「三国志」本の研究(1)

歴史コンテンツとしての「三国志」の受容についてかねて関心を持っていました。一般向けにどういったメディアがあって、どう受け取られているか、というくらいの意味です。

まずは、比較的集めやすい媒体・本に絞り、どのような「三国志」本があるのかみてみたいと思います。

国会図書館サーチ(https://iss.ndl.go.jp/)を使って、タイトルに「三国志」・資料種別「本」・国会図書館所蔵・出版地「日本」(とりあえず国内での受容を考えたいので)でざっと検索すると、3010件ヒットします(2020.12.3)。

分類を見ると、

0.総記 (13件)
1.哲学 (22件)
2.歴史 (492件)
3.社会科学 (41件)
4.自然科学 (1件)
5.技術 (13件)
6.産業 (4件)
7.芸術 (694件)
8.言語 (3件)
9.文学 (1114件) 

という結果です。芸術と文学が非常に多く、歴史よりも多くなっています。

出版年を整理してみます。検索画面では一年ごとで見にくいので、10年ごとに年表ふうに集計してみると以下のようになります。

2020-2011年:635件
2010-2001年:977件(2008年「レッドクリフ Part I」)
2000-1991年:612件
1990-1981年:409件(1985年、コーエー「三國志」第一作) 
1980-1971年:124件
1970-1961年:68件(小川環樹訳、吉川幸次郎『三国志実録』、宮川尚志『諸葛孔明―― 「三国志」とその時代、少年少女世界名作全集、柴田錬三郎『剣と旗と城――柴錬三国志』など)
1960-1951年:70件(『少年三国志』など)
1950-1941年:16件
1940-1931年:13件(吉川英治、『三国志』執筆開始)
1930-1921年:23件
1920-1911年:10件
1910-1901年:26件
1900-1891年:20件
1890-1881年:18件
1880-1871年:2件(『通俗演義三国志』など)
それ以前年:14件(『通俗三国志』、『三国志画伝』など)

タイトルだけで検索しているので『アメフト三国志』などというのも含まれてしまっていますが、単純に出版物の数のみを追っていくと、1950年代・1980年代・1990年代に大きな増加があることがわかります。

1950年代の出版物として多く見られるのは文学です。吉川英治氏の小説や青少年向けの読み物が多く出版されたことが影響しているようです。

1960年代には文庫化を含め読み物が多く出たことに加えて吉川幸次郎氏や宮川尚志氏など研究者による書籍、原典の翻訳が世に出てきます。

1970年代もだいたい年10冊ほどが出版され、1980年代に入ると横山光輝本やコーエー発売のゲームに関連する書籍によってさらに数字が大きくなります。

1991年以降は年間50冊前後の「三国志」本が出ています。なお、1990年には『人形劇三国志』と『三國志 中華人民共和国中央電視台製作「三国演義」』(ともに映像資料)が「本」の扱いで入っています。1992年以降は、シリーズものがまとまって出た場合に件数が突出する傾向はありますが、だいたい安定して、つまり単行本や複数のシリーズの積み上げで50冊前後に達しています。

最も多いのは2009年の148件、映画「レッドクリフ(前後編)」と前後する時期です。三国志学会が設立されたものこの頃です。目についたものを拾ってみます(著者五十音順。シリーズものは巻数省略)。

江口陽子・吉田克己『三国志で学ぶランチェスターの法則』ダイヤモンド社
加来耕三『三国志勝つ条件敗れる理由』実業之日本社
ことわざ倶楽部編『三国志の教えと名言――おもしろいほどよくわかる』扶桑社
佐藤浩明・鈴木健一『三国志に学ぶビジネス戦略――ピンチをチャンスに変えた成功法』 インフォトップ出版 2009
三国志事典制作委員会『萌え萌え三国志事典』イーグルパブリシング
三国志武将研究会『関羽――史上最強の軍神:三国志』PHP研究所
高橋忠彦『三国志で攻略!センター漢文12』旺文社
立間祥介・横山光輝『知識ゼロからの三国志入門』幻冬舎
陳舜臣『秘本三国志』中央公論新社
柘植久慶『仕事に効く「兵法」――生き残るための「三国志」の智恵』講談社
日中通信社『会話に生かす三国志語録』日中通信社
別冊宝島編集部編『三国志演義のウソとタブー』宝島社
満田剛『三国志赤壁伝説』白帝社
八木章好『「三国志」漢詩紀行』集英社
渡辺精一『三國志人物事典』講談社

「ランチェスターの法則」は「(販売やマネジメントで)ターゲットやライバルによって戦略が変わるという理論」(『現代用語の基礎知識2019』自由国民社)で、『三国志で学ぶランチェスターの法則』は「産業」に分類されていました。

このように、幅広い内容にわたって、「三国志」をタイトルに付け、しかも歴史上の「三国志」と関わりを持つ本が刊行されたことが分かります。この事実そのものは大体推測がついていたのですが、具体的な数字やそれが増加する画期が分かったのは興味深い発見でした。回を改めて任意の本に絞った分析をしてみたいと思います。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?