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合気道マニアック本解説「武道家の答え」著:柳川昌弘

今回は空手家・柳川昌弘がインタビュアーとなって1986年頃に、岩間スタイルとして知られていた斎藤守弘先生と、合気会二代道主である植芝吉祥丸先生のふたりへ行ったインタビューがメインの本。

ふたりのインタビューを並べるってのもけっこう挑戦的な試みだ。

本が出版されたのはインタビューから20年後ということで「なんか色々あったのかもなぁ」などと思ったりもする。

この本の面白さはなんといっても二人の立場の違いだろう。

なんかこんなイメージがある

植芝吉祥丸と斎藤守弘

植芝吉祥丸は合気会という巨大組織の二代目道主であり、戦後に東京からはじまった「合気道」を全世界へと広めていった立役者でもある。

父であり合気道の開祖でもある植芝盛平以外には許されていなかった演武を他の師範がすることや、一般への公開、さらに大規模な全日本演武大会の開催、師範の海外派遣などなど革新的なことを数多くやってきた。

対する斉藤守弘といえば合気道開祖が戦前に拠点としてつくりあげた合気神社と道場で開祖に仕え、開祖の合気道をひたすら稽古して伝えてきた人である。

この二人はいわば保守派と革新派という合気道の中でも真反対のような立場にあって、回答も真逆で双方の立場の違いを感じさせるものだった。

考えてみると体形なんかも真逆だし、このふたりの関係は面白い。

伝統の岩間

斉藤先生のインタビューは伝統を継いできた本流であるという自負を感じさせるものになっている。

同時に、師範によっては岩間に行くなと言っているような人もおり、稽古内容も一部から疑問視されていたようだ。

スタンレー・プラニンが開祖の戦前のテキストである『武道』を見つけたことで剣や杖での稽古が証明されたという話も本人の口から語られる。

斉藤先生はこの『武道』を終生大事にしていたようだし、関連した書籍も出しているのは有名な話だ。

一方で植芝家の方でも『武道』はずっと所持していたわけで、なんとなく両者のすれ違いのようなものを感じる。

岩間と本部の両者に譲れないものがあったようにも思う。

岩間の流儀

時代の流れのせいなのか、伝統を守ってきた岩間の方が少数派になってきていたようではある。

けれどその根底に流れる考え方は頷けるものも多かった。

合気道を「自ら先に攻撃して成立する武道」としているのは稽古をしていても実際にそうだと思う部分があるし、相手を打ち砕くためでなく引き出すための攻撃というのもよくわかる。

そして固い稽古へのこだわりも、伝統へのこだわりなのだろう。


それはそれとしてずっと固い稽古だけ続けるのもなかなか難しそうではあるけど……。

本部のスタイル

これに対して吉祥丸道主は特別な修行法などなく、現代で社会の流れにあった武道を目指し、極意とはただ「ああ、なるほど」と思える心にあるといった事を語る。

身体や競技、競争での強さよりも心をひたすら磨くことを重視しているようで、これは老若男女様々な会員を持つ合気会が目指すべき道を示しているとも思う。

固さよりも柔軟性が目立つ考えだ。

大きな会派になれば強さをひたすらに目指す人だけではなくなっていくのも事実。

吉祥丸先生にしても、型の中でちゃんと当てを入れているし、自ら進んで攻撃するということもわかっていたとは思うけれど、同時にそれを全会員に求めるわけにはいかなかったのかも知れない。

二人の差異

斉藤先生は合気会の師範の中では最も長く開祖と稽古した師範だけれど、それは吉祥丸先生も同じような気がする。

開祖が息子であるから最も遠慮なく攻撃できたというような言葉も残しているし、特別な相手であったことは間違いないだろう。

そういう意味では二人とも同じ物を見ていたし、同じような稽古もしてきたのだろうけれど、それでいて結論が違うというのが面白い。

斉藤先生はあくまで合気道の中でも開祖の教えを忠実に守り、本質から外れれば固い稽古に対応できないことを示した。

対して吉祥丸先生は誰もが合気道をできるように、本質は型で示しつつも必ずしも勝った負けたといった競い合いをすることにこだわらなかった。

同じものを稽古してきて出した結論が異なる二人の大きな違いは、教える相手がどういった人なのか?という所にあるのかも知れない。

その他の内容

だいたい半分ぐらいのページが吉祥丸先生と斉藤先生に割かれており、あとは柳川先生のインタビュー後記や本人がやっていた和道流について、そしてインタビューというよりはちょっとしたコラムくらいの色んな武道家からのコメントが紹介されている。

正直、前半の二人が濃密すぎるので他は薄味な感じがしてしまう。

この本を読んで思ったこと

伝統を守る側と革新しながら広げていく側が同じ組織にいるというのは実はすごくいいことなんだろうけれど、そのパワーバランスが崩れると軋轢も生まれてしまう。

どんな組織や団体でも言えることだし、これをちゃんとバランスよく両立させる道はないものか、なかなか悩ましい。


おわり

マツリの合気道はワシが育てたって言いたくない?