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ろう・難聴学生が「目」の健康を保つための6つのポイント-オンライン授業の受講に向けて-

はじめに

 新型コロナウィルスへの対応のため、教育機関でオンライン授業が行われるようになりました。
 ろう・難聴学生にとって、オンライン授業は、デジタルデバイス(ノートパソコン、タブレット、スマートフォン)だけで講義の映像や遠隔情報保障(パソコンノートテイク、音声認識)を見続ける状況が多くなります(図1)。

図1

図1 現地での授業とオンライン授業の違い

 音声を聞きながら必要な時に画面を見ることができる健聴学生と比べて、デジタルデバイスを長時間凝視することは、「目」に多大な負担をかけることになり、オンライン授業の受講にも支障をきたしかねません。
 そこで、「目」の健康を保ちながらオンライン授業を、負担少なく楽しく受けることができるように6つのポイントを紹介します。

ポイント1 ディスプレイとの基本的な距離を保つ

 ここでは、ノートパソコンやタブレットは40cm以上、スマートフォンは30cm以上離して見ることが重要になります。
 そもそも人間は、遠くにあるものや近くにあるものをどうやって見ているのでしょうか? 人間の「目」は、近く、あるいは遠くにあるものを見るために、目の水晶体の厚みが変化してピントが調節されます。水晶体の厚みを変化させるために、水晶体の周りにある毛様体筋(もうようたいきん)と呼ばれる筋肉を使うのです。遠くにあるものを見ているときは毛様体筋の緊張が緩むため、非常にリラックスした状態になります。逆に、パソコンなど近くのものを見るときには、毛様体筋が緊張し、さらに、スマートフォンなどパソコンよりも近くのものを見ると、毛様体筋がさらに緊張します(図2)。

図2

図2 水晶体を厚くする毛様体筋の緊張状態

 このように毛様体筋がゆるむことが少なく緊張状態が持続すると、毛様体筋に大きな負担がかかって、毛様体筋がある目の周りに疲労を感じます。これが「疲れ目」です。
 しかも、スマートフォンを使用する時の視距離は平均20cmで、紙媒体の平均30cmと比較して短いことが報告されています。たった10cmの差なのですが、毛様体筋への負担(水晶体を厚くする調節努力)と、両目を寄り目にする眼筋(図3)への負担(両眼で見る寄り目の努力)が大きく異なっているのです。視覚系に障害がない者が20cmで見ることは、30cmと比較して、ピントを合わせる努力が1.7倍必要で目が疲れやすいのです(図4)。

図3

図3 眼球を上下左右に動かすために使う外眼筋

図4

図4 視距離によって緊張状態が異なる

 オンライン授業でオンライン授業の映像や遠隔情報保障の文字情報を長時間見続けると、「疲れ目」が起こる可能性が高くなります。
 そこで、前述したようにノートパソコンやタブレットは40cm以上、スマートフォンは30cm以上離して見ることに加えて、毛様体筋や外眼筋の強い緊張状態を持続させないように40分~1時間に10分程度の休憩を入れる、画面との視距離が短くならないように姿勢を固定する、の3点が必要です。

ポイント2 画面内に表示される遠隔情報保障の文字列のウィンドウの幅を広くする

 遠隔情報保障(文字通訳および音声認識)の文字列をオンライン授業の映像と一緒に同一のディスプレイ内に表示したり、あるいは遠隔情報保障の文字列をスマートフォンを縦に立てた形で表示すると、視線の動きが狭くなって前述の緊張状態が長引き、「疲れ目」になる可能性が高くなります。
 それはどういうことなのか考えるために、文庫本(紙媒体)とスマートフォン(電子媒体)をそれぞれ使って書籍を読むとしましょう。図5を見てください。

図5

図5 視機能に与える影響の違い

 文庫本のように画角が大きいと、視線の動きが多くなり、その分眼筋を緊張させたり緩ませたりすることができるのですが、逆に縦に立てたスマートフォンのように小さいと視線の動きが少なくなります。また、文庫本はページをめくるので、指でめくる動作が入り、それに伴って次のページを覗き見る目の動作も起こるため、画面を凝視するための調節を一旦解除することができます。つまり、視覚的注意を焦点、分散、焦点、分散…と交互に行うので、筋肉の緊張状態を時々解除できるわけです。しかし、スマートフォンの場合は画面を指でスワイプするので、視線は画面を凝視したままになります。すると、調節の緊張状態は解除されない。視覚的注意の焦点だけが続くわけです。
 オンライン授業では、おそらくスマートフォンを立てた状態で、文字通訳あるいは音声認識の文字列を長時間見続けることになると思います。そこで、スマートフォンよりもタブレットで見るようにする、スマートフォンで見る場合は縦に立てるではなく横に倒す、ノートパソコンの画面で文字通訳の文字列を見る場合もスマートフォンの幅よりも広めにウィンドウの幅を調整する、さらに時々スマートフォンやノートパソコンから瞬時でもよいので一旦目を離して目を戻す、といった工夫をとってみましょう。

