知財侵害の懲罰的賠償について

■友人の弁理士から、商標法の損害賠償として、TPPの規定から、第4の計算方法として、「権利取得および維持にかかった費用」が規定されていると、教えてもらった(商標法38条5項)。
商標の不正使用の場合という条件はついているものの、条約にあるので国内法にも追加されたわけだ。特許庁のウェブサイトでは、「TPP協定上、商標の不正使用について、商標権の法定損害賠償制度又は追加的損害賠償制度の導入が要求されています・・」と説明されている。これは一種の抑制的効果があるといえる。個人的には、こんな離れ業で、商標法に損害賠償の規定ができるとは思ってなかった。


中国は数年前に特許法に、米国のような懲罰的賠償規定を入れている。その説明としては、以下のようなものがある。
https://www.jpo.go.jp/resources/report/takoku/nicchu_houkoku/document/2020/r2_houkoku2.pdf
要するに、侵害を防ぐためには、懲罰的賠償のような考え方を入れないとだめということである。

 日本は、特許については、知財侵害について、懲罰的賠償規定は存在しない。その理由は、損害賠償とは、あくまでも原状復帰という民法の考え方をベースとしているからというのが通説である。
しかし、この理屈もなんか守られていないように思える。たとえば、この考え方だと、通常のライセンス料が5%として、侵害が確定してからは、過去分については5%とすべきである。なぜなら、損害賠償は遺失利益の補填であるので、通常のライセンス料で十分だからである。
しかし、もし、そうすると、だれも事前にライセンスしない。そこで、裁判で、侵害確定後の損害賠償では、通常のライセンス料よりも高くなるという考え方自体は、実務上の裁判所でも認められている。でも、これって、一種の懲罰的賠償なのではないのか。
もちろん、判決文には「様々な状況を考慮して総合判断すると○○%が妥当」としかかかないので、それ自体はわからない。

■知財の保護をどうするのか?
日本は、20世紀までは、有体物を売るビジネスで生きていたが、これからはそういうわけにはいかなくなる。それができないと、知財の保護なんかできない。
そもそも、知財は無体物に権利があるので、有体物とは異なる考え方をする必要があるのに、民法の考え方でいうと・・・という旧来の考え方から脱皮できないと、だれも日本で知財を取ろうとは思わなくなる。
確かに、特許権者が実施していれば、特102条1項、2項の規定が使えるし、かつ、限界利益という考え方で、裁判所が賠償額を高く認定することは可能となっている。しかし、当然、特許権者が実施していない場合はこの規定は使えない。

■改正できるのか?
現実に法改正となると、いろんな反対がでるだろう。これを解決するには、商標のように、「TPPで知財保護の懲罰的賠償があるので、特許法にも入れます」という状況にならないと無理なのかもしれない。

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