『百花』川村元気を読んで

子育てをして初めて、自分がどんなに多くの人たちの愛情を受けて育ったか、どんなにたくさんの人が自分のことを本当に慈しんでくれたのか思い知った。
私の父は帰りが遅い転勤族で、母は専業主婦だったので、数年に一度の転勤で知らない土地に引っ越し、私と妹を育ててきた。私の思い出せる一番古い記憶は、母の実家の福島で、阿武隈川沿いの土手を祖父と犬と散歩していたこと。3歳か、4歳ぐらいだと思う。

娘を見ていると、祖父母(私の両親、義両親)は本当に孫をかわいがる。保育園の先生も、道行くおばあさんやおじさんも、優しい声をたくさんかけてくれる。こんなに大切にされているのに、きっと私もされていたのに、全然覚えていないなんてもったいないな。

「愛を感じる本」として紹介されていた本作は、認知症になったシングルマザーの母と、もうすぐ子供が生まれるが、「父親」の存在を知らず、自分が父になることを不安に思っている息子の日々が描かれる。

作品の中で「母さん」が少しずつ記憶を失っていく姿は本当に胸に迫る。息子の戸惑いや苛立ち、それを感じて自分を責める母の苦しさ。使い古された言葉だが、「失ってはじめて気づく」「あの時もっと素直になれれば」が胸をえぐる。
ただし、苦しいシーンが多い一方で「ふとしたかけがえのない瞬間」や周囲の人々とのかかわりが心を温める。連続していく命、日々の物語に、気持ちが少し謙虚になったように思う。

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