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文化財保護に貢献した皇后さまのご養蚕

皇室取材余話【7】文化財の保護に貢献した皇后さまのご養蚕

2017年7月24日

 天皇・皇后両陛下は今月21日、日本美術史上屈指の作品とされ、復元が完了した鎌倉時代の絵巻「春日権現験記絵(かすがごんげんげんきえ)」を鑑賞されました。この絵巻の復元には、皇后さまが育てた繭からとった絹糸が使われています。

 700年以上前のこの作品は絹でできた表紙などが傷んでいたため、2004年度から本格的な復元作業が行われ、今年3月に終了しました。この復元に、皇后さまが皇居内の紅葉山御養蚕所で育てた蚕の絹糸が使われたのです。日本古来の「小石丸(こいしまる)」という品種の糸です。

 「小石丸」の繭は真ん中が少しへこんでいて落花生のような形をしています。江戸時代から明治時代には広く飼育されていたそうですが、繭が小さく、糸が取れる量が少ないため、1970年代には一般の養蚕農家では飼育されなくなっていました。

 皇室では養蚕が明治以来、昭憲皇太后、貞明皇后、香淳皇后、そして皇后さまへと引き継がれています。皇后さまが養蚕を引き継がれた1990年、当時の担当者が小石丸の飼育を続けるかどうか皇后さまに判断を仰ぎました。皇后さまは「日本の純粋種と聞いており、繭の形が愛らしく、糸が繊細でとても美しい。もう暫く古いものを残しておきたいので、小石丸を育ててみましょう」と文書で答えられました。皇后さまの決断で、小石丸の飼育は続くことになったのです。

 これが日本の文化財保護に大変役立つことになります。正倉院では1994年度から10か年計画で染織品の復元を計画しました。古代の絹織物の糸を調べると、現在の糸よりずっと細く、日本古来の小石丸の糸が最適なことが分かりました。1993年に御養蚕所に小石丸の糸の下賜願いが出され、翌年から御養蚕所では、小石丸の増産を行い、10年間で400キロを超える繭を提供されました。羅、綾、錦など19点の織物が甦り、2007年度から2009年度には「七条織成樹皮色袈裟(しちじょうしょくせいじゅひしょくのけさ)」そその包み裂(ぎれ)を完成させました。

 そうした中、冒頭に触れた、皇居・東御苑内の三の丸尚蔵館の「春日権現験記絵」の修理事業にも小石丸の糸が使われ、10年以上の年月をかけて、完成したのです。両陛下は絵巻をお住まいの御所でご覧になり、大変お喜びの様子だったということです。

 皇后さまのご養蚕は、小石丸によって、日本の文化財の保護という新たな意義を与えられたのです。

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