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象徴の務め

皇室取材余話【3】「象徴の務め」

2017年4月24日


日本国憲法、第一章、第一条。「天皇は日本国の象徴であり日本国民統合の象徴であって、この地位は主権の存する日本国民の総意に基く。」


 憲法の第一章第一条で規定される天皇の存在。「日本国の象徴」であると規定された天皇陛下は戦後民主主義と現行憲法の申し子です。この世には唯一無二の仕事があります。経験者がこの世にはおらず、代わりをする人もいない。「象徴の務め」はまさにその一つだと思います。


  去年8月8日に陛下のビデオメッセージ、「象徴としてのお務めについての天皇陛下のお言葉」が発表されました。陛下はこのビデオメッセージの中で象徴の務めを「全身全霊をもって果たせなくなるのではないか」という危惧を示されました。「象徴」という言葉を8回も使われています。即位して29年、さらには皇太子の時代から、陛下は「日本国民の象徴」とは何か、「象徴の務め」とは何かを考え続け、模索し続けていたのです。私はビデオメッセージで初めて気付かされました。何と陛下は孤独だったのでしょう。
 陛下は、その模索の中で、被災地への訪問を行い、先の大戦の激戦地への「慰霊の旅」で亡くなったすべての人を追悼し、平和を訴えるという新たな「象徴」としての活動を続けられています。その傍らには常に皇后さまの姿があります。皇后さまは陛下の最大の理解者であり、孤独を支えられました。まさに二人三脚で新たな平成の「象徴天皇像」を作り上げたのだと思います。

  国体や植樹祭、全国戦没者追悼式などへの出席は、被災地訪問などと合わせて、「公的行為」として、多くの国民に支持されています。両陛下の訪問先には、奉迎の人波があり、アイドル顔負けに歓声があがります。しかし「公的行為」は憲法7条で定められた天皇の務め―「国事行為」ではありません。

 4月21日、天皇陛下の退位に関する有識者会議が最終報告をまとめました。議論の中で、保守的な考えの有識者の一部から「天皇は国民のために祈るだけでよい」「だから退位は認めない」という意見が出ました。保守の中には、民主憲法下の象徴天皇の活動に否定的な考えがあることが明らかになりました。両陛下は有識者会議での議論にがっかりされたことが漏れ聞こえています。陛下が模索し続けた「象徴の務め」について有識者会議では議論が深まりませんでした。
 5月中には陛下の退位を認める特例法の国会審議が始まる見通しです。憲法では天皇の地位は「日本国民の総意に基く」とされます。憲法での定めがない「公的行為」を国民の多くが支持する中、国民の象徴とは何か、象徴天皇制とはどうあるべきなのか、私たち国民は、タブー視することなく、考えを深めていかなくてはなりません。これは皇室を継続させるための「女性宮家」や皇室のあり方の議論にもつながっていくからです。

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