メリークリスマス人形

秋の日に、2つの命と。

朝方から変なジージーゆう音が聞こえるので何かと思っていたら、若い頃、職場で取引先から頂いた、頭の帽子を押すと♪ウィー・ウィッシュ・ユー・ア・メリークリスマス のメロディーが流れるオルゴール仕掛けのペン人形の音だった。押してないのに鳴ってる。故障かな。

若い頃、まだ自分が何をしたいのか分からなくて、その頃は女の子らしくていいなぐらいの理由から医療事務の仕事を転々としてて。でも、3つめぐらいのクリニックで「あなたは医療事務がなんであるか分かってない」と言われ、その仕事は諦めた。

普通は2、3回鳴ると止むのだが、ずっと鳴りっぱなしだ。何かの呪いのようにも思えてくる。音程もだんだん壊れてきたし、朝は煩いぐらいに鳴ってた音もだんだん小さくなってきた。でもリズムだけは変わらずウィー・ウィッシュ・ユアメリクリスマス。

今日がヤマなんだ。辛いけど看取ろう。

そうして朝食の支度をしようと台所に行ったらコンロに置いてある鍋の取っ手にカマキリが止まってた。成虫だ。どこから入ったんだろう。室内に置いてある植木鉢の土から孵化したのかな?

調べてみるとカマキリは益虫でゴで始まる虫とかを食べてくれるという。そんなに飛ばないとも書いてあったので、あまり考えもなく、そのままに。
益虫なら、ペン人形が召されたら魂を供養してくれるかも。

ペン人形の歌を聴きながら、気になるので時々台所にカマキリどうなってるかと見に行った。1時間ぐらい姿を消していたのち、カマキリまたさっきの鍋の蓋の上に姿を現した。

(この場所が気に入ったのかな? いや違う。逃げたいけど逃げられなくて困ってるんだ。)

と気づき、逃がさなきゃと今度は捕獲方法をググった。胴と首のあいだあたりを掴むといいらしい。しかしカマキリが暴れてカマを振り回すこともあるらしい。怖い。でもこんな小さいんだもの。ちゃんと掴めばこっちは軍手もしてるし、大丈夫。

と思って台所に行ったら、カマキリ君、今度は換気扇からでようと壁をよじ登ろうとしてた。が、タイルなので滑ってしまって登れない。こっちもまだ捕まえる心の準備が出来てないし、もう少し掴みやすい角度に動いてくれないかなあ。

しばらく動きが止まっていたカマキリ君、コンロから下の方に方向転換して、よろよろと下に降り始めた。ホントに飛べないんだね。
「そう!その調子で、下に降りて!」

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無事、床まで降りたら、そこはすぐ窓だったので、窓を開けてあげた。
「さあ、でて!さようなら」

カマキリ君、汗をかいたのか、頭を念入りにカマで撫でてから外に歩いていった。

部屋に戻ると、ペン人形も、もう、ただじーじー言うだけになってた。歌っていなかった。カマキリはいなくなってしまったけど、若き日の魂を食べてくれるよ。


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