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徒然に「世界は美しいモノであふれている」③フィレンツェのピッティ宮の謎の美女ユーディト

 写真はクリストファー・アローリ作「ホロフェルネスの首を持つユーディト」の一部。
 フィレンツェのピッテイ宮美術館で見ました。
 所狭しと壁にかけられている絵画の中で、美女と生首との取り合わせが目を引きました。そして、何より、この美女が、何か現代的な感じがしたのです。とても400年前に描かれたとは思えない。今でもハリウッドからオファーが来そうなオーラがありました。
 その魅力に魅せられて、思わず、帰国してから、絵の解説本を探し回ってしまったほどです。

 そして、見つけました。その解説を。中野京子著「名画の謎」で。

 中野京子さんは、ドイツ文学者ですが、西洋の歴史や芸術に関する広範な知識をもとに、エッセイも書いていて、それらは本当に面白いです。
 わたしも、これをきっかけにして、数々の名画の謎の解説シリーズのような彼女の著書を読み漁ってしまいました。

ユディトは旧約聖書外伝「ユディト伝」に登場する女性。ユディトを主題とした絵画は一般的に、彼女の住むユダヤの町べトリアにホロフェルネス将軍が侵攻し、町は陥落状態にあったが、ユディトが敵陣におもむきホロフェルネスの寝首を掻いて持ち帰る物語を描写したものである。

 美貌の未亡人ユーディトは、旧約聖書の中では広く知られた逸話のようで、多くの画家が描いているそうです。

 わたしが見たのは、クリストファー・アローリが描いたユーディトだったのです。ユーデイトのモデルは、当時の彼の恋人(当代一の人気を誇った娼婦)だそうで、生首は、アローリ本人がモデルとのこと。
 放蕩者で知られた彼ですが、彼女にのぼせ上り、かなりの財産を散財したとか、そんな自虐が受けたからか、私小説風の背景からか、あるいは、彼女の人気からか、「ユーディトもの」はアローリの人気シリーズとなったとそうです。

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 この絵の背景にそんなことがあったなんて。(ドラマチックすぎる)
 いくら失恋?したからと言って、自分をモデルに生首を描くなんて、ちょっと悪趣味のような気もしますが、その情熱がアローリの創作欲に火をつけたのでしょうか。
 また、この絵のユーディトが美しいけど無表情に、生首を手にしているのも、悲しい恋の結末を現わしているのだと思わされます。

 しかし、絵の中の彼女は、とても魅力的なので、アローリが本気で彼女に惚れていたのは事実でしょう。
 彼は、天才とか巨匠とか言われるような画家ではなかったようですが、
それでもこれだけの傑作を生みだせたのは、恋情のなせる業だったんでしょうか。

 男と女の情念、それが、当人には悲劇であっても、傍から見たら喜劇に見えても、400年という時がたっても、色褪せることはないと証明したような絵を描いたのだから、あるいは、アローリは本当はたいした画家だったのかもしれません。

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