Q&A改正個人情報保護法①(改正の経緯)

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弁護士 渡邉 雅之
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令和2年(2020年)3月10日に国会に提出された「個人情報の保護に関する法律等の一部を改正する法律案」 (以下「改正個人情報保護法」「改正法案」「法案」といいます。)についてQ&A形式で解説していきます。

Q1.改正個人情報保護法の制定経緯・概要について教えてください。

1.制度改正大綱の背景と個人情報保護法の改正
(1)平成27年改正
 個人情報の保護に関する法律(平成15年法律第57号、「個人情報保護法」)は、平成15年に制定(平成17年全面施行)されましたが、平成27年に改正が行われ、平成29年5月30日に全面施行されました。特に、「個人情報の保護に関する法律及び行政手続における特定の個人を識別するための番号の利用等に関する法律の一部を改正する法律(平成27年法律第65号)、「平成27年改正法」)においては、情報通信技術の進展が著しいこと等から、3年ごとの見直し規定が設けられました。
 平成27年改正法附則第12条第3項において、政府は、同法の施行後3年ごとに、個人情報の保護に関する国際的動向、情報通信技術の進展、それに伴う個人情報を活用した新たな産業の創出及び発展の状況等を勘案し、平成27年改正法による改正後の個人情報保護法(以下「改正個人情報保護法」という。)の施行の状況について検討を加え、必要があると認めるときは、その結果に基づいて所要の措置を講ずるものとされています。
 また、同条第2項において、政府は、改正個人情報保護法の施行後3年を目途として、個人情報の保護に関する基本方針の策定及び推進その他の委員会の所掌事務について、これを実効的に行うために必要な人的体制の整備、財源の確保その他の措置の状況を勘案し、その改善について検討を加え、必要があると認めるときは、その結果に基づいて所要の措置を講ずるものとされています。
 さらに、同条第6項においては、政府は、改正個人情報保護法の施行の状況、第1項の措置の実施の状況その他の状況を踏まえ、改正個人情報保護法第2条第1項に規定する個人情報及び行政機関等保有個人情報の保護に関する規定を集約し、一体的に規定することを含め、個人情報の保護に関する法制の在り方について検討するものとされています。
(2)中間整理
 個人情報保護委員会は、平成27年改正法附則第12条の規定を踏まえ、いわゆる3年ごと見直しについて具体的に検討を進めてきた。第83回個人情報保護委員会(平成30年12月17日)において、「個人情報保護委員会の第一期を終えるにあたって」を公表し、当時の委員長の下で運営されてきた第一期目の終了に際し、これまで5年間の経緯を踏まえ、次期委員会への申し送りとして、現下の状況を基に主な論点を取りまとめた。また、これを踏まえ、第86回個人情報保護委員会(平成31年1月28日)において、「いわゆる3年ごと見直しに係る検討の着眼点」を公表しました。
 個人情報保護委員会では、これらを踏まえ、個人情報保護を巡る国内外の政策、技術、産業等の状況、消費者からの意見の分析、取りまとめを行うとともに、経済界からのヒアリングを実施し、平成31年4月25日に「個人情報保護法 いわゆる3年ごと見直しに係る検討の中間整理」(同日公表)を公表しました。
 中間整理は、平成31年4月28日から同年5月27日まで意見募集を行われ、計137の団体・事業者又は個人から延べ525件の御意見が寄せられました。
(3)制度改正大綱
 個人情報保護委員会では、当該意見募集に寄せられた意見等も踏まえつつ、その後も実態把握やヒアリングを通じて検討を深めてきたところであり(延べ23回の委員会で審議)、今回、個人情報保護法の3年ごと見直しの内容を「個人情報保護法 いわゆる3年ごと見直し 制度改正大綱」(以下「制度改正大綱」といいます。)として取りまとめました。今般、制度改正大綱について、改めて意見募集を行った(意見募集:令和元年(2019年)12月13日締切:令和2年(2020年)1月14日)。 同年2月20日には意見募集の結果が公表されています。
 制度改正大綱は、今次の見直しに当たって、以下の共通の視点を示しています。

