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『ボクたちはみんな大人になれなかった』と『うる星やつら2ビューティフル・ドリーマー』
燃え殻さんの同名タイトルの小説が大好きなので、映画の公開をとても楽しみにしていた。
小説を読んだ時、佐藤の忘れられない彼女カオリの情報が少なかったので、どんな子なんだろうと想像を掻き立てられた。
そしてスクリーンで再現された伊藤沙莉演じるカオリは良い意味で存在感があってキラキラしてた。
映画は現在に近いところから、何らかのトリガーがあってどんどん前の年代へ深く潜っていく。
冒頭近く、佐藤が付き合っていた恵がこう言って部屋をでていく。
「あんたはずっと閉じこもってれば」
佐藤はカオリとの思い出の本に気持ちが行ってた。
佐藤は恵の時も、彩花の時も、スーの時も、ずっとカオリのことを考えているのだ。
映画は現在に近いところから、何らかのトリガーがあってどんどん前の年代へ深く潜っていく。
現在はむしろ色褪せていて、遡るにつれて色鮮やかになっていく。
森山未來が演じる佐藤もどんどん若くて不器用な男子になっていく。
そして、佐藤とカオリが初めて会った原宿ラフォーレ前のシーンはとても色鮮やかで印象的なシーンとなる。ギューッと胸が締め付けられる。
その感じは各年代のアイテムや登場人物の変化のリアリティーを丁寧に再現しているからこそ出せたものだろう。
終盤、佐藤は親友の七瀬に「早く現実に戻りなさいよ!」とタイムマシンに押し込まれる。
* * * *
佐藤とカオリが『うる星やつら2ビューティフル・ドリーマー』の話をするくだりがある。
「『ビューティフル・ドリーマー』を何回観ましたか」「2回、かな」「少な…」「何回観たんですか」「何回というより、家にいる時はずっと流してますから」
『うる星やつら2ビューティフル・ドリーマー』は学園祭の前日を何回も繰り返す、夢の話だ。
『ビューティフル・ドリーマー』の中では夢から抜け出せない。カオリは『ビューティフル・ドリーマー』を観る日常から抜け出せない。佐藤はカオリの思い出から抜け出せない。
青春は、なかなか諦めきれない恋愛や仕事、何者かになりたい、煩悩の数々でできてるのかも知れない。
『ボクたちはみんな大人になれなかった』は抜け出せない世界が入れ子式につながって巻き戻っていく。
タイムマシンを降りた佐藤は、かつての佐藤とカオリに出会う。
「普通だね」
そこには世の中の端っこで、注目されることもなく何者でもなかった二人がいた。それは私かも知れない。
「共感した」なんて軽い言葉で言ってはいけない。この物語には真ん中にいなかった人達の半生が確かに息づいている。本当に素敵な物語だ。
大好きな小説が、映画の中に大切に閉じ込められた。この事を嬉しく思う。
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