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原作ファンから観た「映画マチトム」感想――冒険する心さえあれば、いつでもどこでも冒険できる【微ネタバレあり】

中学生だった自分に教えてあげたい! 愛読書であるはやみねかおる先生の『都会のトム&ソーヤ』が実写映画化されて、観に行ってきたよと。


※ここでは「映画マチトム」の軽微なネタバレを扱います。映画の内容そのものに関するネタバレはありませんが、一部結末を想像させる表現がありますので、これから鑑賞予定の方はご注意ください。​


さて、まずは映画の感想を単刀直入に言うと、「マチトムの世界そのもの」だった。ザ・普通の中学生な内人くんと、クールで知的なのに大人にも挑戦的な創也。原作の挿絵と瓜二つな堀越美晴。
そして、不敵なオーラを放っている栗井栄太。彼らが作った常識外れの大規模なリアル・ロールプレイングゲームは映像で観ると途方もないほどド迫力で、「栗井栄太が本当に存在したら確かにこんなゲームを作るはずだ」という説得力があった。
原作ではゲームの舞台にするために村を丸ごと買い取っていたくらいだ、栗井栄太なら徹底的に細部までこだわり、今回の「エリアZ」のようなクオリティのリアル・ロールプレイングゲームを実現させるに違いない。文字で楽しんでいたときよりも映像のほうが、情報が視覚からダイレクトに入ってくる分、栗井栄太が手掛けるゲームの完成度の高さと彼らのゲーム作りへの情熱がひしひしと伝わってきた。

(私は特に”栗井栄太推し”なので、どうしても彼らに感情移入したりゲームの出来に感動したりしてしまう。だってあのクセの強い四人組が同じ目的のもとに集っているの、魅力的でエモーショナルでたまらないでしょ?)

内人と創也が選択した、ゲームの終わらせ方がまた良かった。”一般的なゲームらしいクリア方法”よりも、”リアルで行われているからこそ考えつくようなクリア方法”があり、内人と創也が見事にそちらを選んでTRUE ENDにたどり着く。
もしかすると前者のルートを選んでもGOOD ENDになったのかもしれないが、「みんな」への優しさが生きたエンディングが見られてこそのTRUE ENDだろう(はやみね作品によくある、最後は敵キャラを含めて鮮やかに救ってみせるような「らしさ」もあった!)。映画のところどころにTRUE ENDまでの伏線も貼られていて、観客も推理できる仕掛けになっていたのも面白かった。

実は、映画を観る前は少し心配だった。正直なところ、原作のマチトムが大好きで思い入れがある分、今回のオリジナルストーリーが微妙だったらどうしようという気持ちがあったのだ。何もオリジナルにしなくても、『ゲームの館』や『IN塀戸』の話を実写化すれば確実に面白いのに、と。

しかし杞憂だった。そもそも、脚本があの『おっさんずラブ』の徳尾さんで、謎解きにもしっかり監修がついている(今回初めて知ったのだが、謎監修のSCRAPさんはさまざまなリアル脱出ゲームを手掛けてきたクリエイターさんらしい)。キャストも若手実力派や人気俳優がそろっている――だって神宮寺直人役に市原隼人さん、鷲尾麗亜役に本田翼さんだ!

この二人は見た目こそ原作とは違うが、神宮寺さんの「一見”ヤ”のつく仕事をしていそうでチャラそうなのにカリスマっぽい雰囲気」はドンピシャだったし、麗亜さんの「ゴーイングマイウェイであっけらかんとしたお茶目なお姉さん感」もハマっていた。
ジュリアスは原作のように「創也を敵視している生意気な子」という感じが出ていて、何より原作ファンにとってはジュリエットを見られたのもうれしい。ジュリエットをかわいくするために、ももクロの玉井詩織ちゃんをキャスティングしたのかもしれないな、と思った。
そして柳川博行役の森崎ウィンさんは、グラフィック&音楽担当で忙しいであろう”柳川さんらしさ”の中にかっこよさが入り混じって反論の余地がない……! もし映画マチトムの続編があれば、柳川さんのアクションシーンをぜひ観たい(私は”栗井栄太箱推し”だが、中でも特に”柳川推し”なのだ)。

以下、まとめるほどではない感想をざっくり記していく。

・卓也さんのキャスティングが最高だった。創也との対話のシーン、卓也さんの揺れ動く気持ちが伝わってきてよかった
・真田女史が原作から抜け出してきたのかと思うほど真田女史だった(ビジュアル、声、喋り方ect……)
・内人くんが常に仲間思いの優しい子でほろりとした
・創也の「That's right」と内人くんの「ざっつらいと」の違いにファンはニヤリとしたことだろう
・ピエロが本気で怖かった

映画を観て、マチトムを愛読していた当時に抱いていたはずの”冒険へのあこがれ”がよみがえった。原作一巻のあとがきで、はやみね先生が「冒険する心さえあれば、いつでもどこでも冒険できる」というようなことを書いていたのを強く覚えている。ミシシッピ川がなくても、少年じゃなくても、冒険する心があればトム・ソーヤになれる。内人と創也が冒険するのも都会の下水道・デパート・テレビ局など身近な場所で、何気ないマラソンの授業がスリル満点の大脱走劇になったりもする。

当時マチトムを読みながら、私も閉館後のデパートにこっそり居残って探検してみたい、と切に思ったものだ(決して真似してはいけないが)。大人になると、冒険する心をなぜ忘れてしまうのだろう? 

はやみね旋風はまだ続く。ABEMAのドラマ版マチトムは現在も放送中だ。こちらは結構原作に寄せていて「ピクニック」も「グレートエスケープ大作戦」も出てくる。

また来年は、同じはやみね作品のひとつである『怪盗クイーン』のアニメ映画も楽しみだ! クイーンやジョーカーくんが銀幕で派手に大暴れする姿が見られるなんて、これも当時小中学生だった自分に教えてあげたい。内人と創也のように”冒険する心”を携えて、また赤い夢の世界に浸れるのを待っていよう。

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