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28 手術

ちょっとは飛行機で鹿児島の動物医療センターへ送られ、会陰ヘルニアの手術を受けた。家では家主のいないケンネルが玄関でぽっかり口を開けている。集落を歩くと「お供はいないの?」とオバァたちから尋ねられた。「入院中で」と答えると「アゲェ、可哀想に」とオバァたちは口々に言った。「いつ帰って来るの」「まだわからない」
2週間が過ぎた頃、鹿児島へ行く用事が出来た。ちょっとに会うべきか迷った。あと一回手術が残っており、この先も入院生活が長く続く。会ってしまえば帰れるものと糠喜びをさせてしまいそうだ。動物医療センターで先生から話を伺うスケジュールは組んでいるが、ちょっととは会わない方が良い。そう決めた。

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動物医療センターではタブレットで監視カメラの様子を見せてくれた。ちょっとが檻の中で大人しく横になっている。先生から話を伺い質問を繰り返す。タブレットの中のちょっとがソワソワし始めた。遠く離れた診療室での飼い主の声に気が付いたのか。

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なおも先生の話は続く。私と妻が相槌を打つ。タブレットの中のちょっとが遠吠えを始めた。「ボクはここにいるよ!」と叫んでいる。そのくらいはわかる。家族なのだから。ちょっとが気付いてしまった以上、会わないわけにはいかなかった。いや、それよりも飼い主である私と妻の方が会いたかったのだ。エリザベス・カラーを付けたちょっとが檻の中で叫んでいた。先生が檻から出してくれた。

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抱き合うよりも嬉しくて嬉しくてちょっとは走り回る。お尻から出血しているように見える。床に赤いものが付いた。「もう中に入ろうね」ちょっとは再び檻に入れられた。私たちは動物医療センターを出た。背後でちょっとが遠吠えをしていた。

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