乃木坂46に受け継がれている意思:伊藤万理華
2021年2月23日、乃木坂46の9度目のバースデーライブが行われた。
コロナ禍を鑑み、無観客配信ライブという形での開催となったが、配信ならではの演出と構成でファンを楽しませた。
26枚目のシングルで初センターを務めた3期生の山下美月は、表題曲「僕は僕を好きになる」の中で、「乃木坂46を見つけてくれて、好きになってくれてありがとう。愛し続けてくれてありがとう、皆さんのことが大好きです」と語った山下。
私はこの言葉を聞いた時に脳裏にふとある卒業生の姿が映った。
伊藤万理華
乃木坂1期生として加入し、幾度もアンダーと選抜を行き来しながら2017年の真夏の全国ツアーを卒業ライブとし、同年12月に開催された握手会をもって卒業した。
味のある歌声とキレのあるダンスに定評があり、乃木坂46の中でも人気の高い「狼に口笛を」や「ここにいる理由」などでセンターを務めた。
私にとって彼女の卒業ライブは特に記憶に残っている。
ダブルアンコールのタイミングで本来「ロマンティックいか焼き」を披露する予定であったが、当時のキャプテンである桜井玲香の粋な計らいによって「きっかけ」に変更。同時期に卒業した中元日芽香とセンターステージで歌唱する姿は誰よりも輝いていた。
「はじまりか、」という楽曲がある。
伊藤が卒業直前に行っていた「伊藤万理華の脳内博覧会」にて公開された動画。
在籍当時、個人PVの女王と言われた彼女の最後の個人PVとなった「はじまりか、」現在では、乃木坂46の公式Youtubeチャンネルにて無料公開されている。
公開当初は、期間限定とのことだったが3年が経った現在でも動画は残っている上、期間限定の文字も消えている。
この「はじまりか、」では伊藤が在籍中に抱えた葛藤やファンへの感謝、過去の個人PVの小ネタなどファンにとって涙なしには見れない作品となった。
冒頭で語られた選別発表に対する葛藤は乃木坂46に在籍するメンバーが誰しも感じたことのあるものだろう。
「どうしたらいい、何が足りない、焦りは空回り、回り回りグルグル巡り、誰かが付けた順番に泣いて、眠れない夜もあった」
3期生・4期生の中からも選抜メンバー出始めた中、アンダーメンバーにとってこの言葉は自分のことに思えるのかもしれない。
「なんでアイドルに、アイドルになったのか?ずっとずっとコンプレックスだった」
3期生の中でも休業を経験した大園・久保・山下はもちろん、今でもこの問題を抱えているメンバーは多いような気がする。
「ここにいて良いのか」「私は乃木坂46になれているのか」
以前、huluで独占配信されている久保のドキュメンタリーの中で彼女が語った言葉。
2作公開されている乃木坂ドキュメンタリー「悲しみの忘れ方」「いつの間にかここにいる」でも同様の言葉が多く聞かれた。
それでも彼女達は前を向いている、自分に出来ることを精一杯成し遂げようとしている。
きっとそこには、伊藤のように今まで卒業していったメンバー達の意思や姿勢が引き継がれているのだろう。
今回のセンターである山下は伊藤と非常に似ている。
多くの人は、山下の持つあざとさや天性のアイドル性に目を向けがちだが、壁に向かって鬱憤を叫んだり、えんがわ好き、ダジャレ好きなどアイドルらしくない一面もある。
また、ファッションについても独特で冠番組である乃木坂工事中ではその私服センスについて1期生の斎藤から酷評されていたこともある。
アイドルらしくないという点においては伊藤も同じだ。
コケや石を趣味としていたり、服装も独特のセンスをしていた彼女はそういう意味ではアイドルらしくないのだろう。
「こんな変な私だけど、見つけてくれてありがとう」
ここで記事の冒頭に戻ってくるわけだ。
偶然か必然か、彼女が残した言葉は巡り巡って後輩である山下に引き継がれた。
バースデーライブ中や、前夜祭で度々話題になったテーマがある。
それは、「グループの仲の良さ・暖かさ」について。
「はじまりか、」の1番で語られたのは選抜とアンダーを行き来したことへの葛藤だったが、2番で語られたのはグループへの愛だった。
「私の誇り、私の青春、一生の宝物」
「前から3列目の大体端っこ、真ん中にはなれなかったけどここが私らしいかなって」
乃木坂46のセンターに立てる人間は一握りだ。
卒業していったメンバーの中には一度も選抜に入る事なく卒業していったメンバーも多い。
それでも、真ん中になれなくても伊藤にとって乃木坂46は一生の宝物となった。
そう思えるまでにどれほどの苦悩があったのか私達には測ることなど到底できない。
彼女は確かにアイドルらしくはなったのかもしれない、選抜にも数える程しか入れなかったのかもしれない、歌がそんなに上手ではなかったのかもしれない。
しかしながら、彼女が築き上げた礎は確かに乃木坂46に受け継がれている。
今彼女に伝えたい。
アイドルらしくなくても、歌が上手じゃなくても乃木坂46のセンターに立つ人が現れました。
あなたがいたから、あなたが乃木坂46に残した数々の種が芽吹きました。
3列目の端っこだったかもしれない、それでもファンにとってはいつでもあなたは真ん中にいました。
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