10日)以降の放送で使った写真とかのデータを発見しちゃったんですよね。「なんか出てきた・・・」って言いながらシェアしてくれたんですけど、「あぁ・・・、考古学ってこうやって新しく発掘されたもので教科書が書き換わっていくのだなぁ・・・」みたいな謎の感覚がありました。やっぱり、我々がやっていたのは考古学だったんだ。


いうわけで、改めての告知になりますが、こちらの新刊をどうぞよろしくお願いいたします。


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