朝のえずき

 6時起床。

 唐突ですが、みなさん、「えずく」ことってありますか?
 あの、「オエェ~!」って奴です。

 芸人さんとかが、きもちわるいものをみたり、口にいれたりしたときに、よく「オエェ!」っとやってますよね。
 あれ、すごく好きで、おもしろいから、動画サイトで検索してしまったこともあるですけど、日常生活においては、あんなふうに頻繁にえずいている人を、見ません。

 変なものをみて、「きもちわるい」とか、「ギャー!」って言う人はいても、えずいてる人っていない。

 ただ、我が家には「えずきマイスター」がいるのです。

 おっさんこと、ぼくの父です。

 なぜ、「おっさん」と彼のことを呼んでいるのかというと、たんに、慢性的な軽度の絶交状態だからです。
 でも、家族の男同士の関係なんて、どこもだいたい同じだと思います。
 たいしたことではなくて、口を開けば、口論になるから、口をきかない、というだけです。ご心配なく。

 さて、えずきマイスターのおっさんですが、毎朝、歯磨きの最中に必ず、えずきます。絶対です。
 世の中に、絶対なんてありません、と言う人もいますが、それでも、少ないなりに「絶対」と言えるものもあると思います。
 たとえば、冬の空気は乾いて澄んでいるし、おっさんは毎朝えずきます。

 おっさんの歯磨きを、じっと横に立って観察したわけではないので、(そんなことをしたらこっちこそほんとうに吐いてしまう)詳しいところは分かりませんが、どうも、歯を磨いた後、水で口をゆすいでいるときにえずいているようなのです。洗面所から聞こえる音から推測する限り。

 歯磨き粉がのどに流れこんでしまった。(わかる)
 歯ブラシを奥に突っこんでしまった。(わかる)
 鏡でみた自分の顔がきもちわるい。(わかる)
 屁がくさい。(わかる)

 みたいな理由でえずいてしまうのはまだわかるけど、口のなかの汚れた歯磨き粉を吐きだして、水でゆすいで、さあ! いちばんスッキリ、サッパリする局面ですよね。
 歯磨きのクライマックスですよ。
 そのさきには、もう、笑顔あふるる、開けた世界が待っている!

 はずなのに、どうして、ここでえずいちゃうのよ。

 具合が悪くなってきたのでそろそろやめにします。
 今朝も元気におっさんは、えずきました。
 「いってきまーす」
 「いってらっしゃーい」
 仕事に出かけました。

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