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森の秘密の秘密

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森の秘密の秘密

どんな森だって、秘密のひとつやふたつは持っているものです。
今からお話しするのは、ある寒い国の森の秘密のお話です。

その寒い国は、国の土地のほとんどが森で覆われています。森の中に国があったという方が、本当かもしれません。
森のところどころに、人間が切り開いた土地があり、点々と村があります。村の周りには畑や原っぱが広がっています。

どの村もおおよそ似たようなつくりをしていて、真ん中に最も高い建物として教会があり、その周りに木造の民家が寄り添うように建っています。
村人は、大人になると羊飼いや農家、皮職人、仕立て屋、パン屋などの職につき、生きるのに必要なものは、小さな村の中で全て揃いました。
子どもの頃は、原っぱを駆け回ったり、学校に行ったり、お父さんやお母さんの仕事の手伝いをしました。

ニーヴは、そんな村に住んでいる、7歳の女の子です。
ニーヴの村では、学校に通い始める7歳から、森に行くことを許されていました。怖れや迷いのない幼子は、森の妖精に騙されて、小鳥に変えられてしまうと信じられていたからです。

ニーヴは怖がりな子どもでした。
赤ちゃんの頃、やっとつかまり立ちをするようになったニーヴを、お父さんが原っぱに連れて行ったことがありました。まだ地面を踏んだことのない柔らかい足の裏に、原っぱの感触を教えてあげようとしたのです。
ところが、お父さんが腕に抱いたニーヴを地面に立たせようとしても、怖がりなニーヴは決して足を降ろしませんでした。
ぐいっと膝を曲げ、カエルの足のような格好で踏ん張っているニーヴの姿を、お父さんとお母さんは度々思い出し、いつまでも可笑しそうに話していました。ニーヴは、くすぐったいような、恥ずかしいような気持ちになりました。

その他にも、怖がりで慎重なニーヴの話はいくらでもありました。
はじめて見た雪にびっくりして、必死に雪を避けながら歩くニーヴ。
はじめて針仕事を教わった時、全ての指に指ぬきを刺したニーヴ。
はじめて学校に行く前日、持ち物をカバンから出したり入れたりして、15回も確認したニーヴ。
「ニーヴなら森に行っても妖精にさらわれっこないねえ。」
お父さんとお母さんは笑いました。

そんなニーヴが、はじめてお母さんに森に連れて行ってもらった日のことです。怖がりなニーヴが、どんどん前を歩き、森の奥へと進んでいこうとするのを、お母さんは驚きながら見守っていました。
「ニーヴ、お母さんの見えるところにいてね。」
お母さんが声をかけました。

森は、突然舞い込んできた可愛い女の子に目を細めました。
ニーヴは森の木、一本一本に声をかけて回りました。ニーヴが挨拶をすると、ハンノキやニレの木が、腰をかがめて挨拶を返しました。
「ねえねえ、わたしニーヴよ」
「そう、あなたニーヴなのね」
森は枝を揺らしてお喋りをしました。ニーヴはきゃっきゃっと笑いました。

ニーヴは嬉しくてドキドキして、まるで小鳥が胸の中を飛び回っているみたいでした。
「もっとこっちへいらっしゃいよ。」
森はニーヴに話しかけました。
「そっちに行けばなにがあるの?」
ニーヴは聞きました。
木の葉がざわざわと鳴りました。それは楽しげな音楽のようにニーヴを誘いました。

ニーヴは奥へ奥へと進みました。お母さんがキノコをとるのに、ニーヴから目を離していたほんの一瞬のことです。
「あなたの小鳥、素敵ね。」
森が言いました。
「あなたの小鳥をちょうだいよ。」

「ニーヴ!待ちなさい!」
お母さんの声が森に響きました。
ニーヴは胸の中の小鳥を森に差し出そうとしていました。
お母さんの鋭い声に驚いて立ちすくむニーヴに、お母さんは必死に駆け寄りました。そして、ニーヴの手の中で今にも飛び立たんとする小鳥を、ニーヴの胸に押し込みました。
小鳥は、羽をばたばたと2、3度はばたかせてから、「きゅるる」という細い鳴き声と共に、ニーヴの胸の中へ戻っていきました。
お母さんは耳をニーヴの胸に当てて、心臓が動いていることを確かめました。心臓は、トクトクトクトクと、早い鼓動を打っていました。
お母さんはニーヴを抱きしめて、ニーヴはぼうっと立ち尽くしていました。

色や大きさも様々な可愛い小鳥たちが、木の上からその様子を眺めていました。
木の葉がまたざわざわと揺れて、小鳥たちはどこかへ飛んでいってしまいました。

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額縁サイズ:訳220mm×275mm
使用画材:水彩・アクリルガッシュ
27,000+tax

-個展詳細-
個展「筆が編むレース」
2021/8/25(水)~9/5(日)
at ranbu Space A → http://blog.ranbu-hp.com
12:30-19:30 火曜日定休

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