ポイント3 目への刺激を和らげる環境を作る

 デジタルデバイスを見る環境では、基本的に照明を付ける、照明などによる画面への映り込みがないようにする、可能であれば部屋の照明は直接照明より間接照明にする、ディスプレイの画⾯は高輝度ではなく低輝度にする、睡眠する1・2時間前にオンライン授業を終わらせるようにする、を心がけるとよいでしょう。
 デジタルデバイスはLEDディスプレイを使用しており、そこからブルーライトを発しています。ブルーライトとは、人間が見ることができる可視光線の中で最もエネルギーの高い青色の光であり、網膜まで届くほどの強さです(図6)。心身を覚醒させる作用があります。

図6

図6 ブルーライト(ブルーライト協会のホームページより)

 ブルーライトによる心身への影響として、加齢性黄斑変性症など目の障害に加えて、体内時計の狂いによる睡眠障害、肥満、癌、精神状態が起こることが多くの臨床研究で実証されています。
 また、睡眠前までオンライン授業を受けることは避けた方が良いです。睡眠前にデジタルデバイスの画面から発せられる強い光を浴びると、入眠作用があるホルモン「メラトニン」の分泌が阻害されてしまい、寝つきが悪くなることが明らかにされています。
 したがって、ブルーライトをカットするフィルムをデジタルデバイスの画面に貼っておく、スマートフォンにはブルーライトカット機能を持つNight shiftが装備されているので常時ONにする、睡眠の1、2時間前にはオンライン授業を終わらせておく、といった対策をとるとよいでしょう。翌日に向けて目をしっかり休める睡眠をとるようにしましょう。

ポイント4 デジタルデバイスから離れる時間を入れる

 デジタルデバイスを長時間使うと、ドライアイになる可能性が出てきます。
 ドライアイは、「さまざまな要因による涙液および角結膜上皮の慢性疾患であり、眼不快感や視機能異常を伴う」と定義されています(ドライアイ研究会, 2006)。例えば、デジタルデバイスを長時間凝視すると、目の表面を満遍なく涙で均一に潤す役割を持つまばたきの回数が減り、涙が目の表面を十分に覆うことができなくなります。また、涙の分泌量が減ったり、量は十分でも涙の質が低下することによって、目の表面を潤す力が低下した状態になるわけです。まばたきは、目の表面を満遍なく涙で均一に潤しておく役割を担っています。
 ドライアイの患者は、この涙の状態が不安定になり、涙が蒸発しやすくなったり、眼表面に傷がつきやすくなった状態になっています(図7)。自覚症状としては、しょぼしょぼする、充血、疲れ目などがあります。
 パソコンが普及してきたことによって画面を見続ける作業を長時間行うことでかかるVDT(visual display terminals)症候群が注目されるようになりました。VDT症候群の1つにドライアイが含まれています。オンライン授業や遠隔情報保障においても長時間、拘束させられたように凝視してしまいがちであるために、同様のことが起こる可能性が考えられます。
 そこで、例えば、2つ以上の授業を続けて見続ないこと、1つの授業の時間が長くなる場合はリアルタイム配信やリアルタイム情報保障ではない限り途中で小休止を入れて何度かまばたきしておくこと、など工夫すると良いでしょう。小休止をとるときは、椅子から立ち、運動をしたり、窓の外の景色をながめたりしてください。また、次のセルフチェック項目を使って時々「目」の健康状態を確認してください。

図7

図7 正常な涙と不安定な涙の状態

セルフチェック(日本眼科学会ホームページより)

①次の項目で該当する自覚症状はいくつあるでしょうか?
□目が疲れる
□目が乾いた感じがする
□ものがかすんで見える
□目に不快感がある
□目が痛い
□目が赤い
□目が重たい感じがする
□涙が出る
□目がかゆい
□光を見るとまぶしい
□目がごろごろする
□めやにがでる
②10秒間瞬きをせずに目を開けていられますか?

 以上のセルフチェックについて、自覚症状で5項目以上チェックがあった、もしくは10秒間まばたきを我慢できなかった場合は、ドライアイの可能性があります。一度、近くの眼科医に診てもらってください。

ポイント5 音声認識による認識結果は話しことば固有の特徴を少し意識しながら読んでみる

 オンライン授業で音声認識アプリを使った情報保障が広がってきていると思います。話者の話し方や音響環境などによって誤認識が発生することがあるため、誤認識を修正する体制は原則として整備する必要があります。
 また、その認識結果は、書きことばとして表される文字通訳とは異なり、日本語の話しことばをそのまま文字化したものであるため、認識結果を1行ごとに集中して読むよりも、話しことば固有の特徴を意識しながら、認識結果を数行にまたがって離された内容の意味や意図をつかむようにするとよいかもしれません。私も経験上そのようにしています。
 ある授業で音声認識でそのまま文字化されたものとして、次のような例があります。

