夢見る窓辺
夢見る窓辺
窓って不思議です。
壁で分けられた、そちら側とこちら側、二つの世界をつなぎます。
家の中と外、動く電車と動かない町並み、
空気のある宇宙船内部と、真空の宇宙なんかもそうです。
牢屋の窓は、自由と不自由を、
嵐の夜には、安全と危険を、
そして、あらゆる窓は、有限と無限の窓でもあるのです。
さて、そんな難しい話は置いておいて、
これは、窓を通して二つの世界がつながってしまった女の人のお話です。
ある晴れた日の夜、
かつての女の子、今はもう大人になった女の人は、
窓辺に置いた小さなひとり用のテーブルで、頬杖をついていました。
窓辺に座った女の人は、
はじめは夕飯の献立や、明日の予定について考えていても、
気がつけば、その「考え」は頭の中からいなくなってしまいます。
考えようとしていないことや、考えようとしたって考えられないことが、
次々と女の人のもとにやってきます。
それはさながら、覚めながら見る夢でした。
その日も、はじめ女の人は何かを考えているようでした。
お昼に食べたカボチャのスープのことを思い出していたのでしょうか、
それとも、明日会いにいく友だちの家の、サビネコのことを考えていたのでしょうか。
しかしだんだん視線が空中を漂って、「考え」が頭を留守にすると、
女の人の心は、過去の夢を写しはじめました。
6歳だった女の人は、白いパフスリーブのワンピースを着ていました。
はじめて膨らんだ袖に腕を通して、胸を躍らせ、窓から身を乗り出して空を眺めていました。
「今日は流星群が降るって。」
今日のお昼間にお父さんが言っていたのです。
「リュウセイグンって?」
「たくさんの流れ星だよ。」
流れ星がたくさんってことは、お願い事がたくさん出来るってこと!
女の子は思いました。
今にもこぼれ落ちてきそうな星空に、女の子はいてもたってもいられなくなって、庭に飛び出しました。
裸足の足に、草と土のしっとりとした感触を冷たく感じます。
庭には、クローバーが茂り、つゆ草が花を咲かせていました。
ブルーベリーは青い実をつけ、
高いジューンベリーの木が葉っぱを揺らしています。
お父さんとお母さんが後ろで笑っていて、
お庭は暖かくて、空は澄んでいて、
オレンジ色の明かりが、レースのカーテンから漏れて、
女の子は落ち着きなく、視線を右へ左へ空に走らせ、
そしてとうとう、無数の流れ星が、次から次へと、
細い絵筆で光の線を描くように降ってきました。
お願い事をしなきゃ!女の子は目をつむりました。
黒くてふわふわの犬を飼えますように。
チョコチップクッキーをたくさん食べられますように。
レタスが夕飯に出ませんように。
インコのピッピが長生きしますように。
すその長いワンピースが着られますように。
上手に泳げるようになりますように。
魔法の絨毯がサンタさんにもらえますように。
サンタさんの悪い子リストにのりませんように。
ああ、大事なお願い事を忘れていた、
お父さんとお母さんとわたしが、ずっと一緒にいられますように!
頬杖をついた女の人は、すっと目を開けました。
いくつかの願い事は叶い、いくつかは叶いませんでした。
あの日、私は流星群を見たのかな……
今となっては、夢か記憶か、本当のことは分かりません。
窓は時に、過去と今を繋げることもあるようです。
額縁サイズ:約220mm×275mm
使用画材:水彩・アクリルガッシュ
SOLD
−個展詳細−
個展「筆が編むレース」
2021/8/25(水)〜9/5(日)
at ranbu Space A → http://blog.ranbu-hp.com
12:30-19:30 火曜日定休
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