第1 個人の権利利益の保護
・ 情報を提供する個人の、自らの情報の取扱いに対する関心や、関与への期待が高まっており、個人情報保護法第1条の目的に掲げている「個人の権利利益を保護」するために必要十分な措置を整備することに配意しながら制度を見直す必要がある。
第2 保護と利用のバランス
・ 平成27年改正法で特に重視された保護と利用のバランスをとることの必要性は、引き続き重要であり、個人情報や個人に関連する情報を巡る技術革新の成果が、経済成長等と個人の権利利益の保護との両面で行き渡るような制度を目指すことが重要である。
第3 国際的な制度調和や連携
・ デジタル化された個人情報を用いる多様な利活用が、グローバルに展開されており、国際的な制度調和や連携に配意しながら制度を見直す必要がある。
第4 域外適用・越境データ移転の増大によるリスクへの対応
・ 海外事業者によるサービスの利用や、国境を越えて個人情報を扱うビジネスの増大により、個人が直面するリスクも変化しており、これに対応する必要がある。
第5 AI・ビックデータ時代における個人情報の適正な利用
・ AI・ビッグデータ時代を迎え、個人情報の活用が一層多岐にわたる中、本人があらかじめ自身の個人情報の取扱いを網羅的に把握することが困難になりつつある。このような環境の下で、事業者が個人情報を取り扱う際に、本人の権利利益との関係で説明責任を果たしつつ、本人の予測可能な範囲内で適正な利用がなされるよう、環境を整備していくことが重要である。

(4)改正個人情報保護法
 これらを踏まえて、令和2年(2020年)3月10日に「個人情報の保護に関する法律等の一部を改正する法律案」 (以下「改正個人情報保護法」「改正法案」「法案」という。)が閣議決定され、国会に提出されました。(通常ですと、2020年6月頃に国会で成立するところですが、本年は新型コロナの関係で成立時期は不透明です。)

2.改正法の概要
(1)個人の権利の在り方
 利用停止・消去等の個人の請求権について、不正取得等の一部の法違反の場合に加えて、個人の権利又は正当な利益が害されるおそれがある場合にも要件を緩和する。
 保有個人データの開示方法(※)について、電磁的記録の提供を含め、本人が指示できるようにする。
(※)現行は、原則として、書面の交付による方法とされている。
 個人データの授受に関する第三者提供記録について、本人が開示請求できるようにする。
 6ヶ月以内に消去する短期保存データについて、保有個人データに含めることとし、開示、利用停止等の対象とする。
 オプトアウト規定により第三者に提供できる個人データの範囲を限定し、①不正取得された個人データ、②オプトアウト規定により提供された個人データについても対象外とする。(※)
(※)本人の求めがあれば事後的に停止することを前提に、提供する個人データの項目等を公表等した上で、本人の同意なく第三者に個人データを提供できる制度。
(2)事業者の守るべき責務の在り方
 漏えい等が発生し、個人の権利利益を害するおそれがある場合(※)に、個人情報保護委員会への報告及び本人への通知を義務化する。(現行法は努力義務)
 違法又は不当な行為を助長する等の不適正な方法により個人情報を利用してはならない旨を明確化する。
(3)事業者による自主的な取組を促す
 認定団体制度について、現行制度(※)に加え、企業の特定分野(部門)を対象とする団体を認定できるようにする。
(※)現行の認定団体は、対象事業者のすべての分野(部門)を対象とする。
(4)データ利活用に関する施策の在り方
 イノベーションを促進する観点から、氏名等を削除した「仮名加工情報」を創設し、内部分析に限定する等を条件に、開示・利用停止請求への対応等の義務を緩和する。
 提供元では個人データに該当しないものの、提供先において個人データとなることが想定される情報の第三者提供について、本人同意が得られていること等の確認を義務付ける。
(5)ペナルティの在り方
 個人情報保護委員会による命令違反・個人情報保護委員会に対する虚偽報告等の法定刑を引き上げる。
(※)命令違反:6ヶ月以下の懲役又は30万円以下の罰金
       ➡1年以下の懲役又は100万円以下の罰金
   虚偽報告等:30万円以下の罰金➡50万円以下の罰金
 データベース等不正提供罪、個人情報保護委員会による命令違反の罰金について、法人と個人の資力格差等を勘案し、法人に対しては行為者よりも罰金刑の最高額を引き上げる(法人重科)。
(※)個人と同額の罰金(50万円又は30万円以下の罰金)➡1億円以下の罰金
(6)法の域外適用・越境移転の在り方
 日本国内にある者に係る個人情報等を取り扱う外国事業者を、罰則によって担保された報告徴収・命令の対象とする。
 外国にある第三者への個人データの提供時に、移転先事業者における個人情報の取扱いに関する本人への情報提供の充実等を求める。
※その他、本改正に伴い、「行政手続における特定の個人を識別するための番号の利用等に関する法律」及び「医療分野の研究開発に資するための匿名加工医療情報に関する法律」においても、一括法として所用の措置(漏えい等報告・法定刑の引上げ等)を講ずることとされています。
(7)施行期日
改正法は、一部の規定を除き、公布の日から起算して二年を超えない範囲内において政令で定める日から施行することとされています(附則第1条)。

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