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【作品にふれる】 #11 陸澄

陸澄
〜現行の短距離走用「スパイク」シューズの摂理に挑む〜

陸上競技の短距離走に向けたシューズ。現行のスパイクシューズは自らのパフォーマンスを一定の水準以上に保つにあたっていくつかの問題点が見受けられる。それらをあくまで工学的、力学的観点からではなくデザインの観点から見直しを行った。シューズに求められる条件を研究し、そこから従来の製法に改善点を見出した。様々な実験を繰り返し私なりに導き出した最適解を本作品を以て提案する。

白石ゼミ M.Y

Q1 卒制のテーマを決めたきっかけは何ですか?

陸上スパイクは中学校からの夢でした。僕は長年陸上を続けていて、大学でもムサビにはなかった陸上部を立ち上げました。就職先も1社だけ、スパイクを作れる会社を受けて、内定を頂きました。中学生の頃は、枕元にスケッチブック置いて、夜中に思いついた靴のアイディアを描いたりしていました。そこから7、8年で辿り着いたのがこの研究・制作です。

Q2 制作プロセスを教えて下さい。
まず、私はスパイクを100足以上持っていて、使い古したものを分解して「リバースエンジニアリング」というものを行いました。それがどうやって作られているのかを完成品から分解して分析していくというものです。靴のパターンとかクッション材の量、寸法とかを測ったりスケッチして、自分がどう作っていくかを考えました。また、自分にとってどういう靴がいいかというのを、圧力計などの計器は高額すぎて準備できなかったのですが、感覚的な指数を使ってしっかりとした基準を作り制作しました。
 次に素材選びです。素材的に陸上のスパイクは化学繊維か人工皮革が使われていることが多いのですが、私は人工皮革のフィット感が好きだなと気づいて、人工皮革で作ることにしました。人工皮革の作り方は、不織布にポリウレタンを染み込ませて、表面処理をすることでできるのですが、まず不織布をどう作るかから始まりました。いろいろ作り方があって、最終的に到達したのがニードルパンチ法でした。ニードルパンチ法は、J-STAGEでデータベースを漁って、繊維会社がどうやって不織布を作っているかを調べて見つけました。その中で、ポリエステルの繊維を用意してニードルでパンチすればいいとわかりました。そこでポリエステルの繊維を買おうと思ったたのですがどこにも売っていませんでした。だから最終的には、繊維会社に問い合わせて布団用のポリエステルを直接購入しました。繊維にも様々ある中で、ポリエステルにしたのにも理由があります。競技用なので、耐摩耗性や、伸びが少ない、熱に強いといった要素も必要で、それらの観点からポリエステルが一番良かったです。
 そうして購入したポリエステルを絡み合わせて形を作るのですが、1週間くらい針でチクチク合わせてやっと、一枚の布になりました。足型も樹脂で自分で作って、これが実は一番長い行程でしたね。
 多くの研究や実験を積み重ねてこの靴ができました。見た目よりも機能性を売りにしているものだから、既製品はどうなっているのか、なぜそうなるのか、もっとよくできないかという研究のデータやプロセスがとでも大事な制作でした。

Q3 卒制を進める中で、苦労したことや悩んだことは?

3Dプリンターでの出力も、作るサイズが大きく、24時間以上かかるので、1回失敗してしまうと1日無駄になったりしました。諦めて学校で印刷しようとしても、研究室が空いている時間しか使えなくて、靴の出力をさせ続けられないので、目を粗くして作るしかなく、完成度と時間のギリギリのラインを調節していました。
 また、さきほどニードルでチクチクして作っていったというお話をしたのですが、かなりの時間がかかって作ったものを1月の一時提出の3日前に誤って壊してしまいました。そのため、時間をかけた作業を残りの3日間でやり直さなければならなくなってしまいました。さらに、提出の際、作品と同時にプロセスドキュメントという、作品の制作過程を記録したものを印刷するのですがそこでも事件が起きました。提出当日に家のプリンターで印刷しようとしたら、いつもは使えていたプリンターが急に使えなくなったのです。提出直前にパソコンが壊れる話はよく聞きますが、私の場合はプリンターでした。提出の30分前くらいのことです。そのため、数十ページあった私のプロセスドキュメントですが、8ページしか提出できませんでした。靴の研究から始まり、何ヶ月も時間をかけて作ってきたものなのに、そのプロセスを提出できないとは・・・。




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