見出し画像

【作品にふれる】 #13 虫臂鼠肝

虫臂鼠肝
〜恐怖を昆虫の形を介して追求する〜


「恐怖」は絵画作品・映像作品などにおいて、1 つの大きな主題となり得るテーマであるが、その実態は様々であり、特に形と「不安」や「恐怖」との関係性はなかなか説明されていない。本研究は昆虫を題材にし、その恐怖の原因を形と集合という観点から研究するものである。虫臂鼠肝(ちゅうそひかん)とは取るに足らない、くだらないことを言い表した言葉である。概念は雲を掴むようなものに感じられるという部分を皮肉的に言い表した作品タイトルだ。本研究は目的として概念の可視化をすることを内包している。

高山ゼミ O.T

制作の苦労に、それぞれのゼミならではのエピソード・・・今年度は、コロナ渦ならではの悩みもありました。みなさんに、卒制の裏側をインタビューしました。


Q1 卒制のテーマを決めたきっかけは何ですか?

もともと研究テーマとしているのは「人間の恐怖」。物や現象を怖がる、昆虫に対する人間が抱く心情を追求したいと考えています。昆虫って、嫌いな人は嫌いだけど、好きな人は好き。人は物を好きだったり、好きでも嫌いでもなかったり、嫌いだったりする。でも虫は、好き嫌いがはっきりに分割されるものです。中間がない。なんでそういう風に分割されるのかが不思議だなぁと思っていました。ちなみに僕は好きな方です。
 さらに不思議なのは、昆虫には生きてるうちに幼体と成体っていう過程があること。進化論から外れてるって言われるぐらい、特殊なんですよ。カブトムシは、幼虫でも蛹でもカブトムシ。他の生き物で考えるとそれっておかしいよなぁって。馬は生まれたまんまの、あの形だし。
 まだまだ不思議なことがあります。カエルは成長過程で形が変わるけど、手が生えて足が生えるっていう、部位がどんどん揃って行く感じですよね。でも昆虫って、一回殻にこもって、その殻をやぶって成長が完了する。
 ウィリアムズ博士による「死へのはばたき」という研究があります。セミの蛹の中って全部液体になってるんですよ。動きはするけど、RPGで言うスライムのようなものなんです。もともとあったものが溶けて再構築されるということです。このウィリアム博士は、セミの蛹を切ったり、ガラス管で上下をつないだらどうなるか、ということを実験したんです。結果としては、「普通のさなぎ→成虫になる、きったさなぎ→上だけ成虫になる、ガラス管→上下どちらも成虫になる、ガラス管でつなげて、ふさいださなぎ→成虫にならない」実験の結果、体の上から成虫になっていくってのがわかったんです。恐ろしいのが、しっぽだけでも成虫になるし、これで子供を作ることだってできるんですよ。生き物の神秘ですよね。「死への羽ばたき」っていうタイトルは、ガラス管をつけたセミが飛ぼうとしたら、死んじゃったことからつけられました。昔からこういう不思議な研究をみてて、惹かれていました。何億年前から存在して、大きさ変われど姿変わらず、蛹の中ではどんな姿をしているかわかんないし、そういう不思議なものは、興味をひかれるし、とてつもなく気持ち悪さを感じる。そんな興味から、自分なりに形として表現したいな、という想いがありました。
 また、昆虫の色や性質は、人間の生活の中で意外とたくさん使われてるんですよ。車の胴体の光り方は昆虫の甲虫を参考にしたり、昆虫の構造研究してものを作ったり、世の中で嫌われ者なのに、様々な技術に応用されるくらい賢い。警戒色だってハチからきてたりしますし。身近に虫の痕跡がみえるのに嫌われてるのって不思議ですよね。
 「不快害虫」という言葉ひとつとってもおもしろいです。害虫って実害がありそうな名前ですよね。刺されたら死ぬとか。なのに「不快害虫」はただ見た目が悪いというだけで「不快害虫」と名付けられたんです。クモなんて易虫なのに不快害虫って言われてる。ゴキブリも不快害虫。人間のエゴなんですよね。ただきもいだけっていうのがおもしろい。人間らしいなって。見た目がただちょっとださい人と付き合いたくないみたいなのと似てます。対人間だったら、不快人間とか言わないですよね。人間の言葉が虫に通じないことをいいことに、一方的に「不快害虫」なんて呼んじゃって。「虫と人間の関係っておもれぇ」って強く感じました。卒制は、自分が好きなことやりたかったんです。興味があるからこそ深く話せるし、不思議だと思わなければ作るエネルギーは湧いてこない。


Q4 卒制を進める中で、苦労したことや悩んだことは?

3Dのソフトは一年ぐらい使ってる「ゼットブラス」っていうツールです。それは使うのに慣れてたから困らなかったのですが、困った点は「3Dプリンターを使うのに部屋が狭い」これはかなり実害があります。3Dプリンターは60センチぐらいですね。 
 しかも、臭い。僕の持ってる3Dプリンターは光造形式っていって、UVレジンに対して光を照射して固形物にする、というしくみになってます。プリンターの音はまだいいんですけど、レジンめっちゃ臭い。プリンターを動かしてる途中に、窓閉めて外出すると帰ってきた時、臭い。臭いのは本当に困りました。だって、それに付随して食欲がなくなるんですよ。しかも、レジンって引火するから、部屋閉めとくとある日、火がついて爆発するかもしれない。それが怖いから窓をずっと開けけてるんですけど、さみぃ!くせぇし、さみぃ!
 あとは、持ってたノートパソコンがいかれてしまったことですね。「卒制やろう、そのためにはまずパソコン買おう」と。そこからのスタートでした。その時に、普通に買ったら高いし、同じ値段出すのでも、もっといいものつくれないかなって思ったんですよ。だから、自作しました。時間なんてどうにかなるだろって思って。パソコンを作るとこから卒制を始めたんですよね。モニターは別途買って、箱とCPUとマザーボード、電源、グラフィックボード、メモリ、ランダムメモリとかいろいろパーツを買って組み合わせて作りました。4年の夏までパソコンずっと作ってました。7月に卒業制作の中間発表があるんですけど、その時もまだパソコン作ってました(笑)
 また、3Dプリンターで出力されたものはそのままで完成じゃなくて、ランナーっていう補強材が付いてでてくるんです。それを切り落として、ようやく完成です。一体作るのに、印刷が6時間かかります。ランナーを切る時に、間違えてぽきっと本体が折れたりしたら、その6時間が無駄になります。虫の足は細いですからね・・・。プレッシャーがすごいです。妥協して、折れてもボンドでくっつけるっていうのは考えたけど、やっぱできるだけやりたくないです。印刷して洗浄して、2時間硬化させて、UVライトでさらに2時間。(10月時点で)家に34、5体いるから、280時間とかかかってますね。そう考えるとずっと工場の生産ラインで生活してるみたいな感じでしたね。

小関4




この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?