『文藝春秋』に殺される日~近藤誠氏と守秘義務~(前編)

   ( 後編はこちら

※本稿は全文無料公開の投げ銭方式です。投げ銭の金額は「近藤誠氏のセカンドオピニオン代金1分相当」に準じました

 断りのない限り、引用先はすべて『文藝春秋』2015年11月号です。
 短い記事(全8p)ですので、読むとしても立ち読みのみをお薦めします。

 前置き(10日17時追記)

 川島なお美さんの死去が9月24日で『文藝春秋』該当号の発売が10月9日発売、かつ原稿の締め切り日とp195の黒木奈々さん(9月19日死去)への言及を考えると、問題の暴露記事は川島さんの死去前後に便乗で企画された可能性が高い。


 付記(10月11日9時&12日7時追記)

 次号の『週刊文春』はよりにもよって「近藤誠特集」とのこと。
 以下、書店への宣伝FAX、及び“研究所”の情報保護方針を引用する。

ここが売れるポイント!
・次号『週刊文春』にて川島なお美さんのがんをテーマにした近藤誠特集が掲載!
・女優・川島なお美さん、タレント・北斗晶さんなど、相次ぐ芸能人のがん治療により近藤理論が再注目!!
がん治療が話題になっている今こそ再展開で売り上げが見込めます!!

https://twitter.com/choconyachasan/status/652696808452329473

2)個人情報の管理と保護
 個人情報の管理は厳重に行います。第三者に対して、本人を特定できる可能性のあるデータを開示・提供することはしません。また個人情報への不正アクセス、紛失、破壊、改ざん及び、漏洩を防ぐための適切な対策を行います。

3)準拠法等
 当研究所は、保有する個人情報に関して適用される法令、規範を遵守いたします。

   2013年4月 近藤誠がん研究所・セカンドオピニオン

 

  p188

近藤(近藤誠氏、以下同) (筆者註:川島なお美氏はセカンドオピニオンに)一度、お見えになりました。肝臓の中に腫瘍が見つかった、ということでね。川島さんご自身がそのことを周辺に話していたようですね。

※p189からは具体的な日付、検査結果、生前の会話などを暴露し始める。

※インタビュアーの森省歩氏は政治ルポルタージュが主な仕事の人物であり、本件のあやうさ、特に医療倫理面の把握に関しては疑問が残る。

近藤 法律上、亡くなった方は医師の守秘義務の対象ではなくなるのですが、川島さんとのやりとりを公にすることにはためらいもあります。

※法律以前の問題として、プライバシーを少しでも考えるなら、近藤誠氏へセカンドオピニオンを受けに行くのは愚策と分かる一節。第93回看護師国家試験では、今回のプライバシー暴露を予見したかのような出題がなされている

患者が死亡しても守秘義務は継続する。
・正当な理由がなく、その業務上知り得た人の秘密を漏らしてはならない。事例検討は正当な理由には当たらない。
・退職後または看護師等でなくなった後も守秘義務は継続する。
・6か月以下の懲役又は10万円以下の罰金である。
http://www.ns-station.com/exam/answerhouki2.html


※厳密に言えば看護師と医師で適用される法律は違う。医師は「刑法第134条第1項」、看護師は「保健師助産師看護師法第42条の2」。

※法律上は、「患者や他の者に対して現実に差し迫って危害が及ぶおそれがあり、守秘義務に違反しなければその危険を回避することができない場合は、機密情報を開示することは倫理にかなっている」と弁明できる旨の指摘があります。事実面として追記しておきます。

※本文では川島なお美氏が何カ所ものセカンドオピニオンを受けたことも語られているが、少なくともその他のセカンドオピニオン先からは一切情報が漏れていない。また、後述するように記事には明かす意味のない情報も大量に含まれており、この「ためらいもあります」は虚言に近い。

※この守秘義務問題の構図として、「まともな医療関係者は没後も当然守秘義務を守るので、まともでない側が言いたい放題になる」との点は強調してし過ぎることはない。この直後に近藤誠氏が批判している「冷たい沈黙」こそが、実はまともな医療関係者の態度なのである。繰り返すが、現状では「その他のセカンドオピニオン先からは一切情報が漏れていない」。


   p189

近藤 手術を受けたこと、ハッキリ言えば手術に引きずり込まれていったことを含めて、主治医らが行った治療には大きな疑問を抱いています。

※故・中村勘三郎氏らの時と同様の炎上狙い。近年では慶應病院退職後に若手医師らから絶縁状を送られるなど、氏と実際の治療現場はますます距離が開いており、この「大きな疑問」自体かなり疑問符がつく内容となっている。加えて、近藤誠氏が川島なお美氏のセカンドオピニオンを受けたのはただ一度きりであり、それ以外はあくまですべて憶測である。闘病記が存在する中村勘三郎氏の時の例を考えるに、憶測が外れている可能性は極めて高い。

