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それを押した者はみな破滅する「清張スイッチ」とは?

今、『清張地獄八景』という本を、とても楽しく読んでいます。


みうらじゅん編集/文春文庫

この本は、昭和の偉大な小説家、松本清張についての評論、書評、映画評などを、イラストレーター、エッセイストのみうらじゅん氏が編集したもの。
その冒頭には、みうらじゅん氏の「清張作品の真髄」を論じたエッセイがあり、それがとても面白いのです。

氏曰く、「松本清張作品とは、基本的には、『不倫ホラー』である、と。
そしてその恐怖は、既婚男性が一番よくわかるのだ、と。

たしかに清張作品は、家庭も仕事もそれなりに順調な男性が、つい、ふと、「そろそろ愛人でも持つか」と思ってしまうところから地獄が始まる、というストーリーが多いのです。

ちょっとした出来心の不倫から、破滅へと突き進んでしまう主人公。
「いかん、ダメだ」とわかっていつつも、どうしても「破滅に続く誘惑」に、打ち克つことができない。
みうら氏はこれを「清張スイッチを押す」と表現しています。

そしてその「清張スイッチ」は、独身男性とか、無職であるとか、失恋や失意の中にいるような「今、何も持ってない」男性の前には出現しない。
「清張スイッチ」はあくまで、「不倫(の発覚)」によって、今持っている幸福を全て失いかねない男性、それなりに成功、出世した男性の前にしか現れないのです。

そして最後は結局、悪行によって破滅してしまう。
その姿を見て、人々は「やはり不倫とはよくないものなのだ」と改めて思い至る。
因果応報の劫罰物語。
それが松本清張作品なのです。

ここのところ世間を騒がしているスキャンダルを起こした人たちも、きっとその「清張スイッチ」を押してしまったのでしょう。
長年努力して掴んだ成功も家庭も、全て失うかもしれないのに、彼らは「清張スイッチ」を押さずにはいられなかった。。。

「人間とは、そんなものだよ。。。」

そんな松本清張氏のセリフが聞こえてきます。
同時に、この世の人々は、不倫という罪によって因果応報の罰を受けた人を見て、この世の正義がなされたことに、ほっと胸を撫でおろす。
それもまたひとつの人間の業。

どんなに理屈をつけたところで、この世とは、人間とはそういうものなのだということを、松本清張作品は教えてくれるのです。

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