悲しきマイベスト
むかしむかし、「音楽をダウンロードする」なんてまだまだ先の話だったころ。
好きな曲を集めてカセットテープで「マイベスト」をつくるべく、ある日中学生のぼくは地元の小さなレンタルビデオ店に行き、少ないお小遣いをはたいていくつかのシングルCDを借りた。
それだけじゃ全然足りなかったので母の持っていたいくつかのテープも拝借。
コツコツとダビングに励んだ。
ちなみにぼくが生まれて初めて買ったCDは、ZARDの「揺れる想い」と「負けないで」だった。
たった2枚で2,000円??ヒィ~
と驚愕しながらも、坂井泉水さんのどこかミステリアスな雰囲気に惹かれたのもあって、地元のヨドバシカメラで購入したのを覚えている。
...A面は明るい曲にして、B面はちょっと静かなやつにしよう。
何て言うんだっけ。
そうそう。
バラードね。
“REC”、”PLAY”、”STOP”
“REC”、”PLAY”、”STOP”...
と何度も何度も繰り返し、曲順にもこだわってやっと完成したマイベスト。
テープもハイポジとかメタルとか、定かではないけどいいやつを使ったはずだ。
付属のインデックスにアーティスト名と曲名を書く。
失敗は許されない。
間違えないように、丁寧に書かなきゃ。
米米CLUB / 浪漫飛行
プリンセス プリンセス / Diamonds
たま / さよなら人類
...
うーん。いいぞ。
スラスラ書けてきた。
...
THE ALFEE / メリーアン
B’z / ALONE
...
...
CHAGE & ASKA / SAY YES
...。
完、
成!!
誇らしげにインデックスを眺める。
うーん。
なんと素晴らしい。
こうしてできあがったマイベストだったけど、学校は1曲聴き終わるころには着いてしまうほど近かったから、聴くのはもっぱら夜、ベッドに入ってからだった。
夜だし大音量で聴きたいのでウォークマン使用。
部屋の明かりを落とし、音楽を再生する。
毎日部活でクタクタだから結局すぐに寝てしまうんだけど(バスケ部だった)、暗闇で聴く音楽はどこまでも透きとおって、疲れた身体を少しだけ軽くしてくれるような気がして好きだった。
すてきな一日の締めくくり。
そんなひと時が、いつも楽しみだった。
そして、ある日の夜。
そろそろ寝ようかなぁとベッドに寝転んで、我が至宝マイベストのインデックスを見るともなく見ていた。
...ん??
何かおかしい。
...。
なん...だとッ!?(ジョジョ風)
...
...
鈴木雅之 /
...
変人
...
ぐふぅっ!!!
ウソのような、ほんとうの話。
いただいたサポートは、ほかの方へのサポートやここで表現できることのためにつかわせていただきます。感謝と敬意の善き循環が、ぼくの目標です。