【作品にふれる】 #14 Steak
Steak
〜心を解き放つ手助けをするドキュメンタリー作品の制作〜
私はこの作品で、親友二人をカメラに収めました。始まりは彼女らが私に家族の話をしてくれたあの日のことです。その時の景色、空気感、時間の流れ方全てを覚えています。この作品を通して私は映像の力で彼女らの言葉や想い、生き甲斐を、目に見える形で表現することで、二人の心情がプラスに動くことを試みました。美味しいステーキもちょっとのスパイスで絶品になる様に、この作品も彼女たちの人生をより素敵にするスパイスになってほしいと思っています。
高山ゼミ H.A
制作の苦労に、それぞれのゼミならではのエピソード・・・今年度は、コロナ渦で増えてしまった悩みもありました。デザイン情報学科のみなさんに、卒制の裏側をインタビューしました。
Q1 ドキュメンタリーの内容を教えてください。
構成は、まずインタビューをして、普段人に話さないような話を僕に話してもらいます。その後、友人2人の生きがいを形にしてもらい、感じたことを話してもらいます。その2人は映画が生きがいだったので、映画も撮ることにしました。作品の中でさらに作品ができたような形ですね。僕の2人の友達にとって、少しでもプラスになるようなデザインを目指して制作しました。大衆じゃなくて、二人だけに。
ー映画はどのような想いで制作されたのですか?
2人とも謙虚な子なんです。すごい才能があるけど謙虚。謙虚というのは良いこともある反面、自信がないことの表れかなって思って、それについて一から考えたくて、映画のジャンルをラブストーリーにしました。人を好きになることって自分を好きになること。ラブストーリーを通して、自分を好きになるってどういうことかなって考えたい。短編映画で15分未満くらいです。
Q2 卒制のテーマを決めたきっかけは何ですか?
僕は比較的特殊な環境で産まれ育ちました。地元が茨城県つくば市なのですが、ここは研究所がたくさんある場所で、多くの子の親が研究者です。だからみんなの生活がある程度似通っています。高校は私立で、そこでも周りとの環境に差はほとんどありませんでした。しかしムサビに入学して想像してこなかったような環境の人に出会って、驚いたことがきっかけのひとつになりました。
僕がインタビューをした2人は辛い過去を持っています。僕はこれまで、辛い過去があるとひねくれてしまったり、なぜ私だけ、と考えてしまうのではないかと思っていました。しかし、大学で出会ったその2人は力強く生きていて、夢も希望もあり、それが素敵だなと感じて、その理由を知りたいと思いました。
また、大学時代にその2人にお世話になったので、卒制を通して恩返しがしたいな、と考えたのももう1つの理由です。
表現方法としては、2年生の時に、映画を好きになって、映画の現場に行くようになった頃から、卒制で映像を撮ろう!と決めていました。最初は長編映画でエイズをテーマにしようと考えていました。しかし、ムサビの優秀作品展をみていて「いいな」と思った作品の多くが、自分がどういう人間かといったテーマや、今まで生きてきた過程で生まれたものを表現した作品でした。エイズというテーマは、自分に全く関係ないわけではありませんが、自分も周りも経験がありません。卒制で取り組むなら、自分を形成してくれたものの方がいいなと考え、エイズはやめて今のテーマにしました。
Q3 ゼミエピソードを聞かせてください。
僕はこれまで、デザインは万人に向けるもので、必ず何かを解決しなきゃいけない、より多くの人を幸せにしなきゃならない、と思い込んでいたのですが、必ずしもそうではないということを高山先生に教わりました。
「林くんはもっと内向きな考え方でもいいんじゃない?全員に向ける必要はなくて、今回でいうと、インタビューを受けてくれた2人だけに向けたデザインでもいい。」と。
デザインをしていると、大きなこと解決しようとしがちですよね。しかし、「2人に何か新しい気づきある、それだけでも大きなデザインなんじゃないかな?」とアドバイスをいただきました。世間から見たらちっぽけなことですが、僕たちにとっては大きなこと。その小さな一歩を進める、それだけでいいのだと考えることができました。
Q4 卒制を進める中で、苦労したことや悩んだことは?
撮った映像が長いので、短くするのに手こずりました。ドキュメンタリー制作にあたって、時間を気にせずひたすら話を聞いていた上、みなさんに聞いていただきたい部分が多くて、欲張って編集すると2時間になってしまいました。これを10分ほどに短縮するのに手こずりました。ちなみに、元の映像は5時間でした。
さらに、ただ会話を流すだけだと疲れてしまうと思うので、間に「インサート」という、景色の映像や物の映像なども入れることが必要です。ゆえに、10分とは言え、話している部分は7分くらいに納めなければなりませんでした。
映画は編集が比較的がやりやすかったです。映画は基本的に多くの人が関わっていて、スケジュールがあるので、絵コンテを元に必要なところだけを撮るからです。ドキュメンタリーも、本当はシナリオを作るのが大事なのですが、僕は何度も映像を見返して、ここ使いたい、という部分を覚えたり、表にして繋げて行くという方法をとっているので、時間がかかりました。自由な会話は、同じことを何回も言っていることもあるので、より伝わりやすい方を選ぶのには迷いました。
Q5 卒制の制作プロセスを教えてください。
春から秋にかけてインタビューを行いました。自然に聞き出したかったので、前もって聞くことをあまり決めずに進めました。一緒にご飯を食べながらの雑談です。この方法は選んでよかったと感じています。質問に答えるぞと気張ってしまうと、言いたいことを素直に言えなかったりしますよね。そうではなくて、普段通りの会話の進め方をすると、「いつも通り話を聞いてくれてる」と安心していろんなことを言えたという感想をもらいました。彼らが生まれた場所も訪れたかったのですが、コロナで行けませんでした。また、2人のうちの1人は「行きたくない」と言っていたので、わざわざ行く必要もないな、と考えました。
秋になって、インタビューを撮るだけではなく、ドキュメンタリーの中で「生きがいを形にしてみる」という企画を思いついて、そこで映画を撮ろうということになりました。映画1ヶ月で撮りきりました。そのときが一番忙しかったです。
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