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少年と宇宙人の話


はるかかなた日本という国に、
数学も理科も国語も
居眠りしながらだって百点取れてしまうような、
とても賢い少年が
のんびりチョコレートなんか食べながら
暮らしていました。
窓から見える海がお気に入りでした。

本を読むことと
バスケットボールが大好きでした。
夏にはみんなでピクニックに行くことと
誕生日にみんなでバースデーケーキを食べることが
大好きでした。

ある日少年が宇宙の大きさや不思議について
ボールペン片手にぐるぐると考えていると
キッチンでカレーを作っていたお母さんが宇宙人になっていました。
少年は話しかけました。
けれども言葉が通じません。
おびえて隠れてしまうのです。

少年は、
わかりやすい身振り手ぶりや大きな声が出るマシーンを発明しました。
けれども心は通じません。
少年は、
宇宙の言葉や想いが届くスピーカーを研究しました。
けれども心は通じません。
震えて隠れてしまうのです。
少年は困りました。

ふと振り返って後ろを見ると、
お姉ちゃんも宇宙人でした。
お庭をのぞけば
お父さんまで宇宙人でした。

街を歩く人たちも
友達も、好きなあの子も、
みんな宇宙人でした。


「ああ違う、わかったぞ…ぼくが宇宙人だ。」
そう気付きました。
そうだと気付いてしまいました。

何日もコンピュータの言葉を使っても
何ヶ月も日本語を教えても
何年も道具の発明をしても
怒っても叫んでも
やっぱり心は伝わりませんでした。

それからは、何度も一人でバースデーケーキを食べました。

そして、


ボロボロの古い小さな研究所で
もう白髪の
長いひげの生えた少年はある日
泣いて泣いて抱きつきました。

「わあわあ。」

ああ、

やっと心が伝わりました。

おわり。

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