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FXで100日後に億り人を目指すまつりちゃん【第0話】ここが私の底値だ!



「終乃(あとの)く~ん?売上の数字が間違ってて、経理が処理できないってクレーム来てたよ~?」


「す、すみません課長! すぐ直します!」


「いいんだよ気にしないで~。何か悩みがあったら、終業後にいつでも相談に乗るからね。2人っきりで……ぐふふ」


「…………」

(まったく、ちょっと若いからって贔屓されて、ふざけんじゃないわよ)
(あいつ派遣だろ? 契約を今月で終わりにしてくれないかなぁ)

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<自宅>


「まつり。会社はどう? 楽しい?」


「ああ、うん。楽しいよお母さん。
会社の人はみんないい人だから、心配しないで。
それより、おじいちゃんの具合はどう?」


「それが、ちょっと体調が悪いみたいなの。
まつり、悪いけど今日の夜は介護してくれる?」


「え、でも私、明日は朝から仕事……」


「お母さんは朝から仕事だし、早く寝たいのよ。悪いけどお願いできる?
 ……って、今何か言ったかしら」


「……ううん。わかったよ。私、頑張るね」

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……限界だった。何もかも。

私の心は安まることなく、摩耗していく一方。

どこかでストレスを発散する必要があった。


気がつけば、会社帰りのパチンコが私の日課になっていた。
規制が厳しくなり客が激減したパチンコ店で、私のような素人が勝つのは難しい。

競馬や競艇にも手を付けたが、やっぱり勝てない。

クレジットカードのキャッシング枠も使い切り、毎月の返済のために街金からお金を借りる始末だった。

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「おう姉ちゃん! 膨れに膨れたこの借金! どないするんや!」

「す、すみません! 来月まで待ってください! 必ず返しますから!」

「ギャンブルで借金作るような女の戯言、信じられるかい! 明日までに金用意できんかったら、風呂に沈んでもらうからな!」


「そ、そんな……」


私は逃げ出した。

借金取りが家にまで押しかけてきたからだ。

母と祖父のことは、弟に頼んだ。
何があったのか聞かれたが、答えらるはずもなく一方的に通話を切り、最低限の荷物だけをまとめて家を飛び出す。

会社も無断欠勤10日目。
派遣社員の私は、とっくにクビになっていることだろう。
働いた分の給料が振り込まれていたのはせめてもの幸いだ。



「やっと見つけたで。貸した金、耳揃えて返してもらおうか」


「…………」

「なに、別に命まで取ろうってわけじゃない。
2、3年。特殊なお店で働いてもらえばすぐに返せるさ。へっへ」

(……なんか、もうどうでもいいや)


「ちっ……イヤなもん見ちまったぜ。
だが見ちまったからには、見過ごせない主義だ」

「あ……あんたはもしかして『K』!?」

「消えな。今の俺は機嫌が悪い」

「くっ、くそ! ここは撤退するが、借金は必ず取り立てるからな!」

――タッタッタ!

「おい、そこの女」

「私ですか?」


「てめえ以外にこの場に女がいるかよ。
ついてきな。コーヒーぐらいは馳走してやるよ」

「…………」

……まあ、この人が悪い大人だったとしても、私にはもう失うものがありません。おとなしくついていくことにしました。



「は、え? え?」

なに、この高級マンション。
もしかして、この人って超大金持ち?

「あ、あの? あなたはいったい何者なんですか?」

「俺のことは今はどうだっていい。
それより、何があってあんなところにいたのか、話してみろよ」

「えっ?」

「死相が出てんだよ、お前。
俺はかまいやしねえが、お前にだって心配してくれるやつの1人や2人、いるんだろう? そいつらを悲しませてえのか?」

「…………」

「話せ。なに、悪いようにはしねえ」

あっけにとられつつも、私は、これまでのことを洗いざらい、この親切な人に話すことにした。

…………


「なるほど、300万の借金ねぇ……」


改めて自分の状況を整理してみると、泣きたくなる。
300万円の借金、無職。住所不定。
祖父と母のことは今は弟になんとかしてもらっているが、ずっとこのままというわけにもいかないだろう。

