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2024年度セルフトレーニング問題を解いていく!(4)〜胸のつかえ 好酸球性食道炎〜

急性期病院で9年間総合内科医として働き詰めるも、ヘルスケアスタートアップに転職したため、総合内科専門医試験の受験資格がなくなってしまった10年目の総合内科医です。
出願取り消しの連絡が来るまで今年受験するつもりでいたので、セルフトレーニング問題(日本内科学会発行)を試験対策のため購入していました。
もったいないので、自分のアセスメントを加えながら解いていきます。誰かの役に立てば。


問題:50歳男性、胸のつかえ

問題文は一部改変、解釈加えて記載します。

50歳の男性が、食事の際の胸のあたりのつかえを主訴に来院。
上部消化管内鏡像:下部食道に縦走溝を10条くらい認める。乳頭腫状の小隆起が2つある。
食道生検H-E染色標本:食道上皮の中に多数の好酸球の浸潤を認める。
この疾患について正しいのはどれか。1つ選べ。
(a) 腹水を伴うことが多い
(b) 欧米と比べわが国に多い
(c) ルゴール染色で不染帯となる
(d) 気管支喘息を合併することが多い
(e) グルココルチコイド内服が第一選択である

2024年度セルフトレーニング問題 日本内科学会

アセスメント

食事で胸がつかえる(食道での通過障害)の鑑別疾患

  • 食道癌

  • 食道アカラシア

  • 食道ウェブ

  • びまん性食道けいれん

  • 食道外からの圧排(胸部大動脈瘤や胸部・縦隔腫瘍など)

  • 好酸球性食道炎

これらを想定して、まず上部消化管内視鏡検査を行う。
結果、特徴的な内視鏡所見があり、病理組織でも好酸球を認めている。

診断

好酸球性食道炎

EoE

好酸球性食道炎は主に食物抗原に対する IgE 非依存型(遅延型)アレルギー反応によって好酸球浸潤を 主体とする炎症が食道上皮を中心に発生、慢性的に持続し、食道運動障害食道狭窄をきたす疾患である。

好酸球性食道炎の診断と治療の進歩 日本消化器内視鏡学会雑誌 Vol. 61(3), Mar. 2019
  • 2007年に米国消化器病学会より初めて診断基準が出された、比較的新しい疾患概念である。

  • 近年、特に欧米白人において成人のつかえ感、food impactionの主因として増加しており、注目されている。

  • 厚生労働省の指定難病(公費助成対象)である。

発症機序・病態

経口的に摂取されたアレルゲンが食道上皮に接触すると、上皮細胞や Th2細胞が活性化され thymic stromal lymphoprotein(TSLP),IL5,IL13,IL15, eotaxinなどのTh2 反応に関与するサイトカインが過剰に産生され、食道局所に好酸球が動員され、 肥満細胞や好塩基球の活動も加わって、好酸球浸潤主体の炎症が惹起される。
(中略)
好酸球の浸潤に加え、それが持続、さらに線維化へと進展しやすい遺伝的素因をもつ個体が特定のアレルゲンに暴露されることによって本症が発症すると考えられている。
(中略)
しかし、ここ 20 年ほどの短期間での本症の急激な増加は、遺伝的要因のみでは説明がつかず、環境要因の影響が大きいと考えられている。

好酸球性食道炎の診断と治療の進歩 日本消化器内視鏡学会雑誌 Vol. 61(3), Mar. 2019
  • 環境因子

    • 帝王切開による出産

    • 早産

    • 乳児期の抗生物質への曝露

    • 食物アレルギー

    • 母乳育児の欠如

    • 人口密度の低い地域での生活

    • 幼少期の微生物への曝露の欠如 などが関連しているとされる。

  • 遺伝的素因

    • thymic stromal lymphopoietin

    • eotaxin-3

    • calpain-14 などの遺伝子異常を認める。

  • バリア機能の低下

    • バリア機能に関するタンパク質(filaggrinやzonulin-1)

    • 接着分子(desmoglein-1) の発現低下が顕著。

    • 上皮透過性の変化→抗原提示を亢進させる寛容な環境をもたらし、好酸球の動員を引き起こす。

  • Th2活性の亢進とアレルギー感受性

    • 食物抗原の提示→Th2活性化

    • IgEを介さない

N Engl J Med 2015;373:1640-1648  FIGURE 1を引用

疫学

  • 欧米の白人男性で頻度が多い

  • 欧米の報告を中心としたメタ解析では、20〜30人/10万人程度の有病率

  • 男性優位(男性:女性=2:1)

  • 日本の報告では、30〜60代の男性に多く、平均年齢は約49歳。欧米と比べると、やや中高年にシフトしている。

  • 内視鏡検査ベースでは、0.02〜0.4%にEoEが発見される。

  • 日本の有病率は、17〜500人/10万人程度(報告によってばらつきが大きい)