そういうみなさんを取り巻く周囲の光、音、においなどそういったものがみなさんの周りには存在しています。それはみなさんがそこにいれば、すべてその刺激を受け取っているかというと、実は音というものが空気の振動だと説明しましたよね。いわゆる空気の振動という形で伝わってくる。

 太字は、話しことば固有の特徴として頻繁に観察される「挿入節」です。もし、スマートフォンで音声認識の結果を見た場合は、次のように1→2→3→4→5→6と順に認識結果が表示されるでしょう。5の認識結果が出た時点で、これまでの内容とのつながりがおかしくなり、6以降の認識結果が出てから挿入節だとわかるまでは、これまでの内容を遡って読み直し、意図や意味をつかもうとするでしょう。

1 そういうみなさんを取り巻く周囲の光、音、においなど
2 そういったものがみなさんの周りには存在しています。
3 それはみなさんがそこにいれば、
4 すべてその刺激を受け取っているかというと、
5 実は音というものが空気の振動だと説明しましたよね。
6 いわゆる空気の振動という形で伝わってくる。

 もし文字通訳であれば、書きことばとして通訳するので、下線部の位置は次のようになるでしょう。文章の流れが整っているので、意図や意味理解できなかったりこれまでの内容を忘れない限り、遡る必要はないわけです。

そういうみなさんを取り巻く周囲の光、音、においなどが周りに存在しています。音というものが空気の振動だと説明しましたよね。それはみなさんがそこにいれば、すべてその刺激を受け取っている時は、いわゆる空気の振動という形で伝わってくる。

 音声認識アプリによる情報保障では、話しことば固有の特徴として、途中で内容を補足するために挿入節を入れる、発話途中で語彙や文法などを言い直す、主語など文の頭にくる語彙が文末に来る(倒置)、文脈とあわない接続表現が用いられる、非常に長い文が流れる、などの特徴が頻繁に観察されます。聴こえる学生は、聴こえるからこそ話しことば固有の特徴に慣れているのですが、逆に聴覚障害があり、かつ補聴器及び人工内耳の活用が困難である場合は、そうした話しことば固有の特徴に慣れているとは限りません。そのために、読みにくかったり意図や意味を捉えにくかったりします。しかもオンライン授業の場合は、自宅などで見るわけですから、近くに支援者がいるわけではありません。
 したがって、オンライン授業で音声認識による遠隔情報保障を使う場合は、誤認識を修正する体制をきちんと整備しつつ、日本語の話しことば固有の特徴はどういうものかを大体おさえておき、数行分の認識結果を俯瞰するように眺めて意味や意図を捉えてみるなど、認知的に負担の少ない読み方を工夫してみるとよいかもしれません。

ポイント6 疲れた「目」を回復するための食事や生活習慣の見直しをする

 他の解説でオンライン授業を受ける時に「目」を守る方法について提案しましたが、オンライン授業を受けていない時間でも「目」の健康を守る方法があります。
1.食事をしっかりとる
 「目」の健康に欠かせない栄養素がビタミンB群やビタミンAです。疲れ目に特に重要な栄養素がビタミンB群。以下の表を参考に日頃の食事に取り入れて栄養摂取してください。

表1 ビタミンB群およびビタミンAの役割と食品

画像6

2.「目」を休ませる生活習慣を身につける
①十分な睡眠時間と規則正しい生活を心掛ける。
②ツボ押しマッサージ
 目の周りのツボは、骨があるところを指で押して、気持ちがいいと感じたところにあります。目を押さないように注意しつつ、指でツボを強めに押します。また、こめかみや首筋、手の親指と人さし指の間にもツボがあるので、親指で揉むように刺激してください。
③眼球体操
 目を見開いて眼球を大きく回します。右回りと左回りをそれぞれ数回行います。体操後は目を閉じて休みます。
④まぶたを温める
 まぶたの血行をスムーズにするために、まぶたに温かいタオルをのせたり、湯のみから立ちのぼる蒸気をまぶたに当てたりしましょう。まぶたにシャワーを数分当てることも効果的です。
(②~④は「これって眼精疲労?目の疲れのセルフチェックの方法と対処法 | コンタクトレンズのメニコン」のHPより引用。 < https://www.menicon.co.jp/whats/column/detail2.html >[2020.5.8])

 以上、6つのポイントと解説を述べました。他にも大事なポイントがありましたら、その都度追加いたします。ろう・難聴学生にとってオンライン授業を負担少なく楽しく受講できる一助になればと思います。






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教員養成系大学教員。ろう者。障害当事者。ここでは日々思索していることをしたためています。 本文の最初にある画像は、その風景に心惹かれる度に撮っておいたものです。

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