私の人生はもう詰んでいるに等しい。

「あの……そういうわけなので、私のことは放っておいてもらって結構ですよ。どこか人のいない山にでもこもって、ひっそりと生きていきますから」


「んな生活力たくましいようには見えねえな。
チッ、どうせ乗りかかった船だ。ついてこい」

有無を言わさない口調の彼についていくと、私はある部屋に案内されます。


「な、なんですかこの部屋? 怪しい臭いしかしないんですけど」


「俺が何者か聞いていただろう?
つまり、こういうことだ」

「こ、これは……いわゆるハッカーとか、そういうやつでは」


「誰が犯罪者だ。
俺はkeith.w。FXトレーダーだ。
この業界では『K』って呼ばれている」

「……K?」

「言っただろう。俺のことはどうでもいい。
それよりお前、金に困ってんだろう?
俺がなんとかしてやるよ」

「お金をくれるってことですか?」


「……俺がお前に与えるのはFXっていう強力な『武器』だ。
だが使い方を誤れば、すべてを失う可能性もある。
その覚悟があるなら、てめえに教えてやるが、どうする?」

「お願いします! FX教えてください……ッ! 借金返済して実家に戻れるようになりたいんです! なんでもしますから、師匠!」

「誰が師匠だ。
だが良い覚悟だ。じゃあ、早速だが……」

「まずは?」

「まずはバイトだ。軍資金30万を作るところから始めるぞ。
安心しろ。稼ぎのいい短期のバイト先を紹介してやろう」

「わ、わかりました!」

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1カ月後……

「30万円はできたか?」

「が、ガチできつかったです……
あのバイト、2度とやりたくありません」

「安心しろ。今回のバイトは俺が口利きしてやった特別な仕事だ。普段はお前みたいな貧弱にやらせる仕事じゃないし、内容的にはそう何度もやれるような仕事でもないだろう」

「そうですよね……よかった」

「じゃあ早速確認するが……たしか30万円分のシフトには入ったよな……?
なんで10万円しか通帳にないんだ?説明してみろ」

「ああ、えっと。キツいバイトが終わって気が緩んでしまったというか……久々に見る大金に思わず散財しちゃって……あと、わたし、船のレースが好きなんですよね。それでつい……」

「…………」


「ひえっ……」

「……いいか。2度目はない。
次にそんな真似をしてみろ。ボートに体をくくりつけて
太平洋横断させるぞ」

「すみません!2度としません!だから命だけは……ッ!」

「1つ、約束しろ。
FXを教わる気なら、今後一切のギャンブルは禁止だ」


「えっ? FXもギャンブルですよね」

「厳密には、な。だが、ギャンブルだと思ったらFXは負ける。
……まあ、それは追々わかってくる。
じゃあ、軍資金は10万で始めるようか」

「お願いします!師匠!」

「……だから師匠と呼ぶな。
教えるにあたって3つの条件を付けさせてもらう。
まず、最初のトレード資金は5万円。
それから、お前に教えるのは取引日で100日ピッタリだ」

「その心は?」

「……お前の性格はよくわかった。
10万円全額最初から突っ込んだら、お前の場合はすぐ溶かす。
だから最初は5万円からだ。
あと、期間を決めないといつまでも居座りそうだから取引日で100日。
休場のときや、お前が休む日は含めないでおこう」


「100日で300万の借金を返すとなると……
日給3万円? 無理ですよぉ!」

「安心しろ。相場の流れとお前の勉強次第だが、その10倍だって稼げるのがFXの世界だ。そして最後の条件は、最初に言ったが、他のギャンブルもきっぱり辞めることだ。

それができるなら、お前に俺のすべてを教えてやろう」


考えるまでもない。
私の人生は、ここが底。
ちょっと調べたが、FXでは1番低いときの値段を「底値」というらしい。

今日を、私の人生の「底値」にしてやる……!

「お願いします。私に、FXを教えてください!」

「ふっ……よく言った。じゃあまずは……」

「まずは……?」

「バイトを探すところからだ。生活費ぐらい自分で稼ぎやがれ。
もちろん、お前が自分で探せる安全なやつをだ」

「FXで稼ぐんで、当面の生活資金を貸してくださいよぉ」

「あまったれんな。
だいたい、部屋の中に引きこもってると精神衛生上よくないし、負ける。
FXでは、気分転換も大事なことだ」

「……なんかうまく言いくるめられている気が」

「俺としては、今すぐここから出ていってもらっても構わないんだが?」

「がんばりますぅぅっ!」

こうして、私のFXトレーダーとしての生活は、始まったのだった。


現在の借金額残り:300万円


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