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日本語教師がスケートとスノボを見て疑問に思った「着氷」と「着雪」の話

こんにちは。
日本語教師のはやしえみです。

テレビをつけたら、ちょうどスノーボードハーフパイプの決勝がやっていて、リアルタイムで見ることができました。

ふだん見ないスポーツを見ていると、聴き慣れない言葉が飛び込んできて、気になります。

解説者がおっしゃる

「着地、ビタビタでしたね〜」
「ビタ着だったから、スピードが落ちず次につながりましたね。」

を聞いているうちに、「ビタビタ」は「ビタビタ」としか言えないんだな〜とわかってきたのですが、ふと疑問がわきました。

あれ?着地なんですか?着するのは雪なのに?

なぜこう思ったかと言うと、フィギュアスケートではランディングのことを「着氷」と言っていたからです。

実はこの数日前、フィギュアスケートの試合で解説者がジャンプのランディングを「降りました!」と言っているのを聞いて驚いたばかりでした。

浅田真央さんが注目され始めた頃、彼女がインタビューで「ジャンプを降りた」と言ったとき、インタビュアーが「降りる?」と聞き返し、周囲にいた人が「着氷するっていう意味です」と解説していたのが印象的でした。

それは地域柄(?)、子どもの頃から聞き慣れていた言葉が世間一般ではないと気がついた瞬間だったのです。

そうか!一般的には「降りる」ではなく、「着氷」と言うんだな!

私はそこでそう学んだのでした。

それなのに、NHKのアナウンサーが「降りた」と言っている!

すごい!語彙の使用範囲が変わっている!!


そして、その数日後・・・
今度はスノーボードハーフパイプ。

全然違いますが、ジャンプとランディングのある競技。

それが、「着地」と言っています。

そっか。やっぱり「降りる」とは言わないのね?

「降りる」はスケート用語なのね。


あれ?

スケートは「着氷」なのに、スノボーは「着雪」じゃない????


確かに、雪の下に「地」はあるけれど、それを言うなら、スケートリンクも同じでは??

そう言えば、体操もランディングするところは「地」じゃなくて、「床」だけど、「着床」とは言わないわね。

何だこれ??

「着地」と言うと、体操の影響からか「ピタッと止まって、演技が終わる」と言うイメージがあります。

「議論の着地点を探す」などと言う表現もたぶんこのイメージから来ているのでしょう。

スケートはランディングしても、演技は続いていくから「着地」と言いにくい?

そう考えると、スノーボードも「着地」で演技が終わるわけではないような?

スノーボードはスケートボードから派生してきたスポーツだから、スケートボード用語をそのまま使って「着地」と言う?

だったら、同じボード系のサーフィンはどうなのか?と検索したら、こんな文言を見つけました。

「エアリアルは“飛ぶ”ではなく、浮き上がる。そしてランディングは“着水”なのです」


おー!「着水!」

確かに、サーフィンは「地」ではないので、比べようとした私が悪い(笑)。


何で、スノーボードは「着雪」と言わないのーー???

全然わかりません。

考えてみると、

「着雪」は道具やウェアに雪がつくこと。
「着床」は子宮に受精卵が着くこと。

ですね。

これはスケートの「着氷」のほうがおかしいのかも?

そう思って、辞書を引いてみると、やっぱり「着氷」にも「物体に氷がつくこと」という意味があり、むしろこちらが第一義でした。

どうやら「着氷」はフィギュアスケート特有の用語のようです。

渋沢栄一さんばりに胸がぐるぐるしてきました

・・・と言うことはもしやこれも「ジャンプを降りる」と同じように、スケート人気が高まったことで一般化した語彙の1つなのかも??

昔のフィギュアスケートニュースではランディングをどう表現していたのでしょうか???

これはもう調べてみるしかないーーー!

と、新聞検索を始めようとしたところ、なんとこんな記事を見つけてしまいました!

やはり、私のような凡人が思いつくことはすでに専門家が検証してくれていたのでした!!

上記解説によると、

フィギュアの「着氷」は1977年の読売新聞の記事に見られ、30年以上も前から使われていることが分かります。

そして、トリノオリンピックで荒川静香さんが金メダルをとった2006年以降「着氷」がよく使われるようになったとのこと。

しかも、このことは新野直哉先生によって、「現代日本語における進行中の変化の研究」(ひつじ書房)の中で語られているそうです。


着氷」の辞書的な意味は以下の二つ。
(1)飛行機・汽船などに、雪・水しぶきなどが、こおりつくこと
(2)とびあがって、氷の表面に着くこと

「『着地』からの類推で(2)の『着氷』が新たに生じたと考えられ、(1)の意味の『着氷』が一般になじみが薄いこともあり、抵抗を受けることなく(2)の『着氷』が定着したのではないか」と見ています。

そっか!

スケートよりも競技人口の多いスキーやスノボでは「着雪」という言葉すでに(1)の意味で浸透していたから、仮に誰かがランディングを「着雪」と言ったとしても、受け入れられなかったのでしょうね。


そう思って、もう一度辞書を見ると、Weblioの辞書も「フィギュアスケートで」と限定しているではありませんか?!

私はこんなに遠回りして「着氷」がスケート用語であることにたどり着きましたが、辞書には初めから「フィギュアスケートで」と書いてありました。

見えているのに、見えていない。
知ることとわかることは違う・・・・の典型ですね。

グダグダ書きましたが、平野歩夢選手、金メダルおめでとうございます!!!

着地がビタビタでカッコよかったです!

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