  • 気管支喘息、アレルギー性鼻炎、アトピー性皮膚炎などのアレルギー疾患の合併率が高い

症状

小児

  • つかえ感

  • food impaction

  • 哺乳障害

  • 嘔吐

  • 腹痛

  • 胸痛

  • 胸やけ

  • 食欲低下

成人

  • つかえ感

  • food impaction

EoE患者では、これまでの食事経験から、つかえそうなものは避ける、ゆっくり食べる、水を飲みながら食べる、など意識的あるいは無意識的に食行動を適応させている場合がある。
また、胸やけ、呑酸といった症状を主訴とし、GERDとしてPPIで治療されているケースもある。PPI抵抗性のGERDは、EoEを鑑別疾患に挙げるべきである。

診断基準

好酸球性食道炎の診断と治療の進歩 日本消化器内視鏡学会雑誌 Vol. 61(3), Mar. 2019 Table 1
好酸球性食道炎の診断と治療の進歩
日本消化器内視鏡学会雑誌 Vol. 61(3), Mar. 2019 Figure 1を引用

内視鏡所見

この資料がとてもよくまとまっている。

好酸球性食道炎の診断と治療の進歩 日本消化器内視鏡学会雑誌 Vol. 61(3), Mar. 2019
Figure 2を引用
a:食道長軸方向に走る亀裂状の縦走溝.しばしば二重線のようにみえる(矢印).矢頭は炎症性の乳頭腫状の
小隆起.
b:重度になると敷石状の外観を呈する( 3 時方向).
c:縦走溝は食道内腔を脱気すると縦ひだ(▲)と縦ひだ(▲)の間の谷の部分にできる(矢印).
d:中部食道の食道狭細像.土管状に硬化しているように観察される.
e:狭細化部分のスコープ通過の際に形成された裂創(Crepe paper esophagus).
f :縦走溝に沿ってみられる微細顆粒状の白色滲出物.
g:びまん性に散在する顆粒~粘液状の白色滲出物.
h:食道横軸方向に同心円状に認める軽度の輪状溝.幅は畳目模様より太い.
i :比較的高度の輪状溝,軽度の狭細像を伴う.
j :粘膜浮腫により樹枝状血管の透見が低下している.

このケースでは、写真aのような、縦走潰瘍と乳頭腫状の小隆起を認めた。
未治療で長い罹病期間を持つ症例ほど、食道狭窄や狭細化しやすい。

病理所見

好酸球性食道炎の診断と治療の進歩 日本消化器内視鏡学会雑誌 Vol. 61(3), Mar. 2019
Figure6の一部を引用改変
a: HE染色(弱拡大)上皮内への好酸球の浸潤、乳頭延長、基底細胞層の肥厚、固有層の繊維化を認める. b: HE染色(強拡大)好酸球の浸潤、脱顆粒、細胞間隙の開大を認める。

サンプリングエラーが起こりうるため、生検は、複数個(最低6個以上)行うことが推奨されている。縦走溝と白色滲出物は好酸球浸潤が高度である。

治療

まずPPIを試みる。
約60%で症状が改善し、50%で組織学的寛解が得られるという報告がある。
PPIにより酸逆流による粘膜障害が治癒→食道内腔側からのアレルゲンの浸透を抑制&PPIによる抗炎症作用という機序が想定されている。
GERDに準じて、PPIの常用量を8週間程度投与するのが一般的である(保険適用ではない)。

無効の場合、フルチカゾン、ブデソニドといった吸入ステロイド薬の嚥下療法を行う(保険適用ではない)。
欧米でのガイドラインでは、成人での用法・用量は以下のように推奨されている。

  • 寛解導入期:フルチカゾン 880〜1,760mcg/日、ブデソニド 2〜4 mg/ 日

  • 維持治療期:フルチカゾン 880~1,760mcg/ 日、ブデソニド 2 mg/日

  • 通常 1 日 2 回に分割投与する

  • 小児では年齢や体格に 応じて半量程度に減量

それでも無効な場合は、食物除去療法や、ステロイドの全身投与も検討される。
食物除去療法と組織学的寛解達成率は次のとおり。
6 food group elimination diet(小麦、乳製品、卵、大豆、ナッツ類、魚介類を除去)72.1%
ミルク除去食 68.2%
4 food group elimination diet(小麦、乳製品、卵、豆類を除去) 53.4%

好酸球性食道炎の診断と治療の進歩 日本消化器内視鏡学会雑誌 Vol. 61(3), Mar. 2019
Figure7を引用

食道狭窄をきたしたケースでは、内視鏡的拡張術も行われる。

解答

(d) 気管支喘息を合併することが多い

感想

試験問題だと、診断自体は容易。あとは疾患に関する知識の問題。
日常臨床では、GERDとして漫然とPPIを投与しているが、なかなか良くならないケースで、EGD評価を検討すべきである。内視鏡的には異常所見を認めないが病理では好酸球浸潤を認める場合もあるようなので、EoEを疑う場合は、内視鏡医へ6カ所以上の生検を検討いただけるよう、検査時の依頼文に記載する。

参考文献

どちらもFigureがよくまとまっていてわかりやすいレビューです。


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