2024年度セルフトレーニング問題を解いていく!(4)〜胸のつかえ 好酸球性食道炎〜
急性期病院で9年間総合内科医として働き詰めるも、ヘルスケアスタートアップに転職したため、総合内科専門医試験の受験資格がなくなってしまった10年目の総合内科医です。
出願取り消しの連絡が来るまで今年受験するつもりでいたので、セルフトレーニング問題(日本内科学会発行)を試験対策のため購入していました。
もったいないので、自分のアセスメントを加えながら解いていきます。誰かの役に立てば。
問題:50歳男性、胸のつかえ
問題文は一部改変、解釈加えて記載します。
アセスメント
食事で胸がつかえる(食道での通過障害)の鑑別疾患
食道癌
食道アカラシア
食道ウェブ
びまん性食道けいれん
食道外からの圧排(胸部大動脈瘤や胸部・縦隔腫瘍など)
好酸球性食道炎
これらを想定して、まず上部消化管内視鏡検査を行う。
結果、特徴的な内視鏡所見があり、病理組織でも好酸球を認めている。
診断
好酸球性食道炎
EoE
2007年に米国消化器病学会より初めて診断基準が出された、比較的新しい疾患概念である。
近年、特に欧米白人において成人のつかえ感、food impactionの主因として増加しており、注目されている。
厚生労働省の指定難病(公費助成対象)である。
発症機序・病態
環境因子
帝王切開による出産
早産
乳児期の抗生物質への曝露
食物アレルギー
母乳育児の欠如
人口密度の低い地域での生活
幼少期の微生物への曝露の欠如 などが関連しているとされる。
遺伝的素因
thymic stromal lymphopoietin
eotaxin-3
calpain-14 などの遺伝子異常を認める。
バリア機能の低下
バリア機能に関するタンパク質(filaggrinやzonulin-1)
接着分子(desmoglein-1) の発現低下が顕著。
上皮透過性の変化→抗原提示を亢進させる寛容な環境をもたらし、好酸球の動員を引き起こす。
Th2活性の亢進とアレルギー感受性
食物抗原の提示→Th2活性化
IgEを介さない
疫学
欧米の白人男性で頻度が多い
欧米の報告を中心としたメタ解析では、20〜30人/10万人程度の有病率
男性優位(男性:女性=2:1)
日本の報告では、30〜60代の男性に多く、平均年齢は約49歳。欧米と比べると、やや中高年にシフトしている。
内視鏡検査ベースでは、0.02〜0.4%にEoEが発見される。
日本の有病率は、17〜500人/10万人程度(報告によってばらつきが大きい)
気管支喘息、アレルギー性鼻炎、アトピー性皮膚炎などのアレルギー疾患の合併率が高い。
症状
小児
つかえ感
food impaction
哺乳障害
嘔吐
腹痛
胸痛
胸やけ
食欲低下
成人
つかえ感
food impaction
EoE患者では、これまでの食事経験から、つかえそうなものは避ける、ゆっくり食べる、水を飲みながら食べる、など意識的あるいは無意識的に食行動を適応させている場合がある。
また、胸やけ、呑酸といった症状を主訴とし、GERDとしてPPIで治療されているケースもある。PPI抵抗性のGERDは、EoEを鑑別疾患に挙げるべきである。
診断基準
内視鏡所見
この資料がとてもよくまとまっている。
このケースでは、写真aのような、縦走潰瘍と乳頭腫状の小隆起を認めた。
未治療で長い罹病期間を持つ症例ほど、食道狭窄や狭細化しやすい。
病理所見
サンプリングエラーが起こりうるため、生検は、複数個(最低6個以上)行うことが推奨されている。縦走溝と白色滲出物は好酸球浸潤が高度である。
治療
まずPPIを試みる。
約60%で症状が改善し、50%で組織学的寛解が得られるという報告がある。
PPIにより酸逆流による粘膜障害が治癒→食道内腔側からのアレルゲンの浸透を抑制&PPIによる抗炎症作用という機序が想定されている。
GERDに準じて、PPIの常用量を8週間程度投与するのが一般的である(保険適用ではない)。
無効の場合、フルチカゾン、ブデソニドといった吸入ステロイド薬の嚥下療法を行う(保険適用ではない)。
欧米でのガイドラインでは、成人での用法・用量は以下のように推奨されている。
寛解導入期:フルチカゾン 880〜1,760mcg/日、ブデソニド 2〜4 mg/ 日
維持治療期:フルチカゾン 880~1,760mcg/ 日、ブデソニド 2 mg/日
通常 1 日 2 回に分割投与する
小児では年齢や体格に 応じて半量程度に減量
それでも無効な場合は、食物除去療法や、ステロイドの全身投与も検討される。
食物除去療法と組織学的寛解達成率は次のとおり。
6 food group elimination diet(小麦、乳製品、卵、大豆、ナッツ類、魚介類を除去)72.1%
ミルク除去食 68.2%
4 food group elimination diet(小麦、乳製品、卵、豆類を除去) 53.4%
食道狭窄をきたしたケースでは、内視鏡的拡張術も行われる。
解答
(d) 気管支喘息を合併することが多い
感想
試験問題だと、診断自体は容易。あとは疾患に関する知識の問題。
日常臨床では、GERDとして漫然とPPIを投与しているが、なかなか良くならないケースで、EGD評価を検討すべきである。内視鏡的には異常所見を認めないが病理では好酸球浸潤を認める場合もあるようなので、EoEを疑う場合は、内視鏡医へ6カ所以上の生検を検討いただけるよう、検査時の依頼文に記載する。
参考文献
Eosinophilic Esophagitis(N Engl J Med 2015;373:1640-1648)
好酸球性食道炎の診断と治療の進歩(日本消化器内視鏡学会雑誌 Vol. 61(3), Mar. 2019)
どちらもFigureがよくまとまっていてわかりやすいレビューです。
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