近藤 一昨年(2013年)の8月29日にご本人から予約のメールが入り、およそ半月後の9月12日に外来にお見えになりました

外来との言い方ではあたかもクリニックか何かの一部門のようだが、誤り。近藤誠氏の“研究所”はマンションの一室に過ぎず、30分3万円強、かつ実際は10分未満の場合もあるセカンドオピニオンしかやってはいない。治療設備・応急装備の一切無いマンションの様子は、昨年放映の『金スマ。』でも確認できる。

近藤 (筆者註:川島さんは)お一人で来られました。白っぽいフェミニン(女性的)なワンピースに、つばの広いオシャレな帽子をかぶっておられて、さすがに女優さんだな、と思いました。

※治療を云々するにはほぼ不要な情報。ただし「お一人で」との発言からは、発言内容の真偽自体、常に近藤誠氏の主観を考慮しなければならないことが分かる。p191での「切るなり焼くなり」を無理矢理「手術以外」と解釈するなど、本文中で既にその危うさは散見される。

―― 開口一番、川島さんはどんなことを話したのですか。
近藤 とにかく仕事のことを気にされてましたね。「私は女優をしていて、舞台の仕事もあるので、抗がん剤治療は受けたくない。仮に手術を受けるとしても、ミュージカルの舞台を終えてからにしたい」と、やや勢い込むような感じで、ご自分の希望を述べられていました。(中略)僕のところに来られる少し前にの8月14日にドック検査を受けたところ、PET-CT検査で肝臓に影が映ったためMRI検査をするよう勧められた、とおっしゃっていました。その後、8月21日のMRI検査で2センチほどの影が確認されたため、同じく都内にある有名私大病院の外科医を紹介された、ともおっしゃっていました。

※具体的な日付もまた不要な詳細。「ためらい」はどこへ?


   p190

近藤 そのこと(筆者註:担当医とのすれ違い)は僕も川島さんからお聞きしました。「(針を刺して)肝臓の生検をすると、がんが飛び散ってしまう恐れがある。だから、とにかく切りましょう」としつこく勧めてくる外科医に対し、彼女が「良性か悪性か分からないかも分からないのに手術はイヤです」と拒むと、「ならば抗がん剤をやりましょう」と切り返されたと。

※専門的、かつ故人にとっては悲劇的な箇所。この種類のがんは進行が早い場合もあり、きちんとした治療を見据えるなら一刻も早くは妥当。この部位に限って言えば生検で飛び散る可能性は相対的に高く、担当医の説明も妥当。

 追記(10月19日21時)

 医療サイトにて微妙な部分に触れた記事が出たため、併読をお薦めする。

「《221》 良性かもしれないのに「とりあえず切る」ってアリ?」http://apital.asahi.com/article/sakai/2015101600009.html

近藤 川島さんがDVDに入れて持って僕のところに持ってきた検査画像では転移の所見は見受けられなかった。にもかかわらず医師が「余命一年」を口にしたのは、彼女を脅して手術に持ち込みたかったから、としか思えない。

※診断そのものの漏洩、かつ近藤誠氏得意の後出しジャンケン。亡くなった時に限定で発言するため、実際は何ら意味のない憶測。

近藤 実は、川島さんは僕以外にも、いろいろな医師に相談をされていたようです。僕への相談の際にも「親しいドクターからこう言われました」「あの医者は信用できないと言われました」などと、エピソードを交えてお話をされていました

※守秘義務すら守れない医者を信用した(?)末の悲劇。


   p191

―― 川島さんは条件つきながら「手術もやむなし」と考えていたのでしょうか。
近藤 いや、川島さん自身が「切るなり焼くなり」とおっしゃっていたように、彼女は切除手術以外の治療法はないか、必死で模索していたようです。

※「切るなり焼くなり」は、ごくごく普通に考えれば手術も含むであろう表現。端的に意味不明。

―― 正直、近藤誠先生は彼女の病状をどのように判断していましたか。
近藤 確かに検査画像を見る限り転移はありませんでしたし、川島さん自身も「早期発見だった」とおっしゃっていたんですが、胆管がんは膵臓がんと並び予後のきわめて悪いがんです。彼女の場合、腫瘍は肝臓の左葉にあったのですが、いずれ目に見えない転移巣があきらかになる可能性があった。

※p190と矛盾。「転移の所見は見受けられなかった」ため「余命一年」を脅しと批判しつつ、一方で「転移巣があきらかになる可能性」「予後のきわめて悪い」と言葉をすり替えて述べている。

   ( 後編に続く ……)

付記:
緩和ケア医として活躍中の大津秀一氏も、問題の記事に触れておられます。
ぜひ併せてご参照下さい。
間違いだらけの近藤誠さんの記事 文藝春秋はこのクオリティで載せて良いのですか 川島なお美さんの件
http://ameblo.jp/setakan/entry-12082330871.html



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